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04-1

 初めてバラルトへ行ってから2週間が経った。あれ以来、休日はバラルトの訓練場へ行ってファミリアと戦っている。


 そのおかげで、ファミリアとの戦闘には慣れたけど、やっぱり利用料がね~、家計に優しくないんだよ。

 父は「気にするな」って言うけどさ、気にしないわけにはいかないでしょ。ここに通うようになって、ますます倹約を考えなくちゃいけなくなったし。


 まぁ、父や私はいいんだよ? どれだけ切り詰めてもさ。だけど、弟たちに不自由な思いをさせたくないじゃん。弟たちもさ、「気にしないで」とは言うけど、やっぱり気にしないわけにはいかない。


 ……あ~あ。早く傭兵になって、気を使わなくてもいいようにしてやりたいな。




 そして今日も、私は父と一緒にバラルトの訓練場を訪れた。


 すでに多くの係員に顔を覚えられているんだけど、それは父のせいだと思う。

 何しろ、父は元AAランク傭兵で、その名は知れ渡っている。1年間も表舞台から姿を消していたのに、やっぱり覚えている人はしっかり覚えてるね。


 父の名はクレイグっていうんだけど、すぐに「あのクレイグ・ロンベルクがうちの訓練場に来てるぞ」、って感じで話が広まり、私は「あのクレイグ・ロンベルクの娘」としてちょっとした有名人になってしまっている。


 ……正直、そんなに嬉しくない。


 いや、父のことが忘れられていなかったことは嬉しいの。

 だけど、そのせいで過剰な期待を寄せられるのは私なわけで、そしてその実力が大したことないもんだから、「あれ? 娘はこんなもんか」みたいな視線が痛い。


 本当にそう思われているのかどうかは知らないけど、全く注目されていないってことはないんだから、何かしら思われているに違いない。


 そんなことをごちゃごちゃ考えていたら、3体まで同時に相手にできるようになっていたはずのマッドマンたった1体に、負けた。




 溜め息が、静かな医務室にやけに大きく響く。


「……気持ち悪い」

 ぼーっとしていたところを攻撃されて、まず剣を弾き飛ばされ、次いで腹部に思いっきりパンチを食らった。あまりの衝撃と激痛に、気絶。なんとも情けない。


 でも、気絶してなかったら、おそらく胃の中の物を吐き出していただろう。周りに結構人がいる状態で情けなく負けたのに、さらに嘔吐までしちゃってたら、さすがにここへ来にくくなってたところだ。


「……」

 それにしても、静かだな。この前お世話になった時もそうだった。医務室なのに、なぜかここには誰もいない。


 医者の1人でもいた方がいいんじゃないかと思うんだけど、父の話では、そうそう怪我をする者もいないから、滅多に医者が詰めていることはないとか。


 ……いますよ、ここに。もうすでに2度もここのベッドを使わせてもらってる奴が。


 また、溜め息。


「……?」

 あれ? そういえば、父はどこだ? ベッドの周囲を覆う白いカーテンの向こうに、人の気配は無い。どこに行っているんだろうか。


「あたたた……」

 お腹が痛い。下手したら吐きそうなくらい。私は慎重にベッドから下りて、医務室を出た。




 医務室を出て、長い廊下をとぼとぼ歩いた先は、訓練場へと続くエントランス。すぐそこに受付があり、向かって左が玄関だ。


「あ」

 そこに、父の姿があった。施設前の階段に座っている。


 近付いていくと、建物の壁で見えなかった部分が見えてくる。父は、誰かと一緒に座っていた。

 あれは、……女の子?


 何を話しているのかは分からないけど、ここから見える父の横顔は、ちょっと笑っていた。娘をほったらかしにして女の子とお話ですか、やれやれ。

 とかなんとか余裕ぶってみたものの、本当は結構苛立ってた。


「お父さん」

 だから、私の声は少しキツイ感じだったかもしれない。


 父はこちらを振り返り、「おお、もう大丈夫なのか?」といつもの調子で聞いてくる。

 まだお腹は痛いけど、私は「うん」と頷き、父とほぼ同時にこっちを見た女の子に視線を向ける。


「……この子、誰?」

 苛立ちを抑え込みながら問う。父は「ああ……」と彼女を見て口を開きかけたけど、それより先に女の子が立ち上がり、私と向かい合った。


 長くきれいなふわふわの茶髪。整った目鼻立ち。白くきれいな肌。……いわゆる美少女が、私を見てる。


「あなたが、クレイグ様の娘さん? 私、フランカ・アルジェントと申します。どうぞ、お見知り置き下さい」

 そう言って、フランカと名乗った美少女はにっこり微笑んだ。


「えっ、と、は、はい。どうも……」

 苛立ちはあっという間にどこかに消え、なぜか心臓がドキドキし始めた。なんでこんなに緊張してんの、私。


 ……ていうか、今この人、なんか変なこと言わなかった?


「様?」

 そうだ。この人今、父のことを「クレイグ様」って言った、……よね?


 ちらっと父を見ると、妙な笑顔。どうやら、事情があるみたいだ。



 そしてこれが、私とフランカの出会いだった。

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