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第156話 もういるじゃん



「川奈っす!!!」


イトヨリが飛び出した。


見慣れた海底が広がっている。久しぶりだ。ずいぶん長いこと離れていた気がする。


「帰ってきたっすよ! チカメさん!」


「ああ」


キントキダイも辺りを見回しながら、どこか機嫌がよさそうだ。


「やはり落ち着きますね」


「分かる」


「…………お腹すいた」


キンメダイが言った。


「帰ってきて最初がそれ?」


「…………うん」


「まあ、俺も腹減ったけど」


「じゃあ福音っすね!」


「まだ落ちてきてないよ」


「そのうち来るっす!」


「信頼がすごいな」


そんなことを話しながら泳いでいると、向こうから声がした。


「チカメだ!」


「帰ってきた!」


「おかえりー!」


「おかえり!」


気づけば、あちこちから魚が集まってくる。


「ただいま」


「神子元どうだった?」


「遠かった」


「小サバいた?」


「いたよ」


「よかったね」


「うん」


一匹が俺の下を覗き込んだ。


「じゃあなんでネコザメ連れて帰ってきたの?」


「それは俺も説明が難しい」


ネコザメは相変わらず、俺の腹びれのそばにいる。


「サメじゃん!」


「サメだね」


「食べるの?」


ネコザメが俺の腹びれの奥へ入った。


「食べないよ」


「じゃあ何するの?」


「…………」


何するんだろう。


「俺も分からない」


「おにい」


振り向くと、妹もいた。


「おかえり」


「ただいま」


妹は俺を見て、それからネコザメを見て、もう一度俺を見る。


「増えた?」


「増えてない」


ネコザメが腹びれから顔を出した。


「増えてるじゃん」


「ついてきただけ」


「名前は?」


「ネコザメ」


「そのままじゃん」


「俺がつけたんじゃねえよ!!!」


妹がネコザメを覗き込むと、ネコザメも妹を見上げた。


「かわいい」


「だろ?」


「飼うの?」


「魚が魚飼うってなんだよ」


「じゃあ家族?」


「話を大きくするなよ!」


妹が笑った。


その横を、銀色の群れが通り過ぎた。小さい身体に青い背中。見覚えがある。


「…………小サバ?」


「小サバっすね」


もう一群。その向こうにもいる。


普通にいる。


というか、かなりいる。


「あ」


一匹が俺に気づいた。


「あ、チカメ」


「あ」


「おかえり」


「お前らもういるじゃん!!!」


「いるよ?」


「いつ来たの!?」


「昨日」


「早っ!!!」


「チカメたちは?」


「今だよ!」


「遅かったね」


「こっちはネコザメに合わせて帰ってきたんだよ!」


ネコザメが俺を見上げた。


「お前を責めてるわけじゃないよ」


小サバが首を傾げる。


「じゃあ、おかえり」


「だからお前らを呼びに行った俺が、お前らにおかえりって言われるのおかしいだろ!」


「ただいま?」


「それもなんか違う!!!」


イトヨリが笑っている。


「でも、ちゃんと来てくれたっすね!」


「ああ」


俺たちが神子元で会った群れだけじゃない。見える範囲だけでも、あちこちに小サバがいる。


「じゃ、またね」


「おう」


小サバが群れに戻っていく。


「おかえりー」


「だから!!!」


もういい。



メジナのじいさんのところへ行くと、いつもの場所にいた。


「じいさん!」


「おお、戻ったか」


「小サバ見つけたよ!」


「知っとる」


「もう来てるもんな!」


「昨日来た」


「俺より先に報告終わってんじゃん!!!」


じいさんが笑う。


「ご苦労じゃったな」


「もっとなんかないの?」


「何がじゃ」


「神子元まで行ったんだよ?」


「頼んだから知っとる」


「台風にも遭ったんだよ?」


「それは頼んどらん」


「そうだけど!!!」


「小サバは戻ってきた。十分じゃろ」


「まあ……そうだけど」


「依頼達成っすね!」


イトヨリが嬉しそうに言う。


「ああ」


思っていた帰還とはちょっと違ったけど、小サバは戻った。俺たちも戻った。


それでいい。



ぱら。


「…………」


ぱらぱらぱら。


全員が上を向いた。


「福音っす!!!」


イトヨリが消えた。


「早っ!!!」


キントキダイも、キンメダイも、さっきまで俺と話していた魚たちも一斉に上へ向かう。小サバまで混ざっている。


そして妹も行った。


「お前も行くの!?」


「食べるけど?」


「そうでした!!!」


あっという間に俺の周りから魚がいなくなり、残っているのはネコザメだけになった。


「お前は行かないの?」


ネコザメが俺を見る。


「まあ、お前にはまだ――」


ぱらっ。


目の前にオキアミが落ちてきた。


ネコザメが食べた。


「食うんかい」


もう一匹落ちてくる。それも普通に食べた。


「普通に食うんだ」


「チカメさーん! なくなるっすよー!」


上からイトヨリの声がする。


「今行くよ!」


結局、俺も上へ向かった。


久しぶりの福音は、普通にうまかった。



その夜。


俺はいつもの場所で眠っていた。


「…………おにい」


返事はない。


「おにい?」


妹が俺の顔を覗き込む。


しばらく待っても、俺は起きない。


「…………寝たね」


妹がそっと近づいた。


「おじゃましま!」


――すぽっ。

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