14-2
リュシーとの戦いは、序盤から激しい打ち合いとなった。
鋭く風を斬りながら私の頭部を狙うリュシーの剣閃をギリギリでくぐり抜け、お返しとばかりに、左斜め下からの一撃を放つ。
その時にはすでに、リュシーの姿はそこに無い。
瞬時に私の横をすり抜けた彼女は、無防備な私の背中に袈裟懸けの一撃を叩き込む。
歯を食い縛って痛みに耐え、右足を軸に身体を回転。その勢いのままに剣を振るけど、それはきれいに空を斬った。
直後、「遅いっ! 遅いぜ、ティナ!」と余裕を含んだ声色が湧き、眼前にその声の通りの表情が現れる。
「くっ」
咄嗟に後ろへ跳んだものの、リュシーの剣は私の左腕を打ち、さらに返す刀で胸を刺突。
そのまま身体が密着するほどに接近し、剣で私の身体を突き飛ばすと同時に、左側頭部目がけて剣を振り下ろす。
「うぐっ」
その強烈な一撃に脳が揺れたか、足がガクッとなり、倒れ込みそうになった。
気力を振り絞って堪え、剣を握り直し、迫り来るリュシーに正面から突撃する。
身体を捻って剣を左に構え、リュシーの右腕を狙う。
私が剣を振ると同時に、リュシーはそれを防ごうと剣を構える。だけど私は剣を振ると見せかけ、直前で大きく後ろへ引いて、刺突に切り替える。
それは、前進を続けていたリュシーの額を見事に捉え、その衝撃で彼女を仰け反らせた。
「くそがっ!」
そのままバランスを崩してくれると思いきや、リュシーは仰け反りながら身体を捻り、構えた剣を突き出してきた。それは、私の左肩スレスレを突き抜けていく。
だけど、今度こそリュシーに大きな隙ができた。
私は突き出したままの彼女の右腕をくぐり、背後へと回る。すぐに身体を反応させるリュシーに、間髪入れずに一閃。刀身は彼女の背中を薙ぐ。
直後、振り返ったリュシーの剣閃が襲い来るけど、袈裟懸けに振り下ろした剣でそれを弾き、再び無理な体勢で切っ先を突き出してくる彼女から一歩後ろへ跳び、着地と同時に左前方へ。
リュシーも、私の動きに合わせて横へ跳ぶ。
それを見るより先に、私は踏み出した足を軸に方向転換。彼女が跳んだ方向へ剣を振り上げ、身体を斜めにしつつ跳び、身体を回転させる勢いを借りて振り下ろす。
狙うは頭部。しかし、そう簡単には決めさせてくれない。
「おらぁ!」
バランスを崩しながらも、リュシーは私の一撃を刀身で受け止め、弾き返す。
その勢いで、私もバランスを崩す。そこへ一気に肉薄したリュシーは、下から突き上げるように私の背中を刀身で殴り、瞬時に握りを逆にして私の胸を殴打した。
とんでもない衝撃に、一瞬、呼吸が止まりかける。
「がはっ、がふっ」
咳き込みつつも、どうにか体勢を整えた私は、再度刺突を繰り出そうとしているリュシーに剣を振る。それは軽々と躱されるけど、それが狙いだ。
彼女が回避行動を起こすと同時に剣を引き、構え直して前進。すぐに私の頭に狙いを定めるリュシーに対し、私は踏み出した足に目いっぱい力を込めて、大きな一歩で体勢低く彼女の左側へ回り込むと、後ろから膝裏へ一閃。
「うっ」
思わず膝を曲げるリュシー。背中は隙だらけだ。
「らあああぁぁぁっ!」
私は彼女の背中目がけて、剣を振りまくる。一発、二発、三発! 三発食らわせたところで、獣のように牙を剥いたリュシーが突進してくる。
「死ねやっ! おらあああぁぁっ!」
それは、まさに目にも留まらぬ一閃。至近距離で放たれたその一撃は、直後、私の意識を一瞬飛ばすほどの衝撃を脳にもたらした。
「あ……ぐ……」
ふらつく私の後頭部に、リュシーは容赦なく全力で剣を叩きつけてくる。
やばい! 意識が……!
暗くなっていく視界の中、顔の近くに来る自分の左腕。
その瞬間だけ意識が明瞭となり、私は大口を開けて、それに噛み付いた。
「なっ?」
私の行動に、さすがに驚いたようで、リュシーの足が止まる。
その隙に、私は彼女から距離を取る。
ぼやけかけた意識は、腕から伝わる痛みによって覚醒していた。
「噛み付いた痛みで……」
そう言って、凶悪な笑みを浮かべるリュシー。
「なかなか、面白ぇことするじゃねーか」
「……どーも」
呼吸を整えながら、笑みを返す。噛んだ左腕には、真っ赤に染まった歯型がくっきりと付いている。
私は首を振り、鋭く息を吐き、剣を構え直す。
そして、再び攻撃開始。
どのくらい、時間は経過しただろう。もう、随分剣を交えている気がする。
リュシーの攻撃は相変わらず強烈で、軌道も正確。身のこなしも相当俊敏で、気を抜けば一気に攻め込まれる。
「……?」
だけど、私は異変を感じていた。リュシーにだけでなく、自分にも。
死角からの攻撃、真後ろで振り下ろされる剣に、私は身を翻し、剣を横にして突き出した。すると、まるでそこに吸い込まれるように、リュシーの剣が衝突する。
目を見開くリュシー。
私は大きくその剣を弾き上げ、ガラ空きとなった彼女の胸を一閃。リュシーの顔が歪む。
横薙ぎの反撃を後方へ跳んで躱し、着地と共に大きく一歩前進。その勢いのままに剣を振り下ろすけど、それは後ろに跳ばれて躱される。
剣を振り切った私の隙を突き、リュシーが肉薄してくる。だけど、その全ては予想通り。
額へ向けて突き出される剣に合わせ、振り切ったままの剣の切っ先を前に向け、そのまま突き出す。
リュシーの剣を首を横に倒して避け、遮るものの無くなった彼女の頭へ、思いっきり腕を伸ばす。ぐにっという感触と、リュシーの苦鳴。
彼女はすぐに突き出したままの剣を横へ振るけど、私はそれを察知し、体勢を低くして躱す。そしてそのまま、リュシーの懐へ潜り込み、くぐり抜けざまに胸を薙いだ。
「く、くそっ! 調子に、……調子に乗んじゃねぇぞぉっ!」
激高し、我を忘れたように猛烈な勢いで剣を突き出してくるリュシー。
……見える。全部、捌ける!
彼女と戦ううちに、そのスピードに慣れてきたのか? 戦い始めの頃より、リュシーの動きが遅く感じる。そして、攻撃を避けて隙を狙えば、こっちの攻撃は当たる。
たとえ動きを読まれたとしても、これなら、どうとでもなる。
いける! ――そう思った直後だった。
リュシーが振り下ろした剣を受け止めた次の瞬間、そのままものすごい力で突き飛ばされて――




