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マーセナリーガール -傭兵採用試験-  作者: 海野ゆーひ
第10話「首都カランカ」
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10-1

 小試験の順位に対する動揺を引きずりつつも、私は表面上淡々と、本試験が行われるオルトリンデ試験場へ行く支度を整えていった。



 小試験の結果と共に送られてきた書類によると、本試験は15日間の日程で行うらしい。


 本試験場は、オルトリンデ王国首都のカランカにあるから、小試験の時のように、終わってすぐに帰宅するというわけにはいかない。カランカは遠いから、15日間も家から通ってたら、それだけで疲れちゃう。


 それを解決するのが、受験者用の宿舎の存在だ。

 試験場敷地内にあるそれは、二階建てで、一棟につき17部屋。全室4人部屋で、その4人は順位順ではなく、無作為に決められるらしい。

 書類によると、私は2番女子棟の101号室のようだ。


 本試験の受験票も、同じ封書に入っていた。

 私の受験番号は、2079番。どうやら、小試験の総合順位がそのまま使われるらしい。

 父によると、男子は1000番台、女子は2000番台になるようで、細かいシステムはあの頃のままだなと笑っていた。


 ……着替えに、受験票、あと絶対に必要なものは、剣。


 二次試験の次の最終試験では、真剣を使う。

 剣は、向こうでも用意してくれるそうだけど、自前の物を推奨すると書類に書かれていたので、使い慣れた剣を持っていく受験者がほとんどだろう。

 推奨なんかされてなくても、私は自分の剣を持っていくつもりだったけどね。



「……よし。このくらいかな」


 必要な物は、剣以外、全てバッグに詰め込んだ……はず。

 私はもう一度書類を確認し、バッグの中を確認し、頷く。大丈夫、揃ってる。


 自室のベッドに腰掛け、大きく息を吐く。そしてそのまま横にどさっと倒れ、ごろりと仰向けになる。

 まだ夕方前。窓から射し込む日の光は明るく、暖かい。


 静かだ。こう静かだと、いろいろ考えちゃうな。


 ……フランカは、今頃どうしているだろうか。

 っていうか、あの子はちゃんと小試験受かったんだろうか。やっぱ、昨日会いに行っておくべきだったかなぁ。


 いや、受かってるとは思うんだよ。小試験、私とあの子で競ってたようなもんだし、絶対大丈夫だとは思うけど……。


 ……信じよう。


 小試験を受けた日、本試験の日はエンシーナの駅のホームで待ち合わせしようって約束しておいたし、受かってれば、ホームにいるはず。うん、大丈夫。あの子は絶対にいる。


 ……あ~、でも、やっぱ会いに行けばよかったなぁ。


「部屋……」

 そうだ、フランカはどの部屋に入ることになったんだろう。


 4人部屋で、その4人は無作為に選ばれるらしいけど、……できれば、同じ部屋がいいなぁ。だって、心細いじゃん。

 やだよ、ゴリラみたいな女3人と一緒の部屋は。怖すぎて、絶対試験に集中できない。


「……」

 父の、「平常心」という言葉が脳裏をよぎる。


 私は上体を起こし、目を閉じて3回、大きく深呼吸をした。

 そして再び目を開けた時、私は、…………まぁ、それで落ち着けるなら、こんなことにはなってないって話だよ。


 明日から、本試験が始まってしまう。それまでに、少しでも緊張を解しておきたいんだけどなぁ。


 さて、どうしよう……。




 それから、外に出て軽く運動したりしてみたけど、結局、私は平常心を取り戻すことはできなかった。悩んでいるうちに弟たちが学校から帰ってきて、夕食の時間だ。




「どうしたの、姉ちゃん。……美味しくなかった?」

「……へ?」

 ぐるりぐるりと思考の渦に飲まれていた私は、向かいに座るミリィの声に引き上げられる。


「そんなことないよ。美味しいよ?」

 そう、美味しい。ミリィは料理の才能があったのかな。もうすでに、私では追いつけないほどに上達していた。


 6年くらいずっと家事をしてきた私にとって、それはちょっとショックだったけれど、嬉しくもあった。


 私は笑って誤魔化して、野菜スープを掬う。


「明日からのことを、考えてるんだろ」

 隣に座る父が、一足先に食事を終えてそう言った。すると、ミリィと、その隣のスヴェンの視線が私を捉える。


「そうなの? 姉ちゃん」

 咎めるようなミリィの眼光に負けた私は、「うん……」と小さく頷いていた。


「なんか、いろいろ考えちゃって落ち着かないんだ。小試験の時は、こんなことなかったのに」

 小試験の結果を見てから、それは始まった。父が言ったように、小試験の結果で動揺なんかしてる場合じゃない。それはわかってるのに、どうにも、駄目なんだ……。


「……私、合格できるのかなぁ」

 思わず、そんな弱音が漏れる。と同時に、不安がまた一層濃い膜で、私の心を包んでいく。


「俺に傭兵になりたいって熱弁してた時の勢いは、どこ行ったんだ?」

「……」

 それを言われると、返す言葉が無い。


 父は、口元に微笑を貼り付けたまま言葉を続ける。


「不安になったり、緊張したりするのは、わからんでもない。実際、俺も受験の時はそうだったしな。だが、始まる前からそんなこと言っててどうする。自分の力を信じろよ。俺は信じてるよ、お前の力を」

「お父さん……」

 父は、私の目を見て、ニッと白い歯を見せた。


「そうだよ。僕らも信じてるよ。な、ミリィ」

「うん。信じてる。姉ちゃん、あんなに頑張ってたんだもん。絶対に大丈夫だよ」

 スヴェンとミリィも、私に微笑みかけてくれる。


「あんたたち……」

 思わず、涙が出そうになった。


「……うん、そだね。自分を信じないと。ごめん、もう大丈夫。……ありがとう」

 私って、単純だ。家族に元気づけられただけで、心を覆う不安の膜が溶けて消えた。その瞬間から、考え方まで変わっちゃうんだもん。ホント、単純だ。


 ……そうだ。私は強い。私は、できる。

 絶対に、合格してやるんだ。

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