17-3
その後、4戦目、5戦目と戦い、ついに最後の6戦目を残すのみとなった。
正直、かなりキツい。10分間の休憩なんて、有って無いようなものだ。二次試験の3日間よりも、今日の方が激しく動いている気がする。
だけどそれは、今日が駄目なら終わるという焦りからきているものではないことは、わかっていた。
ここに来てようやく、私は自分の成長をはっきりと実感していた。
今日戦った5人は、とても強かった。おそらく、これから戦う6人目もそうだろう。
だけど、負ける気がしない。
これまでの5戦同様、不安なんて一つも感じていない。心は自信に満たされ、とても落ち着いている。風が無ければ波も無い。
フランカたちにいろいろと声を掛けられてはいるけれど、それでも私は、静寂の中にいる。
「ティナさん」
最終戦の舞台に向かう私の背中に、マリサの声が触れる。足を止めて振り返ると、そのきれいな顔がすぐそこにあった。
「あなたは負けない。私にはわかる」
まるで預言者のようなことを言うんだね。
でも、マリサにそう言ってもらえると、なんだか心強いというか、単純に嬉しい。
「ありがと。行ってくる」
私はマリサに手を振り、そしてその後ろで私に声援を送っているフランカとイライザにも手を振り、舞台へ上がった。
最終戦の相手は、一度戦ったことのある子だ。二次試験で、同じC組に振り分けられていた。
以前戦った時は、45対42で私が負けた。3連敗した時の、苦い思い出だ。
だけど、あの負けは必要だったと思う。あれが無ければ、私は成長できなかった。そう思うんだ。
そして、今度は負けない。あの時の私とは、違うのだから。
剣を構え、その時を待つ。
「はじめっ!」
審判の声が響き渡るのと同時に、相手が勢いよく肉薄してきた。
迫り来る切っ先を、上体を大きく後ろへ反らして躱した私は、そのまま身体を捻って剣を突き出す。
しかし、その攻撃を読んでいた相手は、首を少し動かして、直撃を避けた。
剣を引き戻すのと同時に足を細かく移動させて身体を回転させると、そこから攻撃に移る。
相手も剣を構え直し、それに対応する。低い位置からの私の攻撃は、相手の刀身に軽々と受け止められ、そのまま弾き返された。
バランスを崩した一瞬を突かれ、腕に一撃食らう。
そのまま畳み掛けようとする相手に対し、私は剣を構えずに、逃げる。
当然、相手は私を追いかけ、攻撃範囲に入ったと見るや、剣を振ってくる。私はその軌道を見ながら、足捌きだけで躱し続けた。
相手の攻撃は、威力はなかなかのもので、狙いも的確だ。だけど、私はそれを難なく躱していた。
攻撃を避けることだけに集中すれば、難しいことじゃない。相手の剣閃は速いけど、目で追えないほど速いわけではないからだ。
「……」
回避を続けながら、私は自分の力を試してみたいと思っていた。
相手にわずかでも隙ができれば、一気に攻め込んでやろうと目論んでいる。だけど、なかなかそのチャンスは訪れない。
相手は私を追いかけながら剣を振り続けているけど、体力はまだまだ充分に残っているようで、剣の動きや速度が衰えを見せることはない。
まぁ、それは私も同じだ。攻撃をしていない分、おそらく私の方が体力的な余裕があるんじゃないだろうか。
連戦で疲れてはいるけど、条件は相手も同じ。だったら、少しでも温存しておいた方がいい。
でも、時間的な問題がある。試合時間はあとどれくらい残っているだろうか。
そろそろ、攻めた方がいいか。
「!」
痺れを切らしたか、相手はぐんと速度を上げ、私の眼前にまで迫ると、すでに構えていた剣を袈裟懸けに振り下ろしてきた。
――よし、ここだ!
私は後ろへ軽くステップしつつ、剣を振り上げ、相手の攻撃を受け止める。そしてそのまま刀身を滑らせて小さく弾くと、相手はちょうど剣を振り上げた状態となる。
瞬時に衝突するほどの勢いで前進した私は、思いきり剣を振り、相手の額から側頭部へ切っ先を走らせた。
鋭く呼吸をし、剣を引き戻すと同時に相手の剣を再び弾き、胸を刺突。さらに一撃加えたところで相手の剣が横手から襲ってくるけど、三度それを弾き飛ばし、右斜め下から胸を斬り上げる。
そのままさらに大きく一歩前進し、相手を逃がさない。
刃の向きを瞬時に変え、左上から袈裟懸けに胸を叩く。相手は焦燥に駆られた表情で剣を振ってくるけど、その時すでに細かいステップで相手の背後に回り込み始めていた私には当たらない。
隙だらけの背中を一閃。相手が身を翻すのと同時に大きく横へ跳び、もう一度背中を叩く。
焦りから怒りへ顔色を変えた相手は、私の懐に大きく踏み込み、胸を狙ってくる。その動きについていけずに一撃もらいながらも、私は怯むことなく、相手の左手へ抜けると同時に腕を薙いだ。
そこからお互いに振り返るのはほぼ同時。剣を振り下ろしたのもほぼ同時だった。
バシッと鈍い音を立てて剣がかち合い、互いに力任せに押し合う。力比べはほぼ互角。
いや、わずかに相手の方が勝っていた。それならばと瞬時に剣を寝かせて横へ跳ぶ。相手は勢い余ってたたらを踏み、こちらに振り返るのと同時に私の攻撃を胸と腕に食らった。
ポイント的には、相当差がついているはず。しかし相手は諦める素振りも見せず、今までと変わらない勢いで攻撃を続ける。
そこからは、一進一退の攻防。私も相手も、怒涛の勢いで攻撃を繰り出す。
小細工無しの打ち合いは、どのくらい続いただろうか。
私は、抑えきれないほどの心の高揚を感じていた。それは相手も同じなのか、その口元には笑みが浮かんでいる。きっと私も、同じような顔でいるのだろう。
ただただ、戦うのが楽しかった。
「そこまでっ!」
審判の声と共に、私たちの動きは止まる。刃を合わせたままの状態で。
互いに肩を激しく上下させ、頭から流れ落ちる汗で、顔はびしゃびしゃだ。
どちらからともなく、私たちは静かに剣を引き、構えを解いた。そして、見つめ合う。
「58対68で、受験番号2079番の勝ち!」
終わってみれば、10ポイント差まで追い上げられていた。途中までは、その倍以上の差があったはずなのに。
だけど、悔しくはない。心は、とても満たされていた。
私たちは歩み寄り、笑顔で、互いの手を強く握り合った。




