表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/106

16-4

 いつも、席を取るのも難しいくらい賑わっていた食堂は、思わず足を止めて眺め回してしまうほど、閑散としていた。


 それもそのはず。二次試験で不合格が決まった受験者らは、もうここにいる理由が無い。

 私たちが部屋で話し込んでいた間に、荷物をまとめて試験場を後にしていたようだ。


「……随分、減りましたね」

 思わずといった感じで呟くフランカに、私は「そうだね」と頷いた。


「まぁ、わかってたことだろ。それより、さっさと座ろうぜ」

 私とフランカの横を、イライザが通っていく。マリサは、すでにいつものテーブルにたどり着いていた。


「ティナ。フランカ。夕食はあんたらの番だよな。早く持ってきてくれよ~」

 いつも通りにマリサの隣に座ったイライザが、私たちに声をかける。


「あ、うん」

 私はフランカと一緒に、4人分の夕食を取りに向かった。




 今日の夕食は、とにかく肉がメイン。いつもよりかなり豪華で、かなり脂っこい。

 多分だけど、ここにいるのは二次試験を突破した受験者たちだから、そのお祝いってことじゃないだろうか。


 ……でも、私はまだ突破してないんだよなぁ。

 はぁ……。複雑。




「んー、美味い!」

 こんがり焼けた肉を、イライザは幸せそうに頬張っている。


 テーブルの真ん中には、焼いたり蒸したりしたあらゆる肉の塊が大量に積まれた皿があり、4人で手分けして食べている。


 イライザの横で、マリサは大きなステーキをナイフで切り分けて、一切れ一切れ味わっている。

 私の横では、フランカがナイフとフォークを上品に扱って食事をしているけど、その皿に乗っているのが分厚い肉の塊だから、優雅さは半減している。


 私はといえば、彼女たちのように食が進まず、さっきからもそもそとサラダばっかり口にしていた。


「なんだよ、ティナ。葉っぱばっか食ってねぇで、肉食えよ。こんなにあるんだからさ」

 大きな皿に大量に積まれた肉を手で示すイライザ。その口は、脂でギトギトしている。


 私は「う、うん」と笑みを作り、小さな揚げ肉を数個皿に取り、ちまちまと食べた。




「いっつもそこの席だな、あんたら」

 食事を始めてから少しして、背後でそんな声が聞こえた。振り返らずとも、声の主が誰なのかはわかっている。


 イライザとマリサには、そいつの姿が見えているはずだけど、ほぼ反応無しだ。

 ただ、私たちの中で1人だけ、その声が聞こえた途端に反応した者がいる。


 フランカだ。彼女は紙ナプキンで口を拭ってから、立ち上がってそいつの方を振り返った。


「……なんだよ」

 そいつ――リュシーは、突然立ち上がって自分を凝視するフランカに対し、訝しげに眉をひそめた。テッサの姿は無い。そしていつの間にか、マリサの食事の手が止まっていた。


「リュシーさん。あなたにお話があります」

 キリッとした表情で、そう切り出すフランカ。


「あぁ? なんだよ。つーか、誰? あんた」

 そういえば、フランカとリュシーが会話をするのは、これが初めてだよね。


「申し遅れました。私、マリサさんと同室のフランカと申します」

「……で、そのフランカさんがあたしに何の話があるってんだ」

 腰に手を置き、尊大な態度でいるリュシーに、フランカは返答の口を開く。


「マリサさんと仲直りして下さい。あなたは、とても大きな誤解をしておいでです」

「はぁ?」

 きっぱりと言い放ったフランカに対し、リュシーは頬を歪めて声を張る。


 ……うん。まぁ、そりゃそうなるわな。


 マリサはというと、意外にも、何が言いたげにしている。

 今にも立ち上がって、フランカとリュシーの間に割って入りそうな雰囲気だ。


「あんた、一体なんの話をしてんだ? あたしが誤解してるって、なんだよ」

 ずかずかとフランカに詰め寄り、威嚇するように顔を覗き込むリュシーに対し、フランカは毅然とした態度を崩すことなく、説明し始める。


「あなたは、マリサさんに男性を取られたとお思いになり、妬まれているようですが、それは誤解なのです。マリサさんは、その方とは何もありませんし、あなたがマリサさんたちのもとから去ってからすぐに、その男性も姿を消してしまっているのです」


 フランカの話を黙って聞いていたリュシーは、ハッとして、マリサを睨みつけた。


「マリサ! こいつらに昔のこと話したのかよ! バッカじゃねーの?」

 そしてフランカを突き飛ばし、マリサに詰め寄る。


「そんで? その話をして、こいつらの同情を買ったわけか。どこまでも卑怯な女だな。なぁ、おい!」

「ち、違います!」

 体勢を立て直したフランカがリュシーの腕を掴むけど、「関係ねぇ奴ぁ引っ込んでろ!」と、さっきよりも強い力で突き飛ばされ、尻餅をついた。


 私は慌てて立ち上がり、フランカの身体を支えて立ち上がらせる。

 そんな私やマリサ、そしてイライザを一瞥し、リュシーは言い放つ。


「あんたら、こいつの話を真に受けたのかよ。こんな、嘘にまみれた女の話をよぉ!」

 そう言ってマリサの胸ぐらを掴むリュシー。が、その手はすぐに別の手に掴まれた。


「……嘘じゃない」

 マリサだ。睨むような強い眼光でリュシーの双眸を射抜き、声を絞り出す。


「あなたに、ずっと言いたかった。彼とは、何も無かったって。……信じられないだろうけど、信じてほしい」

 眼前で放たれる言葉に対し、しかしリュシーは無言だった。口汚く罵るものと思っていたんだけど。


「……うるせぇよ」

 舌打ちをしつつ、リュシーはマリサを解放した。


「あの人となんかあろうが無かろうが、んなこたどうだっていいんだよ。……あたしが許せないのは、結局あんたが、あの人の手を借りて、あたしより強くなったってことだ。……あの人は、あたしじゃなく、あんたに才能を見出した。あたしのことは、どうだってよかったんだよ。くそっ。あたしは、あんなに……!」


 次々に溢れ出る感情を無理矢理抑え込むように、リュシーは歯を噛み鳴らし、言葉を切った。

 そして、もう何も言わずに、食堂から出て行く。


 それと入れ違いに、テッサが入ってきて、食堂から出て行く妹と、私たちの様子を交互に見やり、「どうしたの?」と呟いた。


 マリサは魂が抜けたような顔で、静かに、リュシーが出て行った食堂の出入り口を見つめ続けていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ