09-3
……結論から言えば、一次試験は終始順調に、実力を充分に出し切ることができた。
私とフランカの成績は、女子27人の中でも群を抜いていることだろう。
レオーネを外に待たせ、私とフランカはエンシーナ小試験場の中へ。
ゴルドベルグ修道院より遥かに広大な敷地の中に、室外種目のためのグラウンドと、室内種目のための施設が入っている。
エントランスホールの受付で受験票を提示し、それぞれの受験番号が白く刺繍されたリストバンドをもらう。それをはめて、奥に進めとのこと。
荷物は、エントランスの壁際にある鍵付きロッカーに入れるよう言われたので、空いているロッカーに荷物を入れて、奥の通路へ向かった。
通路の突き当たりにある両開きのドアは開いていて、そこからグラウンドへ。
グラウンドには、すでにほかの受験者らがいて、受験者同士で話をしたり、軽い運動をしたりと、試験開始までの時間を自由に過ごしていた。
私とフランカは、グラウンドに出てすぐの場所にできた日陰で、静かにその時を待つことに。
やがて小試験開始時刻となり、係員となる傭兵支援協会の協会員が、私たち受験者に集合をかけた。
集合は、男女別。試験も別々に進め、成績も別々に出される。
つまり、男子は男子だけ、女子は女子だけの成績で、通過者が決まるってことだ。このことは、受験票と一緒に届いた書類に書いてあったから知っている。
男女合同だったら、絶対に女子の方が不利だもんね。
そして、男子は室外種目から、女子は室内種目からスタートすることが決まり、それぞれの試験場所へ移動した。
ほかの受験者が、妙に強そうに見える。私よりも背が高かったり、腕や脚が筋肉ですごく太かったり、顔も怖い人が多かった。
この人らは、本当に私たちと同年代なんだろうかというのが、最初の印象だ。なんだか、みんな大人に見えたんだよね。
だけど、すぐにその印象は塗り替えられた。彼女たちが、同年代と思わせるような女の子らしさを見せたわけじゃない。
みんな、大したことなかったんだ。
筋力、筋持久力、跳躍力、敏捷性などを計るための6種目。そのいずれも、私とフランカが、一歩どころか五歩も六歩も飛び抜けていたと思う。
とにかく、大したことない。思わず首を捻ってしまうほどだった。
そして、男子が室外種目を全て終えるのを待ち、交代。
グラウンドでまず最初にやったのは、50メートル走。走力を見る種目だ。
短距離だろうが長距離だろうが、私たちは死ぬほど走り込んできた。
いや、実際に何回か死んだかもしれない。それくらいの苦痛を味わい続けたんだ。
だから、50メートル走も、ほかの種目をやって少し休憩を置いた後にやった5000メートル持久走も、なんのことはない。
とにかく終始、私たちはトップ。私とフランカで、トップ争いをしている状態だった。
そうした中で、私とフランカは彼女らに注目されていき、その視線に含まれる驚愕が、じょじょに大きなものになっていくのを感じ取る。
……でも、それが私に快感をもたらすことはなかった。きっと、フランカもそうだろう。
なぜなら、私たちはずっと平常心だったから。
正直、終わった後の落胆は大きかった。
だって、受験者はみんな、私たちと同じかそれ以上の実力を持っていると思っていたから。
だからこそ、絶対に負けない、誰よりも上に行ってやるんだって、燃えてたわけだし。
それが今では、消えかけの火がわずかに残る程度。ここから再燃させるためには、燃料が足りなさすぎるよ。
一次試験の結果は、1週間後の本試験までに封書で通知されるらしい。
私とフランカは、言うまでもなく通過だろう。別に、調子に乗ってるわけじゃない。
……なるほど確かに、父の言っていた通りの結果になったわけだ。
そう、結果なんて見なくてもわかる。ほかの女子受験者や、係員たちの反応を見ても、それは火を見るよりも明らかだった。
結果発表に対するドキドキ感なんて皆無。
そう。とてもつまらない。
エンシーナ小試験場を出ると、外で待っていたレオーネが歩み寄ってきた。
そして、フランカに「どうでしたか」と問うけど、フランカは薄く微笑むだけで、答えようとはしない。
それがかえってレオーネを不安にさせたみたいだけど、私が「余裕」と呟いてやると、レオーネは私とフランカを交互に見やり、何を感じ取ったか、もうそのことに関して問いかけてくることはなかった。
時刻は昼過ぎ。私はフランカの誘いで、修道院で昼食を摂ることになった。
修道院での食事は、なんというか、芋と豆、って感じだった。あと、サラダ。妙にボリュームはあったけど、ヘルシーでもあった。味付けも、かなり健康的な感じ。肉や魚は食べないって聞いていたけど、まさか本当にまるでそういう要素が無いとはね。
でも、まぁ、美味しかったよ。ごくたま~になら、こういうのもいいかなと思った。
すでに昼食を摂り終えていた修道女たちは、皆それぞれ、何やら仕事をしていた。
手芸品を作ったり、外へボランティア活動に行く者もいるらしい。その中に混じって、ジゼルたちも同じように仕事をこなしているみたいだけど、その日会うことはなかった。
駅前広場で、見送りに来てくれたフランカと並んでベンチに座る。
モンテスへの汽車は、まだしばらく来ない。だけど、エンシーナの街を見て回る気も起きず、座って待つことにした。
……肉体的な疲労は、ほとんど感じてない。
「……本試験は、こんなんじゃないよね」
脳裏に浮かんだ言葉が、呟きとなって漏れ出ていた。
「……そうですね。きっと、私たちと同じくらいかそれ以上の方々が、集まるはずですから」
そうでなくちゃ困る。誰も、こんな生易しい試験を望んじゃいないんだ。
「早く、行きたいね。本試験」
「そうですね」
私たちはどちらからともなく、青い空を見上げる。そして、静かに息を吐いた。




