07-3
キアラかロザリーのどっちかに腕を引っ張られ、私は庭の噴水の縁に座らされた。
そして、2人の修道女の非常に厳しい眼光を浴びることに。
腕組んでさ、怖いのなんのって。
「どういうことか説明しなさい」
濃い青色の瞳の子が、ずいっと顔を近付けてくる。私をここまで引っ張ってきた子だ。
「説明って、何を?」
この子らが何を聞きたいのかは、大体分かってる。でも、無理矢理腕引っ張られてさ、こっちもちょっとむかついてるんだ、多少の意地悪はいいだろう。
すると今度は、その隣にいる濃い茶色の瞳の子が、同じくずいっと顔を近付けてきて言った。
「だからぁ、姫様とあんたのお父さんの関係だよぉ。ね、あの2人さ、どこまで行ってんの?」
こっちの子は、急に表情が変わった。
2人共同じことを聞こうとしてるけど、一方は干渉で、もう一方は単なる興味本位って感じ。
私はすぐに2つの視線に耐えられなくなり、早々に口を割ることにした。
「……どこまで行ってるとか、そんなことは知らない。でも、フランカさんは、……私のお父さんのことが好きなんだと思う」
私が言えるのは、これくらいだ。だって、本当に知らないから。
2人は、私の表情から何かを読み取ろうとするかのようにさらに凝視した後、諦めるように顔を離した。
「……あなたのお父さん、クレイグさんって、いくつなの?」
そう問いかけてくるのは、青い目の子だ。私が「41」と答えてやると、「41!」と目を丸くして、声を張り上げた。
「姫様と25も違うじゃない。そ、そんなの許されない。犯罪よ、犯罪!」
「え~? んなことないっしょ。好きならさ、歳の差なんて関係ないって。それにさ、あの人背ぇ高いしさ、顔もなかなかイイと思うよ? 歳の割りに若く見えるし、身体も逞しいしさ。ロザリーだって、ああいう男好きでしょ?」
「なっ、何言ってんの、キアラ。私は別に……」
「え~? だってさぁ、前にも……」
……この子らは、私の存在を忘れたのだろうか。2人でべらべら仲良く喋り出したぞ。
ん~、でも、まぁ、このキアラという子は、なかなか見る目あるな。うんうん。
「あのぉ……」
それはさておき、放ったらかしにされるのは気分が良くない。声を発すると、2人は会話を中断して私の方を見た。……どうやら、本当に私の存在を忘れていたようだ。
そして再び2人で顔を見合わせ、「ねぇ」と声を揃えてさらに詰め寄ってきた。
「あんたのお父さんのこと、詳しく聞かせてもらえる? 一応、姫様から大体のことは聞いたんだけどさぁ」
楽しげに茶色の瞳を輝かせながら、キアラは私の左側に座った。やや遅れて、私の右側に青色の瞳を私に固定したロザリーが腰を下ろす。
……なんか、面倒くさいことになっちゃったなぁ。
父のことを話すといっても、すでにフランカに大体のことは聞いたと言っていた通り、2人は私の話すことに「知ってる」とか「聞いた」とか、聞きたいのはそんなことじゃないと言うような反応だった。
ただ、父が右腕を失った話については、興味深そうに耳を傾けていた。その後1年間、父がどんな様子だったのかという話も。
……まぁ、こっちはあんまり詳しく話さなかったけど。他人に教えるようなことじゃないしさ。
「……ふぅん。ってことはさ、あんたの意思があんたのお父さんの目を覚まさせたんだね」
足をぱたぱたと動かしながら呟くキアラ。私は笑って、「そうかもね」と応じる。
「きっとクレイグさんは、傭兵を辞めてからも剣を忘れられなかったんだね。で、あなたが傭兵になりたいって言ってきたから、内に溜め込んでた思いが爆発したっていうかさ、ずっと何かしたいと思ってたんだよ」
いいこと言うなぁ、このロザリーって子も。
……でも、そっか。そういう考え方もできるよね。
私が、父の目を覚まさせた、……か。
……いや、それは単なる自惚れじゃないか?
ただ、もし本当にそうなら、嬉しいなってだけで。
「何笑ってんの?」
気付くと、キアラが私の顔をじっと見ていた。私は愛想笑いを浮かべて、「なんでもないよ」と返す。……話題を変えよう。
「ねぇ、2人はいくつなの? 私は14歳だけど」
顔だけ見れば、っていうか修道服のせいで顔しか出てないんだけど、私とそんなに変わらないように見える。背丈も同じくらいだし。
「あ、じゃあ私らの方が1つ上だ。私ら15だもん」
そう答えたキアラは、「ね~」とロザリーに首を傾げてみせる。
「ねぇねぇ、今度は2人のことを聞かせてよ。私も、お父さんのこと話したしさ」
父が戻ってくるまで暇だし、何より、同年代の子と話すのは楽しいかもしれないって思ったんだ。同年代と言えばフランカもだけどさ、たまにはほかの子とも喋りたいよ。
キアラとロザリーが、争うように城での話なんかを始めてからどれくらい経っただろう。
「あ、お父さん」
父が、何やら紙袋を提げて戻ってきた。噴水の縁から下りて駆け寄る私に、父は「おう、何してんだこんなとこで」と聞いてくる。
「もぉ、どこ行ってたの? あれからどれだけ時間が経ったと思ってんの」
すると父は、「わりぃわりぃ」と悪びれる様子もなく言うと、左手に持っていた薄茶色の小さな紙袋を持ち上げて見せた。
「安いのを探すのに、手間取ってな」
「何、それ」
私の問いを無視して、父は修道院へ向けて歩を再開する。
その後ろを追いながら同じ質問をする私に対し、父は「ついてくりゃわかる。ちょっとしたプレゼントだよ」と言った。
……プレゼント? プレゼントって、フランカに?
「……」
後ろからキアラとロザリーがついてくる気配を感じながら、私は父と一緒に修道院に入り、フランカたちのいる客間へと戻った。




