10-2
翌日、朝早くに身支度を整えた私は、駅へ急いだ。
父と、登校前の弟たちも一緒だ。
「1つくらい遅らせてもいいんじゃないか?」
早足で進む私の背中に、そんな言葉をぶつける父。
「だって、早く行きたいんだもん」
本試験場への集合時間から考えると、確かに、もう1つ遅い汽車に乗っても充分に間に合うだろう。だけど、なんか妙に気が急いてしまって仕方ないんだ。
急激に湧き上がってきたやる気や自信のせいだろうか。とにかく、早く試験場へ行きたかった。
「そんなに早く行って、フランカは大丈夫なのか? 駅に来てなかったらどうするんだ」
「その時は……」
その時だ。
「なんだって?」
「なんでもない!」
駅舎が見えてくるのとほぼ同時に、遠くで汽車の汽笛が聞こえた。
必要な物が入ったバッグ、ベルトにさげた剣。それらをもう一度確かめてから、私は並んで立っている家族を見やる。
「じゃ、行ってくるね」
後ろでは、汽車が発車の時を待っている。
「おう、頑張ってこい」
そう言って力強い笑みを見せる父。この笑顔も、これから15日間見ることができない。
そう思うと、寂しい。
「行ってらっしゃい。頑張ってね、姉ちゃん」
「最後まで、諦めちゃ駄目だよ!」
寂しいと言えば、スヴェンとミリィの顔も、しばらく見られないんだ。
15日間か。
……そういえば、そんなに長い間外出したこと、今まで無いなぁ。
「うん! 分かってる」
でも、もう不安は無い。心は、やる気に満ち満ちている。
「行ってきます!」
バッグを持ち直し、家族に背を向ける。
そして歩き出す。家族の声援が背中に当たるけど、もう振り返らない。
――行ってきます。
心の中でもう一度そう言って、汽車に乗り込んだ。
汽車に揺られて約2時間。エンシーナに到着。
さてと、フランカは来てるかな……。
汽車から降りた私は、とりあえず自分が立っているホームを見渡した。だけど、フランカの姿は無い。
人ごみと呼ぶほど混んではいないから、注意深く探せば見つかるはずだ。
「……いないな」
どうやら、早く来すぎたようだ。
「……」
いや、待てよ? もしも小試験に受かってなかったら、フランカはここには来ないんじゃ?
でも、いやいや、それは無いでしょ。彼女は、小試験で私と同じくらいの成績を取ってるはずなんだ。だから、落ちてるわけない。
……不安になってきちゃったな。信じなくちゃいけないのに。
とにかく、移動しよう。首都カランカ行きの汽車は、2つ向こうのホーム。もしかしたら、そっちにいるかもしれない。移動している間に会うかもしれないし。
行き交う人々の波に合流し、私は目的のホームへと移動した。
……が、いない。
まだ、汽車が来るまでに時間はある。でも、このまま会えなかったら……。
どうする? 修道院まで行ってみる? 1つ遅らせるくらいの時間の余裕はあるし。
「……」
やっぱり、行こう。うん。フランカに会いに行こう。
下ろしていたバッグを持ち上げ、駅の外へ向かおうとした私の肩に、何かがとんとんと触れる。
「!」
びっくりして振り返ると、そこにあったのは無邪気な微笑み。
「……フランカさん!」
「おはようございます、ティナさん」
赤縁の伊達眼鏡を掛けた美少女が、そこにいた。
「え? どうして? さっきまでいなかったのに」
フランカは、このホームへと続く階段からではなく、私が立っている場所よりも奥から現れたようだ。
「あそこに隠れて、ティナさんのことを見ていたんです」
焦る私に、フランカは可笑しそうに笑って、奥にある柱を指差す。
「……なんだぁ、もう。来ないのかと思って心配しちゃったじゃない」
うふふと笑って、フランカは「ごめんなさい」と首を傾げた。
「じゃあ、フランカさんも小試験受かったんだね」
「ええ。……あ、そうだ。エンシーナ小試験場での順位、ティナさんが1位ですよね?」
「うん。もしかして、フランカさんが2位?」
確信を持って問うと、フランカは「はい」と頷いた。やっぱりな。
「全体の順位は?」
「えっと、81位でした」
「私、79位」
こちらもやっぱり、ほとんど順位は離れてなかったか。
「あ、そうだ」
大事なことを思い出した。
「試験場にさ、受験者用の宿舎があるらしいんだけど、フランカさん、部屋どこになった?」
同室となるのは、無作為で選ばれる4人。私は、2番女子棟の101号室。
果たして、フランカは? ドキドキしながら答えを待つ。
「えぇっと、……確か、2番女子棟の101号室だったはずですが」
「えっ?」
自分の耳を疑うとは、まさにこのこと。
……こんな偶然って、ある?
「私も同じだよ。2番女子棟の101号室」
「本当ですか? よかった。ティナさんと離れ離れになったら、心細いなって思っていたんですよ」
ホッと、胸を撫で下ろす思いだ。私たちは、その驚きの偶然を喜び合った。
……やっぱり、昨日会いに行くべきだったかな。そしたら、もっと早く喜びを分かち合えたのに。
でも、ホントよかったぁ~。




