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小試験の順位に対する動揺を引きずりつつも、私は表面上淡々と、本試験が行われるオルトリンデ試験場へ行く支度を整えていった。
小試験の結果と共に送られてきた書類によると、本試験は15日間の日程で行うらしい。
本試験場は、オルトリンデ王国首都のカランカにあるから、小試験の時のように、終わってすぐに帰宅するというわけにはいかない。カランカは遠いから、15日間も家から通ってたら、それだけで疲れちゃう。
それを解決するのが、受験者用の宿舎の存在だ。
試験場敷地内にあるそれは、二階建てで、一棟につき17部屋。全室4人部屋で、その4人は順位順ではなく、無作為に決められるらしい。
書類によると、私は2番女子棟の101号室のようだ。
本試験の受験票も、同じ封書に入っていた。
私の受験番号は、2079番。どうやら、小試験の総合順位がそのまま使われるらしい。
父によると、男子は1000番台、女子は2000番台になるようで、細かいシステムはあの頃のままだなと笑っていた。
……着替えに、受験票、あと絶対に必要なものは、剣。
二次試験の次の最終試験では、真剣を使う。
剣は、向こうでも用意してくれるそうだけど、自前の物を推奨すると書類に書かれていたので、使い慣れた剣を持っていく受験者がほとんどだろう。
推奨なんかされてなくても、私は自分の剣を持っていくつもりだったけどね。
「……よし。このくらいかな」
必要な物は、剣以外、全てバッグに詰め込んだ……はず。
私はもう一度書類を確認し、バッグの中を確認し、頷く。大丈夫、揃ってる。
自室のベッドに腰掛け、大きく息を吐く。そしてそのまま横にどさっと倒れ、ごろりと仰向けになる。
まだ夕方前。窓から射し込む日の光は明るく、暖かい。
静かだ。こう静かだと、いろいろ考えちゃうな。
……フランカは、今頃どうしているだろうか。
っていうか、あの子はちゃんと小試験受かったんだろうか。やっぱ、昨日会いに行っておくべきだったかなぁ。
いや、受かってるとは思うんだよ。小試験、私とあの子で競ってたようなもんだし、絶対大丈夫だとは思うけど……。
……信じよう。
小試験を受けた日、本試験の日はエンシーナの駅のホームで待ち合わせしようって約束しておいたし、受かってれば、ホームにいるはず。うん、大丈夫。あの子は絶対にいる。
……あ~、でも、やっぱ会いに行けばよかったなぁ。
「部屋……」
そうだ、フランカはどの部屋に入ることになったんだろう。
4人部屋で、その4人は無作為に選ばれるらしいけど、……できれば、同じ部屋がいいなぁ。だって、心細いじゃん。
やだよ、ゴリラみたいな女3人と一緒の部屋は。怖すぎて、絶対試験に集中できない。
「……」
父の、「平常心」という言葉が脳裏をよぎる。
私は上体を起こし、目を閉じて3回、大きく深呼吸をした。
そして再び目を開けた時、私は、…………まぁ、それで落ち着けるなら、こんなことにはなってないって話だよ。
明日から、本試験が始まってしまう。それまでに、少しでも緊張を解しておきたいんだけどなぁ。
さて、どうしよう……。
それから、外に出て軽く運動したりしてみたけど、結局、私は平常心を取り戻すことはできなかった。悩んでいるうちに弟たちが学校から帰ってきて、夕食の時間だ。
「どうしたの、姉ちゃん。……美味しくなかった?」
「……へ?」
ぐるりぐるりと思考の渦に飲まれていた私は、向かいに座るミリィの声に引き上げられる。
「そんなことないよ。美味しいよ?」
そう、美味しい。ミリィは料理の才能があったのかな。もうすでに、私では追いつけないほどに上達していた。
6年くらいずっと家事をしてきた私にとって、それはちょっとショックだったけれど、嬉しくもあった。
私は笑って誤魔化して、野菜スープを掬う。
「明日からのことを、考えてるんだろ」
隣に座る父が、一足先に食事を終えてそう言った。すると、ミリィと、その隣のスヴェンの視線が私を捉える。
「そうなの? 姉ちゃん」
咎めるようなミリィの眼光に負けた私は、「うん……」と小さく頷いていた。
「なんか、いろいろ考えちゃって落ち着かないんだ。小試験の時は、こんなことなかったのに」
小試験の結果を見てから、それは始まった。父が言ったように、小試験の結果で動揺なんかしてる場合じゃない。それはわかってるのに、どうにも、駄目なんだ……。
「……私、合格できるのかなぁ」
思わず、そんな弱音が漏れる。と同時に、不安がまた一層濃い膜で、私の心を包んでいく。
「俺に傭兵になりたいって熱弁してた時の勢いは、どこ行ったんだ?」
「……」
それを言われると、返す言葉が無い。
父は、口元に微笑を貼り付けたまま言葉を続ける。
「不安になったり、緊張したりするのは、わからんでもない。実際、俺も受験の時はそうだったしな。だが、始まる前からそんなこと言っててどうする。自分の力を信じろよ。俺は信じてるよ、お前の力を」
「お父さん……」
父は、私の目を見て、ニッと白い歯を見せた。
「そうだよ。僕らも信じてるよ。な、ミリィ」
「うん。信じてる。姉ちゃん、あんなに頑張ってたんだもん。絶対に大丈夫だよ」
スヴェンとミリィも、私に微笑みかけてくれる。
「あんたたち……」
思わず、涙が出そうになった。
「……うん、そだね。自分を信じないと。ごめん、もう大丈夫。……ありがとう」
私って、単純だ。家族に元気づけられただけで、心を覆う不安の膜が溶けて消えた。その瞬間から、考え方まで変わっちゃうんだもん。ホント、単純だ。
……そうだ。私は強い。私は、できる。
絶対に、合格してやるんだ。




