16-3
一通り話し終えた雰囲気を醸し出しているマリサだけど、気になることが1つある。
だけど、果たしてそれをはっきりと聞いていいものか……。
「それで、その方とはどうなったのですか? もしかして、今お付き合いされているとか?」
……はっきり質問しちゃったのは、私の隣に座っている子だ。あまりに直接的な問いかけに、イライザも目を丸くしている。多分、私も同じような顔をしているはずだ。
私たちの視線は、自然とマリサに集まる。
マリサは目だけを動かしてそれらを一瞥した後、わずかに目を細めた。
……もしかして、怒ってる?
「……彼とは何も無い。恋愛関係にある男女がするような行為は何一つしていないし、……できなかった」
すると、またしてもフランカが、「なぜですか?」とぐいぐい攻め込んでいく。
「ある日、彼は突然私の前から姿を消した。何も言わず、置き手紙すら無かった。ヴェルレ姉妹と別れてから、ひと月くらい後の話」
それを聞いたフランカは、「そうなんですか……」となぜか不満そう。何を期待している、……いや、まぁ、わかるけどさ。
「でもっ、できなかったということは、し、したかったのですかっ?」
「ちょちょっ、フランカさん!」
瞳を爛々と輝かせて暴走し始めたフランカに、さすがに私は声を発した。だけど、私の目はマリサを見ている。……一体、どんな答えが返ってくるんだろう。
するとマリサは、口の端によく見ていないとわからないくらいの微笑を含ませ、言った。
「私がその気でも、彼は私を娘のようにしか思っていないのだから、無駄」
フランカが「そんなこと……」と漏らすのと同時に、マリサは席を立つ。
そして、自分のロッカーを開けて剣を取り出した。
「……それに、私にはこれがある。何も言わずに去っていった彼が、唯一残していった物」
マリサは、それを愛おしそうに胸に抱く。
「彼が使っていた剣。私には、これがあるからいいの。これで充分」
確かに、彼女が使うにしては、その剣は柄が太く、刀身は長くて広い。無骨とも言えるその見た目は、明らかに男性用の剣だ。
剣を抱く彼女の顔は穏やかで、どこか色っぽささえあるように感じた。
同時に、マリサがその傭兵のことを今でも強く想っていることが伝わってくる。
「マリサさん」
立ち上がるフランカに、マリサは視線を移動させる。
「……その方と、またお会いできるといいですね」
そう言うフランカにしばらく視線を固定した後、マリサは「そうね」と穏やかな表情のまま答えた。そして、剣をロッカーにしまう。
「ここまで聞いといてなんだけどよぉ」
席に戻るマリサの方を向かず、両手を頭の後ろで組み、背もたれに体重を預けたイライザが静かに喋りだす。
「その話さ、あたしらが聞いても良かったのか?」
マリサは「どうして?」と小首を傾げる。イライザは顔だけマリサの方へ向けた。
「……いや、だからさ、まだ会って数日しか経ってない私らなんかにさ、そういう大切な話っていうの? そういうのってさ、話しにくいっていうか、聞かれたくないって思わねぇか、普通」
確かに今更だけど、言われてみればそうだよね。もし私がマリサの立場だったら、話すのを躊躇するかも。
だって、自分の恋愛話でしょ?
……私はまだそういう経験は無いけど、やっぱり人に聞かれるのは恥ずかしいんじゃないかなって思う。
「そう? 私は別に、なんとも思わない。それに、ティナさんとの約束だったし」
ちらっと私を見るマリサ。
……うぅ。この子にそういうつもりはないんだろうけど、なんか責められている気分。
だから私は、曖昧な笑みを返すしかなかった。
「……でも、約束だったとはいえ、よくよく考えてみれば、私だけ話すというのも対等じゃない気がする」
「えっ?」
口元に手を当て、思案顔でそう呟くマリサに、イライザはビクッと肩を揺らす。
「この際、みんな発表するべき」
「ちょっ、ちょちょちょっ、ちょっと待てよ」
慌てふためくイライザを、じっと見つめるマリサ。
「じゃあ、まずはイライザさんから」
「えっ、ええっ? あた、あたしは……」
話を振られたイライザは、かなりうろたえた様子で口をパクパクさせている。よく見れば、顔が赤くなってきていた。
「……すす、好きなヤツくらいは、その、……いるよ」
俯いて、もじもじしながら喋るイライザ。
「どんな人?」
マリサは淡々と質問する。でも、どこか面白がっている雰囲気もあった。
「ど、どんな人? ……えと、優しくて、いいヤツだよ」
「イライザさんも、女の子なんだねぇ」
ニヤニヤしながら茶化すように言ってみると、イライザはさらに顔を真っ赤にして、「うっさいうっさい!」と妙に高い声で放ち、耳まで赤くしながら私をじっと見据えた。
「……そういうティナはどうなんだよ」
問われ、ドキッとなる。
「わ、私は、えっと、……まだ、その……」
「はいはい! 私は、恋していますよ!」
しどろもどろな私の隣で、弾ける声。
イライザはもちろん、マリサすらも、目を丸くして声の主を見上げる。彼女は私の横でまた立ち上がり、手をびしっと挙げていた。
その手が、すーっと私に向けられる。
「私は、ティナさんのお父様、クレイグ・ロンベルク様のことを、お慕い申しております!」
高らかに言い放つフランカに、イライザは目を丸くしたまま固まり、マリサはわずかに口を開いた。……私は、どういう顔をしているのだろうか。
そして、父に対する愛を長々と語るフランカ。
私もイライザも、途中からうんざりしていたけど、マリサだけは、時折コクコクと頷いたりしていた。
夕食を食べに行く頃には、フランカとマリサはすっかり意気投合した様子で、仲良く並んで食堂へ。私は複雑な思いで、それを眺めていた。
……だって、そうでしょ?
2人とも、私の父のことで盛り上がってるんだからさ。




