09-4
家に帰り、父に小試験のことを話して聞かせると、返ってきたのは笑い声だった。
「そうかそうか、そんなに余裕だったか。それでお前、そんな冴えない顔してんだな」
父は、おかしくてたまらないって感じで笑っている。
「……だって、結局さ、フランカさんと2人で競ってるみたいな感じで、訓練の時とやってること変わんないんだもん」
そう。あの場で私たちは、明らかに浮いていた。みんな、遠巻きに私たちに驚くだけで、誰一人として話しかけてくれないし。
それってつまり、避けられてたってことでしょ?
「でも、まぁ、良かったじゃねぇか。めでたく本試験に進めるんだ。そこまでぶっちぎりとは思ってなかったが、俺の予想は見事に当たってたわけだ」
「……そだね。でも、もうちょっとこう、熱くなりたかったなぁ」
ダイニングで、テーブルを挟んで向かい合う私と父。スヴェンとミリィは、まだ学校。
いや、もう下校時間かな。
父は、自分で入れたコーヒーを一口飲んで、「なれるさ」と言う。
「本試験に進めるのは、お前らみたいな頭一つ抜きん出たような奴らばかりだ。どいつもこいつも強いと思うぜ? 二次試験からは、お望み通りの熱い戦いができるんじゃねぇかな」
「だといいけど」
その人たちも大したことなかったら、たとえ合格できたとしても、きっと嬉しくない。
やっぱり、壁は高くないと面白くないよ。
「言うようになったじゃねぇか。ま、本試験も同じように強気で臨むんだな。一瞬でも弱気になったり気を抜いたりしたら、そこで終わりだと思っとけ」
実際に試験をくぐり抜けた父が言うんだ。きっと、本試験は小試験とは比べ物にならないほどの困難が待ち受けているんだろう。
……楽しみだよ。
「あ、そうだ」
そこで、汽車で乗り合わせた少年のことを思い出す。
「ねぇ、お父――」
「ただいまー!」
私の声をかき消すくらいの大声を響かせ、スヴェンとミリィが揃って帰ってきた。
……まぁいっか。後で話そう。
「おかえりー」
私は弟たちを出迎えるために、ダイニングから玄関の方へ向かった。
入浴を済ませ、寝支度を整えた後、リビングでくつろぐ父に、あの少年のことを話して聞かせた。
父を、クレイグ・ロンベルクを知っていたあの少年。
しかし父は、そんな奴に心当たりは無いと言う。父の若い頃を知ってたと伝えると、馬鹿げた話だと一蹴。まぁ、それには私も同意見だ。
やっぱり、あの少年はおかしい。すると父は、揶揄するように言った。
「お前、からかわれたんじゃねぇか?」
……なるほど。そう考えると納得だ。そして同時に、怒りが湧いてくる。
あいつ、今度もし会うようなことがあったら、文句言ってやんなきゃ。
……あ。そういえば、あいつの名前、なんていうんだろう。
小試験から5日後、協会から一通の封書が届いた。
ついに来た。この中に、小試験の結果が入っている。
私はそれを持って、ダイニングへ向かった。
緊張は無い。心は穏やかで、揺らぎも無い。
私は封書の口を丁寧に開け、中身を取り出す。そして、ある文字を探す。
「……!」
あった。その文字を見た時はさすがに、少し心が高揚した。
「合格」
質の良い白い紙に、私の小試験の結果が記されている。
――あなたは、第132期・傭兵採用試験・小試験の結果、合格となりましたのでここに通知します――
確かに、そう書いてある。
「おう、試験結果届いたんだろ。どうだった?」
そう言ってから、「聞くまでもねぇんだろうがな」と続けて、父が歩み寄ってきた。
「おお、やっぱ合格か。おめでとう」
「……うん。ありがと」
しかし、私の目は別の小さな紙に移っていた。
「どうした。……ん、それなんだ?」
私が凝視している部分には、こう書かれている。
――小試験結果 エンシーナ小試験場:1位/27人中 全体:79位/1716人中――
「本試験に進めたのは、男子232人、女子104人か。随分減ったなぁ。俺の頃よりだいぶ厳しくなってねぇか、これ」
父は別のところを見ている。私が見ているのは、そのすぐ下だ。
「79位……」
あの小試験場では1位でも、全体で見れば79位。その数字に、私は愕然とする。
確か、本試験の合格者数は、一国につき60人ほど。男女合わせて60人だ。
つまり、このままではどうひっくり返ったって合格できないってことになる。
「おい。なんて顔してんだよ」
父の声に、紙を持つ手がぶるっと震えた。
「別に……」
「まだ、不合格と決まったわけじゃないだろ。小試験の順位なんかで動揺してどうすんだ」
そ、そうだ。まだ駄目と決まったわけじゃない。そんなの、わかってる。
だけど、いざこうして現実を突きつけられると、正直、心にグサッとくる。
2日後から始まる本試験で私は、私より上の78人と戦って勝ち進まなくちゃいけないわけだ。
いや、私以外の103人はみんな、私と同等か、それ以上の実力者と見た方がいいかもしれない。
……不安だ。鼓動が激しくなっていく。
小試験の時は、微風すら吹かなかった草原が、今は激しい風雨に晒され、大荒れだ。その中では、普通に立っていることすらままならない。
「分かってる。……大丈夫だよ、お父さん」
馬鹿だな、私。やっぱり、調子に乗ってたんだ。
もうこの先、楽な戦いなんて一つも無い。それは私が軽々しく望んでいたことではあるけれど、今となっては、私から平静さを奪う原因でしかない。
こんなので、合格なんかできるんだろうか……。




