最終話 南の島への投資計画
騒がしくも、歴史に残る結婚式が終わり、大聖堂に静けさが戻り始めた頃。
私はエルシーさんと共に、控室の撤収作業と持ち込み備品の最終確認を終えた。
「アメリア様、本当にお疲れ様なのです! ロザリアお嬢様……いえ、王太子妃殿下、最高に綺麗だったです!」
「ええ、エルシーさんも早朝からのサポートお疲れ様でした。これで本日の残業代と特別手当が確定ですね」
涙ぐむエルシーさんに労いの言葉をかけていると、背後から静かな足音が近付いてくる。
振り返ると、ウェディングドレスから動きやすい豪奢な夜会服へと着替えたお嬢様が立っていた。
その手には、大聖堂で投げられることのなかった純白のブーケが握り締められている。
「お疲れ様です、お嬢様。……いえ、王太子妃殿下。素晴らしい式典でした」
「……誰もいないところでは、今まで通りでいいわよ、アメリア」
お嬢様は少しだけ照れくさそうに視線を逸らし、私に歩み寄ると、純白のブーケを私の胸元へと押し付けた。
「お嬢様?」
「受け取りなさい。……次は、アンタの番よ」
お嬢様は淑女の仮面を外した、一人の不器用な少女としての優しい笑みを浮かべた。
「わたくしの優秀な右腕が、いつまでも独り身で一生馬車馬のように働くなんて許さないわ。アンタがずっと言っていた『南の島での隠居生活』……自分の幸せくらい、きっちり回収してきなさい!」
「……承知いたしました。ありがたく頂戴いたします」
私は深く頭を下げ、その美しく、少しだけ重いブーケを胸に抱く。
お嬢様は満足そうに何度も頷くと、殿下が待つ晩餐会の会場へと去っていった。
その小さな背中を見送った直後だ。
「見事な手際だったな。ただの無差別攻撃の予告が、気高き自己犠牲の誓いに変わるとは」
控室の扉の向こうから、王宮の式典責任者のグレン様が歩み寄ってきた。
「お疲れ様です、グレン様。お嬢様の愛は極めて重度ですので、フィルターを通さなければ即座に国際問題に発展しかねませんから」
「全くだ。……どうやら、主君からの明確な『業務命令』が下ったようだな」
グレン様は微かに苦笑し、私の胸元にある純白のブーケへと視線を落とす。
「はい、私としては、お嬢様の期待を裏切るわけにはいきません。これからの生涯賃金を合わせた『南の島での悠々自適な隠居生活』という、莫大な予算を託すに足る、優良な投資先を見つけねば」
「君の投資先なら、ここに唯一無二の独占契約枠が空いているじゃないか」
グレン様は手元の鞄から、王室の印璽が押された一枚の重厚な権利書を取り出す。
「南の海に、気候がよく、手付かずの王室直轄領の島がある。そこの『終身管理権』を、私と君の共同名義で取得した」
「……あら、それは官僚としての職権乱用というものでは?」
「有能な裏方の正当な特権と言ってほしいな。アメリア……私のすべてを懸けて、君を迎えに行く」
それは、彼なりの不器用で、けれど揺るぎない正真正銘のプロポーズ。
「……はい。その契約、極めて厳しく査定させていただきますね、グレン様」
私が彼に向かって、計算ではない心からの微笑みを返した、その直後。
グレン様はさらに距離を詰め、私の腕の中にあるブーケごと、私をそっと抱き寄せた。
「では、契約の『手付金』を支払おう」
「……え?」
息がかかるほどの至近距離。
片眼鏡の奥の瞳が優しく細められ、重なるように唇が塞がれた。
大聖堂での主君たちの騒がしい誓いとは違う、大人同士の、静かで、けれど確かな熱を帯びた口付け。
数秒の甘い時間の後、ゆっくりと唇が離れる。
私は熱くなった頬を誤魔化すように、至近距離の彼を見上げて微笑んだ。
「……ずいぶんと強引な事前投資ですね。これからのリターンが大変そうです」
「ああ、一生をかけて、たっぷりと利息をつけて返させてもらおう」
ずっと夢見ていた『南の島』の切符は、最高のビジネスパートナーからのプロポーズと、甘い手付金と共に手に入った。
次代の玉座を守る最強の夫婦と、裏で支え続けるがめつくも頼もしい裏方二人。
王宮を舞台にした彼女たちの、騒がしくも愛おしい戦いは、これからも続いていくのだった。
〜完〜
最後の最後まで、お読みいただきありがとうございました!
話の終着点は迷いましたが、これにて完結とさせていただきます。
そして、最後にお願いです!
どうか【★★★★★】の評価と、ブックマークもください! 何卒よろしくお願いいたしますm(__)m
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それではまた( ´∀`)ノ




