15-2
そしてついに、二次試験最終日がやってきた。
今日私は、確実にマリサと当たる。
……よし。やる気は充分、勝つ気だって充分だ。
最初から負けると思って戦ったら、そりゃ負けるに決まってる。
たとえ勝てる要素も可能性も一切無くたって、最初から諦めるなんてことは絶対にしない。
心の中で「やるぞ~」と意気込み、鼻息荒く拳を握り締める私とは正反対に、マリサは全くいつもの調子で、前日、部屋に籠って読み終えたらしい本を持って、私たちより先に部屋を出て行った。
身支度を整えて食堂に行くと、すでにいつものテーブルにマリサがついていて、食事を始めている。本は見当たらないから、先に2階に行って返却してきたのだろう。
ばりばりとサラダを頬張るマリサを横目にしつつ、私たちも自分の朝食を取りに行く。
「マリサさん」
持ってきた朝食をテーブルに置き、向かいに座るマリサに声をかけてみた。
マリサは口をもぐもぐやってゴクリと飲み込んでから、「何?」と私に視線を移す。
その顔に、いつもと違うところは何も無し。
「……今日の試合、私、勝つ気でいくからね」
それでも私は、そう宣言していた。少しでも、私との試合を特別なものと思ってほしかったんだと思う。
だけど、返ってきた言葉は、「そう」の一言だけ。思わず私は、「それだけ?」と不満を漏らす。
すると、マリサは再び食事の手を休め、私を見据える。
「あんまり私との試合にこだわってると、ほかがおろそかになるよ。私との試合以外にも7戦あるんだから、足をすくわれたりしないように。ティナさん、5敗してるんだから」
「え、……あ、……ぅぅ」
あまりに的確な指摘に、私は何も言えなくなり、結局「そだね……」と呟いたきり、黙々と食事をするしかなかった。
斜向かいにいるイライザがおかしそうに笑い、隣にいるフランカも多分笑顔でいるだろう。
……ダメダメ。こんなことで負けた気分になってどうする。要は、試合で勝てばいいんだ。1ポイントでいいなんて思っちゃ駄目。絶対に勝つんだ!
施設に入った受験者らは、各自準備運動を始めている。
私は、すでに数人の受験者に囲まれている協会員のもとまで行き、今日の試合順を確認する。
「――!」
協会員が持つ対戦表には、1日目、2日目の試合結果の横に、今日の対戦順が書かれていた。その対戦順を見て、私の心臓が跳ねる。
……い、いきなり?
今日の1試合目の対戦相手は、受験番号2001番。マリサだ。
「!」
そして、マリサのこれまでの対戦成績を見て、さらに驚愕。
1試合目が30対0、2試合目が31対0、3試合目が32対0……と、取得ポイント数が試合をおうごとに1ずつ増えているではないか。
……これさ、完全に遊んでるよね? こんな偶然があるわけないもん。
余裕があるにも程があるでしょ、まったく。
この順でいくと、私との対戦成績は、47対0となる。
そうなるように、彼女は絶対に狙ってくるだろう。
「……」
思い通りにはさせない。私はそう、強く思った。
そのマリサはというと、すでに指定の舞台の下にいる。私は唇を引き結んで、拳をぎゅっと握り、彼女のもとへ向かった。
マリサと目が合う。
「マリサさんの成績、見てきたよ。絶対狙ってやってるよね、あれ」
問うと、マリサはなんのことかと一瞬考えるような顔をしてから、「あぁ……」と思い至ったように声を出す。
「そう。狙ってやってる。最初に狙ったポイントを取って、あとは時間まで避け続けるだけ。意外と簡単」
その言いように、私は面食らってしまった。
そのセリフをほかの誰かが言ったなら、調子に乗るなよと腹も立つだろう。
だけど、マリサのそれは、うぬぼれでもなんでもない気がする。彼女は本当に強いから、そんな言葉も嫌味には聞こえないんだろう。
「どうしたの?」
言葉を出せないでいる私に、マリサは落ち着き払って顔を近付けてくる。
私は、その整った綺麗な顔から目を逸らし、「なんでもない」と呟く。
「それでは、二次試験最終日の1試合目を始める。舞台へ上がれ!」
その時、協会員の声が施設内に響き渡った。
私とマリサは再び目を合わせ、そして互いに身を翻し、別々の階段へ向かう。
「……」
舞台に上がり、マリサと対峙する。いよいよ、この子の強さを体験できるわけだ。
今までの17戦全て、失点無し。
その事実は、並大抵の実力ではないことを物語っている。
「最初から、全力でいくよ」
リュシーとのことを喋ってもらう条件なんて、どうでもよくなった。私は、この子に勝ちたい。1ポイントでも多く取って、勝ちたい!
「それなら、私もそうしよう」
マリサはあくまで泰然とした態度で、そう応じた。
互いに、剣を構える。
「はじめっ!」
審判の声が弾けるのと同時に、私は駆け出す。マリサは、まだ動いていない。
走りながら横溜めにした剣を、受け止められるのを覚悟で振る。
最初の一撃、どう動く!
「――っ!」
しかし、次の瞬間、軽い衝撃が走ったのは私の額だった。
「え……?」
その光景は、あまりにも信じ難かった。直前まで全く動いていなかったはずのマリサの剣が、私の額を突いていたんだ。まさに、まばたきをした一瞬。
見れば、私の一閃は横に抜けている。躱されたみたいだけど、彼女がどうやって躱したのかはわからない。
「ぼーっとしてて、いいの?」
「――!」
マリサの冷たい囁きに、私はハッとして間合いを取ろうとするけど、後ろへ跳んだ私にぴったりくっつくようにマリサもついてくる。
剣を振って追い払おうとしても、それは無駄の無い流れるような動きで躱され、同じく流れるような動きで放たれた一撃は、私の右側頭部をトンと触れた。
……なんなの、これ。この前戦った時とは、全然違う。何もかもが、違う。
始まって、おそらくまだ1分も経っていないというのに、私はすでに、その力量の差に絶望しつつあった。




