04-3
日が暮れ、父は「そろそろ帰るか」と訓練を切り上げる。
今日は、あんまり集中できなかった。いろいろと考えながらやってたから。それでも、何時間も動き回っていればくたくたになる。
正直、フランカは自分よりも弱いと感じた。
別に、自分の実力に自信があって、驕り高ぶっているわけではない。フランカの戦いぶりを見ての、率直な感想だ。
力や体力をつけるためのトレーニングを続けているって話は嘘ではないようで、マッドマンとの戦いでも、俊敏に動き回り、なかなかの剣捌きを見せてくれた。だけど、そのいずれも、私より劣っている。
私が言うのもなんだけど、剣の扱いにまだ慣れていないというか、無駄な動きが多すぎる気がする。ちょっと前の私みたいだった。
……まぁ、口には出さないけど。
フランカの戦いを見て、フランカの実力を知るのと同時に、ちゃんとした師匠がいないとこうなるんだなというのが理解できた。
私が過ごしてきた3ヶ月と、フランカが過ごしてきた3ヶ月は、その質も内容も違うってことだ。
つくづく、父がいて良かったと思ったよ。
「……やっぱり、うまく戦えませんでした」
施設を出て、階段を下りる私たち。フランカは私と父より数歩遅れて歩きながら、そう呟いた。その顔に笑みは無い。
「そうだな。あれじゃあ駄目だ」
「ちょっ、お父さん!」
立ち止まり、フランカの方を見ずにきっぱり言い切る父に、私は慌てた。はっきり言いすぎだよ。
ちらっとフランカを見ると、やっぱりその言葉で追い打ちをかけられちゃったのか、しょんぼりと俯いてしまっていた。
「……だが、才能はあると思うぞ」
「え?」
フランカは顔を上げる。父は振り返り、フランカと目を合わせた。
「心配するな。試験までまだ3ヶ月もあるんだ。俺が鍛えて強くしてやるさ。今のお前とは、比べ物にならんくらい強くな」
そう言って父は笑い、私を親指で指し、「こいつと一緒にな」と付け加える。
その時の父は、今まで以上に頼もしく見えて、思わず見とれてしまった。
「……本当に、よろしいのですか?」
すがるような瞳で、問いかけるフランカ。
父はゆっくり頷いて、「ああ」と答える。フランカの顔に、笑みが戻った。そして、その頬を涙が伝う。
「ありがとうございます。ありがとうございます……」
次々に流れる涙。フランカの笑みは一瞬にして泣き顔になり、それを隠すように両手で覆った。
「……」
なんだか、気持ちが変わってきた。私はフランカに歩み寄る。
「フランカさん」
静かに呼んで、彼女の顔を覆っているその手にそっと触れる。一瞬ビクッとなって、フランカはゆっくりと顔から手を離した。濡れて揺れる瞳が、私を捉える。
私は、自然と顔を綻ばせていた。
「フランカさん。一緒に、頑張ろうね」
今度は、純粋にそう思えたんだ。この子と一緒に頑張ろう。この子と一緒に、試験を戦い抜こう。……そう思えたの。
父のことで嫉妬していた自分が、恥ずかしい。
そりゃあ、父には私のことだけを考えていてほしい。その気持ちは変わってない。だけど、今日1日フランカと一緒にいて、様子を見たり、話をしているうちに、少しずつ気持ちが変わっていき、そして今、この子の涙を見て、決めたんだ。
一緒に頑張っていきたい、って。
なんだか、放っておけない。そんな気にさせる、不思議な子だ。
フランカはまた涙を流し、そして、「はい」と頷いた。
その後、駅のホームで汽車を待つ間に、フランカといろいろと話をした。
フランカは4ヶ月くらい前に、エンシーナにあるゴルドベルグ修道院にやってきて、そのままそこで暮らすようになったらしい。元々違う場所に住んでいたんだけど、ファミリアのせいで故郷を離れざるを得なくなったとかで。
それはきっと、よくある話なんだろう。
そして、ファミリアを倒すために傭兵を目指すことを決めた。父に対する憧れもあって、昔からなりたいと思ってたみたい。
……こんな感じで、傭兵時代の父に憧れて傭兵を目指すことを決めた人たちが、きっとこの国には何人もいるのだろう。そう思うと、父のことがとても誇らしく感じる。
それが無くても自慢の父だけど、本当に、この人の娘に生まれて良かったなって思うんだ。
「なぁ、フランカ。そのゴルドベルグ修道院ってとこに行ってみたいんだが、いいかな」
突然、父がこんなことを言い出した。フランカはきょとんとしたけど、すぐに笑顔になって「はい、もちろんです!」と声を弾ませる。
その答えに、父は「そうか」と満足そうに言って、次の休日に行く約束をした。
私は、父がどうしてそんなことを言ったのか真意がわからず、父の横顔を見つめ続けるしかなかった。
やがて南へ向かう汽車が先に来て、フランカは私たちに笑顔で手を振りながら、それに乗り込んで行った。




