04-4
モンテスの駅に着いた頃には、もう街の明かりは少なくなっていた。
結構遅くなっちゃったな。スヴェンとミリィは、夕食を終えてお風呂に入っている頃だろうか。
等間隔に設置された街灯に照らされる夜道を、父と並んで歩く。人の姿は少なく、すれ違う人もいない。
私は、ずっと気になっていたことを父に問いかけてみることにした。
「ねぇ、お父さん」
「ん、何だ?」
父の顔を見上げる。
「どうしてさっき、あの子のいる修道院に行きたいなんて言ったの?」
すると父は、「ああ……」と思い出すように呟いてから、口を開く。
「俺な、昔、多分あの子に1回会ってると思うんだ」
「えっ?」
どういうこと? 昔、フランカと会ってた? なんで? どこで?
「……だが、俺の勘違いかもしれん。だから、今度確かめに行くんだよ」
「わざわざ、あの子が住んでいるところに?」
「ああ。俺の勘違いでなけりゃあ、きっとあの子の関係者も一緒に暮らしてるはずだ」
「関係者……?」
父は「ああ」と言ったきり、黙り込んでしまった。私はもっと質問したかったけど、父は難しい顔で何かを考えている様子だったから、聞くのをやめた。
その代わり、自分なりにちょっと考えてみる。
……父がフランカに対してやけに優しかったのは、顔見知りだったからってことかな。
いや、でも、父のことだから、そうでなくとも何かしらあの子に手を貸していたかもしれない。父は、そういう人だ。
それより、父の言う“昔”っていうのは、どのくらい前の話なんだろうか。
フランカは16歳だから、彼女が生まれた16年前から今日までの間の話というのはわかる。
昔と言うくらいだから、ここ数年ってことはないよね。少なくとも、父が酒浸りになってた1年間は違う。
だとすると、それより前。父が傭兵だった頃。そしてきっと、もっと若い頃の話ってことになる。
それと、父は今のフランカを見て「もしや」と思ったわけだから、昔出会った時の面影があるかも、くらいの認識なはず。
とすると、以前会った時、フランカはかなり幼かったことになる。
仮にその時のフランカを6歳とすると、父は31歳か。母とはすでに結婚していて、私も生まれているな……。
「おい、ティナ。どこ行くんだ」
「えっ」
父の声に我に返った私は、父とは全く違う方向へ行こうとしていることに気付いて、慌てて父のもとへ走る。
「そんなぼ~っとするほど疲れちまったか? 明日は、学校途中から行くか?」
私の顔を見て心配する父に、「大丈夫だよ」とすっきりしない気持ちのまま答える。
う~ん、やっぱりこのままじゃ駄目だ。きっと、気になって眠れない。
「お父さん」
「ん?」
「あの子は何者なの? お父さん、あの子と昔どこで会ったの?」
思い切って聞くと、父はどこか虚空を見て口を歪め、言おうかどうか迷っている様子になる。
しかし、すぐに結論が出たのか、再び私の方を向いて返答の口を開いた。
「今から12年くらい前だったか。オルトリンデ城のパーティーに招かれたことがあるんだ。史上最年少でAAランク傭兵になったことで、王族の目に留まったんだったかな。で、そこで出会ったんだよ、フランカと」
「……オルトリンデ城? じゃあ、フランカもそのパーティーに呼ばれてたってこと? ってことは、貴族?」
まさかと思ってそう問うと、しかし父は首を横に振った。
「いや、その上だ」
「? ……上? じゃあ、え? 王族、……ってこと?」
頷く父に、私は「えええ?」と思わず変な声を出してしまった。
フランカが、王族? え? ちょっ、ちょっと待ってよ。
そんなの、信じられるわけがない。王族? あの子が?
「……」
んー、思い返せば確かに、立ち居振る舞いに品のようなものを感じられたような、……気がしないでもない……か?
けれど、王族にしては物腰柔らかで喋りも丁寧だったよなぁ。……王族に対して悪い印象持ちすぎ? でも、なんとなくこう、偉そうにしてるのが王族なんじゃないかなって思うわけ。
そう考えると、フランカは王族っぽくないような……。
「確信は無いんだ。だが、あの時会った小さな王女様に、フランカはそっくりなんだよ。あの子があのまま大きくなってたら、こんな感じの女の子になってんじゃねぇかなって思ったんだ。……まぁ、他人の空似っていう可能性もあるがな。それに、名前も違うし」
だから、あの場では聞けなかったってことか。
「でも、だったらさ、王女に似てるねとか、それとなく言ってみればよかったのに。そしたらさ、何か反応を見せてくれたかもしれないよ?」
私の案に、父は「その手があったか」と笑い声をあげた。
「……じゃあ、今度会った時に試してみるか。お前も来るだろ?」
なぜか楽しそうな父に、私は「うん」と答えていた。
「でもさ、確かめて、本当に王女様だったらどうするの?」
父は「んー」と口を歪めてから、「どうすっかな」と呟く。
「……まぁ、とりあえず事情を聞いてみるかな。どうして、王女様が城の外に出てんのか。それと、なんで傭兵を目指してるのかについてもな」
そうだ、フランカも、私と同じように傭兵を目指しているんだ。
確かに、フランカが王女様だった場合、どうしてそんなものを目指しているのかは気になるところだ。
「ねぇ、お父さん。その王女様の名前、なんていうの? フランカ、じゃないんだよね?」
父が若い頃に会ったという王女様の名前、まだ聞いてない。
「……まぁ、あの王女様の話は、滅多に外に出てこんからな。お前が知らないのも無理ないか。オルトリンデ王国第二王女、フランチェスカ・オルトリンデ。それが、王女様の名前だ」
フランチェスカ王女、か。……聞いたこと無いな。
ていうか私、そもそも王様の子供のことをあんまり知らないな。何人いるんだっけ?
王子様のことなら、時々新聞に載ってるから、知ってるんだけどなぁ……。




