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いつも、席を取るのも難しいくらい賑わっていた食堂は、思わず足を止めて眺め回してしまうほど、閑散としていた。
それもそのはず。二次試験で不合格が決まった受験者らは、もうここにいる理由が無い。
私たちが部屋で話し込んでいた間に、荷物をまとめて試験場を後にしていたようだ。
「……随分、減りましたね」
思わずといった感じで呟くフランカに、私は「そうだね」と頷いた。
「まぁ、わかってたことだろ。それより、さっさと座ろうぜ」
私とフランカの横を、イライザが通っていく。マリサは、すでにいつものテーブルにたどり着いていた。
「ティナ。フランカ。夕食はあんたらの番だよな。早く持ってきてくれよ~」
いつも通りにマリサの隣に座ったイライザが、私たちに声をかける。
「あ、うん」
私はフランカと一緒に、4人分の夕食を取りに向かった。
今日の夕食は、とにかく肉がメイン。いつもよりかなり豪華で、かなり脂っこい。
多分だけど、ここにいるのは二次試験を突破した受験者たちだから、そのお祝いってことじゃないだろうか。
……でも、私はまだ突破してないんだよなぁ。
はぁ……。複雑。
「んー、美味い!」
こんがり焼けた肉を、イライザは幸せそうに頬張っている。
テーブルの真ん中には、焼いたり蒸したりしたあらゆる肉の塊が大量に積まれた皿があり、4人で手分けして食べている。
イライザの横で、マリサは大きなステーキをナイフで切り分けて、一切れ一切れ味わっている。
私の横では、フランカがナイフとフォークを上品に扱って食事をしているけど、その皿に乗っているのが分厚い肉の塊だから、優雅さは半減している。
私はといえば、彼女たちのように食が進まず、さっきからもそもそとサラダばっかり口にしていた。
「なんだよ、ティナ。葉っぱばっか食ってねぇで、肉食えよ。こんなにあるんだからさ」
大きな皿に大量に積まれた肉を手で示すイライザ。その口は、脂でギトギトしている。
私は「う、うん」と笑みを作り、小さな揚げ肉を数個皿に取り、ちまちまと食べた。
「いっつもそこの席だな、あんたら」
食事を始めてから少しして、背後でそんな声が聞こえた。振り返らずとも、声の主が誰なのかはわかっている。
イライザとマリサには、そいつの姿が見えているはずだけど、ほぼ反応無しだ。
ただ、私たちの中で1人だけ、その声が聞こえた途端に反応した者がいる。
フランカだ。彼女は紙ナプキンで口を拭ってから、立ち上がってそいつの方を振り返った。
「……なんだよ」
そいつ――リュシーは、突然立ち上がって自分を凝視するフランカに対し、訝しげに眉をひそめた。テッサの姿は無い。そしていつの間にか、マリサの食事の手が止まっていた。
「リュシーさん。あなたにお話があります」
キリッとした表情で、そう切り出すフランカ。
「あぁ? なんだよ。つーか、誰? あんた」
そういえば、フランカとリュシーが会話をするのは、これが初めてだよね。
「申し遅れました。私、マリサさんと同室のフランカと申します」
「……で、そのフランカさんがあたしに何の話があるってんだ」
腰に手を置き、尊大な態度でいるリュシーに、フランカは返答の口を開く。
「マリサさんと仲直りして下さい。あなたは、とても大きな誤解をしておいでです」
「はぁ?」
きっぱりと言い放ったフランカに対し、リュシーは頬を歪めて声を張る。
……うん。まぁ、そりゃそうなるわな。
マリサはというと、意外にも、何が言いたげにしている。
今にも立ち上がって、フランカとリュシーの間に割って入りそうな雰囲気だ。
「あんた、一体なんの話をしてんだ? あたしが誤解してるって、なんだよ」
ずかずかとフランカに詰め寄り、威嚇するように顔を覗き込むリュシーに対し、フランカは毅然とした態度を崩すことなく、説明し始める。
「あなたは、マリサさんに男性を取られたとお思いになり、妬まれているようですが、それは誤解なのです。マリサさんは、その方とは何もありませんし、あなたがマリサさんたちのもとから去ってからすぐに、その男性も姿を消してしまっているのです」
フランカの話を黙って聞いていたリュシーは、ハッとして、マリサを睨みつけた。
「マリサ! こいつらに昔のこと話したのかよ! バッカじゃねーの?」
そしてフランカを突き飛ばし、マリサに詰め寄る。
「そんで? その話をして、こいつらの同情を買ったわけか。どこまでも卑怯な女だな。なぁ、おい!」
「ち、違います!」
体勢を立て直したフランカがリュシーの腕を掴むけど、「関係ねぇ奴ぁ引っ込んでろ!」と、さっきよりも強い力で突き飛ばされ、尻餅をついた。
私は慌てて立ち上がり、フランカの身体を支えて立ち上がらせる。
そんな私やマリサ、そしてイライザを一瞥し、リュシーは言い放つ。
「あんたら、こいつの話を真に受けたのかよ。こんな、嘘にまみれた女の話をよぉ!」
そう言ってマリサの胸ぐらを掴むリュシー。が、その手はすぐに別の手に掴まれた。
「……嘘じゃない」
マリサだ。睨むような強い眼光でリュシーの双眸を射抜き、声を絞り出す。
「あなたに、ずっと言いたかった。彼とは、何も無かったって。……信じられないだろうけど、信じてほしい」
眼前で放たれる言葉に対し、しかしリュシーは無言だった。口汚く罵るものと思っていたんだけど。
「……うるせぇよ」
舌打ちをしつつ、リュシーはマリサを解放した。
「あの人となんかあろうが無かろうが、んなこたどうだっていいんだよ。……あたしが許せないのは、結局あんたが、あの人の手を借りて、あたしより強くなったってことだ。……あの人は、あたしじゃなく、あんたに才能を見出した。あたしのことは、どうだってよかったんだよ。くそっ。あたしは、あんなに……!」
次々に溢れ出る感情を無理矢理抑え込むように、リュシーは歯を噛み鳴らし、言葉を切った。
そして、もう何も言わずに、食堂から出て行く。
それと入れ違いに、テッサが入ってきて、食堂から出て行く妹と、私たちの様子を交互に見やり、「どうしたの?」と呟いた。
マリサは魂が抜けたような顔で、静かに、リュシーが出て行った食堂の出入り口を見つめ続けていた。




