17-1
翌日、私はまた舞台の上に立っていた。擬似剣を手に、対戦相手を見据える。
最終試験へ進めるのは35人。
その内の33人分しか枠が埋まらなかったため、二次試験で6敗だった7人の総当り戦を行い、足りない2人分を補充する。
試験施設の1番棟に集合したのは、私たち7人のほかに、十数人ほどの受験者の姿があった。そのほとんどが、私たちの応援としてそこにいる。
おそらく、この試験場に来てから仲良くなった、それぞれの同室の子たちだろう。
私の応援として、フランカら3人もその中にいる。
昨日の一件で、フランカとマリサの仲が悪くなっちゃうかなと心配したけど、杞憂だった。余計なことを言ってしまったと謝るフランカに対し、マリサは特に怒っていない様子で、普通に接していたから。
そして、今も並んで私のことを見ているし。……よかった。
「では、これより、試合を開始する」
おっと。そんなことより、今は自分のことを考えないとね。
一度に行われるのは3試合。私たちは7人だから、毎回1人余ることになる。
その1人は、ほかの子が戦っている間は休憩だ。
1人6戦あるんだけど、それらは全て午前中に行うらしく、当然、結果も午前中に決まる。
……荷物をまとめることにならないよう、そして、ここでフランカたちと一緒に昼食を摂れるように、しっかり勝ち進んでいかないとね。
初戦の相手は、受験番号2044番。小試験の結果で見れば、私より格上だ。
ていうか、その視点で見るなら、7人の中で私が一番格下なんだよね。
だけど、私は彼女らと同じ6敗でここに残っている。決して敵わないわけじゃないだろうし、もちろん、負けるつもりも無い。
ただ、ここにいる7人全員の力が拮抗しているだろうから、一瞬でも気を抜けば命取りになるのは必至。
私は大きく深呼吸をし、精神統一に努める。
……余計なことは一切考えるな。目の前の相手にだけ集中しろ。
「はじめっ!」
審判の声と共に、私たちは動き出す。
……相手の動きをよく見ろ。
動きを見て、流れを把握し、どうすべきかを考え、それと同時に身体を動かせ!
横手から襲い来る刀身をしゃがんで躱し、その腕をくぐり抜けつつ相手の胸に一閃。
相手が慌てて間合いを取ろうとした一瞬の隙を突き、返す刀で側頭部に一撃食らわし、わずかにバランスを崩したところへ、さらに返す刀で再び胸を狙って剣を突き出す。
しかしそれは刀身で払いのけられ、反撃の刺突を腕に食らう。
一旦間合いを取り、呼吸を整える。
……強い。強いけど、敵わないほどじゃない。このまま落ち着いていこう。
再び相手に向かって駆け出し、激突。
刀身を交わらせ、力比べだ。
「……ぐっ」
力では、わずかに私が負ける。刀身を頭に触れるギリギリまで押し込まれ、ここで力を抜けば確実に攻撃を食らうというところで、私はあえて力を弱めた。一気に、相手の剣が迫る。
そこで横へ軽く跳ぶ。相手は目を見開き、勢い余って前のめりになる。
そこを、すかさず攻撃。袈裟懸けに振り下ろした剣は、確実に相手の頭部を捉えると思っていた。
「!」
が、私の剣の軌道を読んだかのように、相手はバランスを崩した状態のまま腕を上げ、私の攻撃を防いでみせた。
そのまま身体の捻りと共に私の剣を弾き、床を蹴って突進してくる。
繰り出される刺突は、私の腕を捉え、その勢いで私の身体も揺らぐ。
私の眼前で急に方向転換した相手は、私の右手を通り抜けると同時に剣を振ってくる。
咄嗟に身体を逆に捻り、その一撃を左横腹で受け止める。そこなら、ポイントにはならない。
「――うぐっ」
強烈な衝撃と激痛に、バランスを崩しそうになる。
両足に力を込めてどうにか堪えた私は、私の横を通り抜けていく相手の背中に左斜め下からの斬り上げの一撃を食らわし、相手が剣を振りつつこちらへ身体を回転させるのを見越して、後ろへ跳ぶ。
予測通り、横薙ぎの一閃が、私の半歩前の空を裂いた。
そのすぐ後に再び相手に近づき、左に溜めた剣を振り、相手の頭部を揺らす。
きれいに入った一撃で脳が揺れたのか、相手は足取りが怪しくなった。
そこへさらに踏み込んだ私は、大きく振り上げた剣を体重をかけて振り下ろし、容赦無く相手の頭を殴る。
その衝撃を全く殺せずに食らった相手は、そのまま床に倒れて動かなくなった。
「やめっ!」
審判の1人が、さらに攻撃をしようとする私の前に割って入り、ほかの審判が倒れた相手の様子を見に駆け寄る。
審判に何度か声を掛けられた後、相手は目を覚ました。
だけど彼女が、すぐに起きて試合を続行できる状態ではないことは、私にもわかった。
「受験番号2044番、試合続行不可のため、受験番号2079番の勝ちとする!」
ややあって、私の勝利が告げられる。
協会員らに支えられて立った相手に、私は歩み寄り、手を差し出した。
相手は「あんた、強かったよ」と口の端に小さく笑みを浮かべ、私の手をぎゅっと握る。
そして、協会員に支えられたまま、舞台を下りていった。
その少し後に、ほかの舞台で「そこまで!」と審判の声が上がった。
よし。まず1勝。……勝ててよかったぁ~。
「最後の二発は凄かったよな。あんなのまともに食らったら、あたしでも立ってられるか自信無いわ」
舞台を下りた私のもとへ、イライザらが駆け寄ってきて、口々に私の試合に対する感想を言っていく。
「そうですよね。本当にきれいに決まっていましたもの」
盛り上がるイライザとフランカとは対照的に、マリサはやっぱり静かだ。静かに、淡々と、感想を紡いでいく。
「最後の攻撃だけじゃない。それ以外にも、目を見張る部分はあった。きっとティナさんは、戦いの中で成長していくタイプなんだと思う。発展途上で、まだまだかなりの伸び代がある」
彼女の言葉が、一番嬉しかった。
だけど、1勝したくらいじゃ気は抜けない。嬉しかったけど、それを見せないように、「ありがと」とだけ返しておいた。
「あと5戦ですね。この調子で頑張って下さい、ティナさん!」
「おう、そうだぜ。このまま一気にいっちまえ」
「大丈夫。勝てる」
彼女らの激励に、私は拳をぎゅっと握り締め、「うん!」と大きく頷いた。
せっかく拾ったチャンスなんだ。絶対、物にしてやる。




