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14-1

 相手の目をじっと見る。そして相手の右側をちらと見て、身体もそちらへ動かす。

 それと同時に、相手は剣を構えて私の左へ動く。回り込まれるのを防いで、あわよくば私の後ろへ回り込もうって考えだろうけど、そうはさせない。


 踏み出した右足に力を込め、方向転換。目を見開いた相手に、大きく横溜めにしていた剣を振る。

 相手も咄嗟に剣を振ってくるけど、私の攻撃の方がわずかに速い。

 私が放った一閃は、相手の後頭部に直撃し、そこから瞬時に後ろへ跳んで、相手の剣に空を斬らせる。


 私は体勢低く相手に肉薄し、その胸を狙う。

 そこで剣を引き戻して体勢を立て直した相手は、私の攻撃を防ごうと動くけど、私は直前で剣を退き、振り下ろされた剣を身を捩って躱しつつ、剣を振り上げる。

 それは相手の側頭部を強打し、その顔を歪ませた。


 相手は怒りの形相で、力任せの大振りを繰り出す。

 それを難なく躱した私は、さらに体勢を低くし、相手の脚を剣で叩いた後、相手が距離を取ろうと跳んだのに合わせて伸び上がるように跳んで、その胸を一閃した。


「そこまで!」

 さらに額を切っ先で弾こうとしたところで、審判の声があがる。構えを解き、次の宣言を待つ。


「35対50で、受験番号2079番の勝ち!」

 心の中で手をぐっと握り締め、相手と握手をした後、足取り軽く舞台を下りる。


 よし。これで午後は3連勝。このまま次も勝って、3日目に向けて弾みをつけたいところだ。


「くそっ! くそぉっ!」

 座って休もうとした時、そんな大声が響いた。あの声は……。


「邪魔だ、どけっ」

 2つ隣の舞台から下りたそいつは、ほかの受験者らを突き飛ばしながら、こっちに歩いてくる。


 その顔は、憤怒にまみれて歪んでいた。その目つきたるや、刃物のようだ。


「……負けたの?」

 私は、前を通り過ぎようとしたそいつに、そう声をかけていた。別に、挑発しようとしたわけじゃない。ただの興味だ。


 そいつは立ち止まり、「あぁ?」と私を睨めつけてきた。


「相手は誰? あなたが負けたってことは、もしかしてマリサさん?」

「うぜぇな。気安く声かけてくんな、くそが」

 そいつ――リュシーは、怒りのあまり顔じゅうを痙攣させて私に近寄り、胸ぐらを掴んできた。見開かれた目は、血走っている。


 だけど私は、どうしてだろう、そんな彼女の顔を見ても、さほど恐怖は感じなかった。


「あなた、マリサさんから1ポイントも取れずに負けたんでしょ。だから、そんなに怒ってるんだ」

「うぜぇって、言ってんだろっ!」

 私の身体をぐっと引き寄せ、思いっきり突き飛ばす。あまりの勢いに倒れそうになった私は、そばにいた受験者らに受け止められた。


「そこ! 何をしてる!」

 ちょっとした騒ぎになっていたところへ、協会員たちが駆けてくる。それを見て舌打ちしたリュシーは、私に鋭い眼光を突き刺し、吐き捨てる。


「4敗もしてるザコが、調子に乗ってんじゃねぇぞ」

 そして、協会員らを避けようと踵を返す。


 そんなリュシーに、私は一歩進み出て言ってやった。


「ザコかどうか、次の試合で確かめてみなよ! 私、負けないから!」


 そう。事前に誰と当たるかを聞いておいたんだ。

 今日の最終戦、私はリュシーと当たる。

 だからかな。ただ声をかけただけのつもりが、結果的に喧嘩を売るような感じになってしまったのは。


 それを聞いて、リュシーは凶悪な笑みを広げる。


「テッサにすら勝てなかったてめぇがか? 笑わせるぜ」

 そしてもう一度私の前に立ち、その顔を近付けてくる。今にも、ギラギラとした憤怒の炎がその双眸から噴出して、私を焼き尽くしそうだ。


「あたしは今、最高にイラついてんだ。てめぇをボコれば、ちったぁ発散できるかもなぁ?」

 つり上がった口の端から、軋んだ笑いを漏らす。恐怖は感じないけど、さすがに気分が悪い。


 だから私も、リュシーを睨むように見据えてから、笑みを形作る。


「やれるもんなら、やってみなよ」

 私の挑発的な態度に、リュシーはさらに眼光を鋭くし、鼻がくっつくくらい顔を近付けてきた。


「おお、やってやんよ。覚悟しとけ、ザコ女」

 私たちはそのまま、協会員に割って入られるまで、しばし睨み合いを続けた。




 リュシーとの試合まで、あとわずか。私は、指定された舞台の下で準備運動をする。


 隣の舞台で試合をするマリサが、私の前を横切ろうとしていた。

 私が声をかけようと口を開くのとほぼ同じタイミングで彼女は立ち止まり、こちらへ歩み寄ってくる。


「マリサさん」

「……あの子は、すぐカッとなるのが弱点。だけど、剣の腕は確か。油断しちゃ駄目」

 淡々と助言をくれるマリサ。


「もしかしたら、あなたを怒らせて冷静さを失わせようとしてくるかもしれない。それに乗っても駄目」

 なんだか嬉しくて、自然と笑みが浮かぶ。


「ありがと、マリサさん。大丈夫。私、マリサさんが言ってくれたこと、だいぶわかってきたから。あの子が強いのもわかってるけど、最後まで諦めずに、精一杯戦ってみるよ」

 するとマリサは、「それでいい」と一言残して、自分の舞台へ向かって行った。




「両者、舞台へ上がれ!」

 審判の指示に従い、舞台へ上がる。


 向こう側から、リュシーが姿を現した。その目は、階段を上って顔が見え始めた時にはすでに、私を捉えて光っていた。まるで、獲物を狙う野獣のごとく。

 歪んだ口の端から、獰猛な唸り声さえ聞こえてきそうだ。


「叩き潰してやるよ……」

 口はヘラヘラ笑っているけど、その目は全然笑ってない。審判の合図が無くとも、今すぐに飛びかかってきそうだ。


 私は無言のまま、ただじっと、目の前の敵を見据える。


「はじめっ!」

 戦闘開始の声が響き、私とリュシーは、ほとんど同時に前に飛び出した。

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