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13-4

 動きを読まれるのなら、読まれた上で、相手がどう動くのかを考えて、動く。

 頭でもあまり理解できていなかったそれは、当然、実践するのも困難だった。



「そこまで!」


 二次試験2日目。今日は、午前、午後ともに4試合の、全8試合。

 その内の3試合目が、ちょうど今終わったところだ。


「47対41で、受験番号2023番の勝ち!」

 また負けた……。


 対戦相手と握手を交わし、舞台をよろよろと下りる。下り切ったところで、大きな溜め息が出た。


 これで3連敗。とうとう4敗目を喫してしまった。う~、完全に泥沼だぁ。

 まだ、リュシーとマリサとの戦いも控えているというのに……。




「負けたの?」

 座って頭を抱えていた私のもとへ、マリサがやってきた。私は彼女の方を見ずに、「うん」と頷いた。


「……昨日のことが、あなたを混乱させちゃったかもしれない」

 その言葉に、私は慌てて首を振りながらマリサと目を合わせる。


「マリサさんのせいじゃないよ。……私が、うまくできないだけ」

 じっと私を見てくるマリサから視線を外し、再び俯く。


 もちろん、昨日のことが全く影響していないわけじゃない。でも、そんなことは言えないよ。

 だって、結局戦って負けてるのは私なわけで、それをマリサのせいにするのはおかしいもん。


 ……この状況から抜け出すには、どうすればいいんだろう。

 このままじゃ、残りの試合全部負けちゃいそうな気さえする。


 救いを求めてマリサの方を見ると、しかしそこに、もう彼女の姿は無かった。

 どこに行ったんだろうと首を巡らせると、協会員に何かを見せてもらっている彼女の姿を見つけた。

 何をしているんだろうと見ていると、マリサと目が合う。

 すると、彼女は私と目を合わせたまま再び歩み寄ってきて、言った。


「2012、2016、2023。今日あなたが戦った3人の受験番号」

 ああ、対戦結果でも見せてもらってたのかな。


 ……そう。今日戦った3人とも、私より小試験の成績が随分上だった受験者だ。

 その成績通り、みんな強かった。


「……でも、この3戦全て、ティナさんはもう少しってところで負けてる」

 思い返してみれば、確かにそうだな。3戦とも、数ポイントの差で惜敗している。


「きっと、もう少し。あなたは、無意識に私が言ったことを実行しようとして、それを掴みつつある」

「え……?」

 無意識に? ……いや、でも、言われてみれば、確かにそうかもしれない。


 ちゃんと考えて動けてる? いや、動けかけてるってところか。

 でも、無意識じゃ駄目じゃん。ちゃんと、意識的に考えて動けてないと。


「だから、諦めちゃ駄目だよ、ティナさん」

「マリサさん……」

 彼女の言葉が、落ち込んだ心に染み込んでいく。


 思わず涙が出そうになったところで、突然、マリサの瞳から急激に温度が失われていった。

 その冷気漂う双眸を細め、そしてその口が発する声もまた、冷たい。


「あなたは、諦められないはず。そうでしょ? 14歳で傭兵になる決意をするなんて、よっぽどの理由があると思うんだけど」

「!」

 一旦全ての思考が消滅し、脳裏に浮かぶのは、家族の姿。


「ここで諦めたらどうなる? よく考えて。もしかしたら、困るのはあなただけじゃないんじゃないの?」

「……」

 諭すようなマリサの言葉に、私は口を噤んで引き結ぶ。


 ……そうだ。ここで私が諦めたら、試験に落ちたら、家族はどうなる。


 自分の両手を広げ、見つめる。

 ……私の結果に、全てがかかってるんだ。家族を支えられるのは、私しかいないんだ。


 両手をぎゅっと握り締め、顔を上げる。そして立ち上がり、マリサと向き合う。


「私、諦めてなんかいないよ。諦めちゃ、駄目なんだ」

 私の目をじっと見て、マリサは「そう」と無感情に呟く。


「なら、頑張って。もう二度と、あんな顔は見せないでね」

 そう言って、マリサは私の横を歩き去っていく。私は振り返らずに、「ありがとう」と囁き、両の手で頬を叩いた。


 こんなところで、終わってたまるか。絶対に、次に進んでやるんだ。




 午前中の残り1試合は、なんとか勝つことができた。通算、9勝4敗。

 ……4敗しちゃったけど、まだ大丈夫なんだろうか。う~ん、信じるしかないか。


 マリサは相変わらず全勝。しかも、未だにポイントを取られていない。彼女の強さは圧倒的だ。

 イライザも危なげなく全勝を守り、フランカも1敗のままだ。




「……どうしたんだ、ティナ。なんか、急に元気になったな」

 肉やら魚やらをガツガツ食べる私に、イライザは呆気にとられたような顔でそう言った。


「ん、まぁね」

 別に、元気になったわけじゃない。むしろ、これ以上負けられないというプレッシャーに押し潰されそうだ。


 だけど、そいつにおとなしく押し潰されちゃうのは、嫌だ。だからとにかく、無理矢理にでも心を強く保っていないと。


 初日に、なんとかっていうおじさんも言ってたじゃん。心が折れたら終わりだよって。


 その言葉通り、私は終わりかけていた。だけど、もうヤケでもなんでもいい。やってやるんだ。どんな奴が相手でも絶対に勝つ。負けても次は勝つ。負けを引きずらない。

 とにかく、もう私は落ち込まない!


「でも、ティナさんが元気になってよかったです。あんなに落ち込まれて、……どうなることかと思いました」

「ごめんね、フランカさん。もう、ホントに大丈夫だから」

 そして、向かいに座るマリサと目を合わせる。


「ありがとね、マリサさん。私、頑張るから」

 イライザとフランカも、マリサを見やる。マリサは3つの視線を静かに受け止め、私に「うん」と頷いた。


 その口の端には、確かに笑みが浮かんでいた。……すぐに消えたけどね。

あけましておめでとうございます。今年も頑張って小説を書いていこうと思いますので、よろしくお願いします。

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