15-1
朝食後、私とフランカはそわそわしながら宿舎の部屋に戻った。
だけど、マリサはいない。食堂を出た後、イライザに「ついてきて」と言い、2人して2階へ上がっていっちゃったから。
私たちもついて行けばよかったかなとは思ったけど、ちょっと2人で話し合いたくて、先に戻ってきたんだ。
「きっと、何か理由があるはずなんです」
「うんうん」
マリサとリュシーの仲について思ったことは、お互い同じだった。
「でも、あそこまで険悪になる理由って、なんだろうね」
「う~ん……」
ベッドの縁に並んで座り、腕を組んで唸る。
「……ティナさんは、何をされたらリュシーさんのようになります?」
「ええ?」
こりゃまた困った質問が来たな。自分の身になって考えてみろって?
「う、う~ん、……そりゃあ、大切なものを奪われたり、壊されたりしたら、怒るだろうけど。フランカさんもそうでしょ?」
「ええ。怒ると思います」
でも、それでリュシーのようになるかはわからない。そもそも、人を恨んだり憎んだりした経験が無いんだよね。
だからきっと、リュシーがマリサを敵視する理由を知ったとしても、多分、彼女の気持ちは理解できないんじゃないかと思うんだ。
そうしてしばらく考え込んでいると、部屋のドアががちゃりと開いた。
私たちはびっくりして、ドアを開けて入ってきた人物を凝視する。
「ん、どした?」
私たちの視線を浴びて眉を捻っているのは、イライザだ。その後ろに、マリサもいる。
「え? ううん、なんでもないよ」
慌てて立ち上がってそう言うと、イライザは「ふーん」とどうでもよさそうにしながら横にどき、マリサを部屋に入れる。そして、ドアを閉めてこちらに歩み寄ってきた。
「今日、このあとどうする? 部屋にいんのもつまんねぇしさ、外行かね?」
「え、うん……」
曖昧に答えてから、テーブルについたマリサを見る。
彼女は、こちらの様子など気にもかけずに、おそらく図書室から借りてきた本を開いて、読書を始めた。
「マリサさんは、本がお好きなんですか?」
立ち上がったフランカが、マリサに笑顔で問いかける。すると、マリサはわずかに顔を上げて「好き」とだけ答え、文字を追う作業に戻った。
その様子に、フランカは言葉が続かない。
……よし。今度は私の番だ。ここはもう、直接はっきりと聞くべきでしょ。
「ねぇ、マリサさん。さっきのこと、聞いてもいい?」
意を決して問いかけてみると、マリサはまた顔を上げ、「さっきのことって?」とじっと私の目を見つめてくる。
イライザも、「なんだよ、なんの話だ?」と面白そうに会話に入ってきた。
「……えっと、だからその、……リュシーさんとのこと」
マリサの視線に、鼓動が速くなる。聞いちゃいけないことを聞いてしまったかのように、妙な空気が流れている……気がする。
「……ああ、そのこと」
しかし、マリサの顔からは、その心の機微すら感じられない。
まだ少ししか読んでいない本に栞紐を挟んでそっと閉じたマリサは、閉じた本に視線を貼りつけたまま、口を開く。
「リュシーが、どうして私をあんなに憎んでいるのか、でしょう?」
聞かれ、頷く私とフランカ。
マリサの瞳が、私を射抜く。わずかに鋭さを増した眼光に、思わずドキッとした。
「あなたたちが気にすることじゃない、……と言いたいところだけど、教えてあげてもいい」
私たちは、彼女の言葉を待つ。
「ただし、条件がある」
「条件?」
声を発したのは、イライザだ。マリサは「そう」と頷く。
「明日、何試合目になるのかはわからないけど、私はティナさんと当たる。その試合で、ティナさんが私から1ポイントでも奪うことができれば、教えてあげる」
「!」
これはまた、とんでもない条件を提示されてしまったものだ。
マリサから、1ポイントでも取る。それがどれほど困難なものなのかは、彼女が未だに失点無しの完勝を続けている現実を見れば明らかだろう。
「怖気づいた?」
鋭い瞳の奥に、わずかな嘲りが滲んだように見えた。私は歯を噛み締め、「ううん」と首を振る。
「わかった。その条件、呑むよ」
私の答えに、マリサは目を細め、口の端をわずかに上げた。そして、もう何も言うことは無いとでもいうかのように、再び本を開き、読書を始める。
「1ポイントでも取ったら、絶対に話してもらうからね!」
拳を握り締めてそう言い放った後、私は勢いよく部屋を飛び出した。
後ろでフランカとイライザの声が聞こえ、バタバタと足音が追いかけてくるのが聞こえた。
前に踏み込み、イライザがそれに反応して構えた剣を振ろうとしたところで、見せかけの前進を止め、ぐいっと身体を後ろへ下げる。
その眼前を、イライザの放った一閃が掠め、そこから発生した鋭い剣風が、私の鼻を叩く。
直後、今度こそ前進し、踏み込んだ足を軸に身体を回転させ、イライザの側頭部に剣閃を吸い込ませた。鈍い衝撃と同時に、イライザは「いてぇっ」と声を漏らした。
互いに距離を取り、剣を構え直す。
「いてて……。結構やるなぁ、ティナ。動きが速くてやりにくい。あたしの苦手なタイプだ」
右側頭部を撫でながら、イライザは笑う。
どうやら彼女は、戦うのが大好きらしい。
また擬似剣を借りてきて、イライザに手合わせを頼んだんだけど、幾度となく剣を交える中で、彼女は終始楽しそうな顔をしていた。
ダメージを受けても、あの調子だ。
「イライザさんは、力すっごい強いね。頭に食らったらヤバそう」
彼女の攻撃を数回受け止めただけで、私の両手はビリビリ痺れている。
「ああ。あたし、17戦の内7戦は、相手を失神させて勝ってるからな。強烈だぜ?」
怖いことをさらりと言って、豪快に笑うイライザ。私もつられて笑うけど、頬が引きつる。
イライザは笑いを止めて構えを解き、私を優しい瞳で見つめる。
「あいつに、強烈な一発、叩き込んでやれ。頑張れよ、ティナ」
「頑張って下さい、ティナさん」
イライザと、そばで私たちを見ていたフランカの声援を受け、私は「うん!」と頷いた。
よぉ~し、絶対やってやる!




