04-2
フランカ・アルジェント。私より2つ年上、16歳のお姉さん。
このバラルトよりさらに南にある、エンシーナという街からやってきたらしい。
彼女に対する第一印象は、あまり良くなかった。
なぜかと聞かれると恥ずかしいんだけど、多分、その、……嫉妬、かな。いや、分かんないんだけど、父と親しげに話しているフランカを見てたら、妙に腹が立ったから。
女の子は、思春期になったら父親を毛嫌いするようになるって聞いたことがあるけど、私は、今まで一度だって父を嫌ったことは無い。
父が飲んだくれになってた1年間は、そりゃさすがに敬遠していたけど、それ以前はずっと仲良かったし、父が以前の父に戻った今も、父のことは好きだ。
だから、突然現れていきなり父と楽しそうに話すフランカに対し、良い感情を抱けるはずもなかった。
しかも、父に近付いた理由が、傭兵時代のクレイグ・ロンベルクが好きだったからって言うんだよ。父の活躍を報じる新聞や広報紙なんかも、ほとんど全て集めていたんだって。
で、今日偶然にもその本人に会えたわけで、だから、……まぁ確かに、近付かない理由は無いかな~っと納得してしまった。
「……フランカさんも、この訓練場を利用するために来たん……だよね?」
偶然見つけたと言っていたし、まさか父が来るのを待っていたわけでもないだろう。
「はい、そうです。私も、傭兵を目指しているので」
フランカは、にっこり笑顔のまま頷いた。確かに、剣を持っている。
そこでふと、気になることというか、対抗心みたいなものが芽生えた。
「フランカさんは、えっと、もうどのくらい訓練してるの?」
するとフランカは、「えぇっと……」と目を少し上向けて考えた後、「もうすぐ3ヶ月になります」と答えた。
「3ヶ月? 私と同じだ」
途端に、親近感が対抗心に勝る。フランカも、「そうなんですか」と嬉しそう。
だけど、その笑みがちょっとだけ薄まった。
「……ですが、なかなかうまくいかなくて」
「何が?」
フランカは私から視線を外して、やや顔を伏せた。
「私、3ヶ月前まで剣を握ったこともありませんでしたし、元々、運動もあまり得意ではないのです。ですから、なかなか自分の成長を実感することができなくて。……きっと、私のやり方が駄目なのだと思うのですが、何が駄目なのかもわからないのです」
……まさに、3ヶ月前の私と同じだ。
きっと、父が剣の師になってくれなかったら、私も今頃彼女のように悩んでいたことだろう。
いや、自分が非力であることに対する悩みは、現在進行形なんですけどね。
「……」
私と父は、フランカを挟んだ状態で顔を見合わせる。そして、父は何か閃いたようにハッとした表情になる。
「なぁ、フランカ。もし良かったら、俺たちと一緒に特訓しないか」
……えぇっ?
思わず声をあげそうになっている私の横で、フランカは顔を上げて父を見る。
「一緒に?」
「ああ。俺が教えてやるよ。剣も、戦い方も」
白い歯を見せてニカッと笑う父に、フランカは抱きつきそうな勢いで顔を寄せる。
「ほっ、ほほ、本当によろしいのですか? 今日初めてお会いしたのに、いきなりそのようなこと……」
父はフランカの視線を浴びながら、「いいんだよ。遠慮すんな」と言う。
「ちょ、ちょっと、お父さん」
私としては、さすがに黙ってはいられない。「どうした?」ときょとんとしている父に、思いをぶつける。
「そんな安請け合いして大丈夫なの? それに、私の特訓もあるのに、2人も世話できるの?」
正直、この質問はどうでもいい。本当は本音をバシッとぶつけたかったけど、頑張って抑え込んだ。
そもそもさ、おかしいじゃん?
どうして、見ず知らずのさっき会ったばっかりの子にそんなこと言えるわけ? さすがにお人好しって言わざるを得ないでしょ、これは。
……まさか、ちょっとおだてられたから気を良くして、ってわけじゃないでしょうね。
すると父は、「大丈夫だろ」と軽く言ってのけた。
「曲がりなりにも、3ヶ月自分なりに鍛えたって言うんだ。それなら、ある程度身体はできてるはず。だったら、あとはコツさえ教えてやりゃ、あっという間に伸びるさ。ティナ、お前がそうだったようにな」
どうやら、撤回するつもりは無いらしい。
「ありがとうございます! クレイグ様、よろしくお願い致します!」
フランカは、早くもやる気満々だ。そしてこちらに振り返ったフランカの顔には、嬉しさを爆発させた満面の笑みがあった。
「よろしくお願いします、ティナさん」
「……うん。よろしく」
差し出された手を、そっと握る。するとフランカは、両手で私の手を包んで笑った。
それは、無邪気な、率直な喜びだけを含んだ笑顔。……この子は、本当に父のことが好きなんだなと感じた。
別にさ、一緒に特訓するのはいいんだ。フランカはいい子だと思う。初対面でこんなことになったけど、そこまで嫌う理由も無いし。
だけど、気分はすっきりしない。
それがどうしてなのかは、分かってる。父にぶつけたかった本音はこっちだ。
……お父さん、どういうつもりなの?
私だけの師匠でいてほしかったのに、どうして他人の子を同じように扱うの?
その日、私はもやもやする気持ちを抱えたまま、フランカと共に父の指導を受けることになったのだった……。




