12-3
一舞台につき、協会員が4人、審判として付く。
受験番号を呼ばれた2人の受験者が、舞台へ上がっていく。
試合を行う13面の舞台全ての準備が整ったところで、いよいよ1試合目の火蓋が切られた。
受験者は、特別な素材で作られた擬似剣を手に、戦う。
攻撃として認められるのは、その擬似剣によるもののみで、殴る蹴るなどの攻撃を仕掛けた場合、減点となる。
また、擬似剣で目などを突いた時も、減点。あまりに酷いようだと失格となり、負けとなる。
ちなみに、舞台の外に出てしまった場合も、減点だ。
攻撃有効箇所は、頭、両腕、胸、背中、両脚の7箇所。
両腕、両脚、背中、胸、頭の順に、獲得ポイントが高くなっていく。
制限時間は10分。その10分間で、獲得ポイントの多い方が勝利となる。
10分経った時点で同点だった場合は延長戦となり、先にポイントを獲得した方の勝ちとなる。
……全て、バラルトでの演習通りだ。
幾度となく行った、フランカとの戦いを思い出す。
横に大きく振られた一閃をしゃがんで躱し、低い体勢のまま前進。
そして、そのまま剣を振って相手の両脚を連続で叩いた後、横へ跳んで相手の攻撃をまた躱し、その隙を突いて振り向きざまに一閃。
その攻撃は、相手の右腕にヒットした。
「そこまでっ!」
互いに次の攻撃へ移ろうとした時、審判の声が弾けた。周囲の舞台からも、その声が上がって重なる。
私と相手は構えを解き、結果が告げられるのを待つ。
「53対48で、受験番号2079番の勝ち!」
拳をぐっと握り、心の中で「やった!」と叫ぶ。
まず1勝。勝てて良かったぁ~。
私は相手と握手をし、舞台を下りる。
「いたたたた……」
擬似剣といっても、ふにゃふにゃってわけじゃない。本気で打ち合えば、痛いのは当たり前だ。
頭に当たった時の衝撃は、すでに嫌というほど経験済みだから、とにかく頭に食らうのだけは避けようと、守りきった。
その代わり、散々打たれた両腕と両脚、あと背中が痛い。
相手も、そりゃ痛いだろうけど、そういうことは考えちゃいけない。甘さは、命取りになるからね。
「あ、マリサさん」
隣の舞台から下りてきたマリサと、目が合う。
「どうだった?」
歩み寄って聞いてみると、マリサは無感情な声で「勝った」と呟いた。
「私も勝ったよ。お互い、勝ててよかったね」
私の言葉に何を思ったのか、マリサは冷えた瞳で私をじっと見た後、「そうね」と一言だけ言って、離れていった。
その背中が、「ついてくるな」と言っているようで、私は後を追わず、1人で休憩時間を過ごすことにした。
その後も、私は順調に勝数を重ねていった。
自分でも、どうしてこんなに自在に身体を動かせるものかと試合中に驚くほど、絶好調だった。緊張による硬さも無い。っていうか、緊張はしていないように感じる。
本番に強いのかな、私。
終わってみれば、午前中の5試合は全勝。最高の出だしだよ。疲労はあるけど、それすら心地いい。
「とりあえず、みんな今のところ負けナシなわけだ。あんたら、結構やるじゃん」
フォークを動かしながら、イライザが感嘆の声をあげる。
朝と同様、同室の4人揃っての昼食。
そう。私以外の3人も、午前中は全勝だったようだ。私やイライザだけでなく、もちろんフランカも明るい表情でいる。
「おいおい。あんたもちっとは嬉しそうな顔したらどうなんだい?」
イライザの隣で、マリサが黙々と食事を続けている。その顔は、朝と全く変わらず、冷静そのものだった。嬉しさどころか、何ら感情が読み取れない顔をしている。
「……負ける気がしない」
しかし、無言を貫くだろうと思っていたその口が、言葉を紡いだ。まさか反応があるとは思っていなかったのだろう、イライザは目を丸くしている。
「当然だろ」
イライザが何か言おうとしかけた時、またあの声が発した。リュシーだ。
テッサを伴って現れた彼女は、朝と同様、またしてもマリサの方へ歩み寄っていく。
……私たちの話、盗み聞きしてたのか。
「あたしと当たるまでは、全勝でいてもらわねぇとな」
食事を続けるマリサの横にしゃがみ、じろじろと覗きこむリュシー。あれはかなり鬱陶しいはずだ。だけど、やっぱりマリサは動じない。
けれど、リュシーはその態度に怒らずに立ち上がり、なぜか私にじろりと視線を向けてきた。
「おい。あんたも確か、C組だよな。今のところ勝ってるらしいけど、予言しといてやるよ。今日の午後、あんたは1敗するぜ? テッサと当たるからな」
そう言って、テッサの肩をばしっと叩く。叩かれたテッサは顔を歪めた。
「こいつは、あたしにゃちょっと及ばねぇけど、あたしと同じくらい強いんだ。こいつに勝てねぇようじゃあ、あたしにも勝てねぇ。ってことは、マリサにも勝てねぇだろうから、もう3敗は確定だな。あんた、二次で落ちんじゃねぇの?」
急に矛先を向けられて戸惑ったけど、ここで黙ってちゃ駄目だ。
私は立ち上がり、リュシーと対峙する。背中に、「ティナさん」とフランカの声が当たる。
「……なんだよ」
私の態度に、リュシーは眼光を鋭くし、さらに近付いて睥睨してきた。
「私は負けないよ。特に、あなたには負けない。絶対勝ってやる」
「あぁ?」
そして、睨み合い。おそらく周囲には、一触即発の状況として映っているはずだ。
実際、少しでも手を出してきたら、迎え撃つつもりでいた。
「あ?」
それを断ち切ったのは、テッサでもイライザでもなく、マリサだった。彼女は、リュシーの左腕を掴み、冷たいだけだったはずの瞳に、何かしらの感情を宿していた。
「なんだよ、マリサ」
なぜか鼻白んだリュシーは、マリサの方へ向き直る。
「食事の邪魔をしないで」
何を言うのかと思いきや、マリサが放ったのは、食事妨害に対するただの文句だった。そういえば朝も、同じようなことを言ってたな。
……私のためじゃ、ないのかな?
「うっせぇな。知るかよ。離せ」
マリサの手を振り払い、テッサに「行くぞ」と言って、食堂を出て行くリュシー。
その目は、食堂を出て見えなくなるまで、私を睨み付けていた。




