148話 北方の監視と混沌の警戒
リリアーナ女王とカイが砂塵の荒野へ向かう頃、大陸北方の雪深い山岳地帯に位置する**『北方自由連合』**の軍事要塞では、厳戒態勢が敷かれていた。
北方自由連合は、アザトースの論理的な支配が届きにくい、独自の軍事思想を持つ独立国家群であり、カミの存在を古くから認識していた数少ない勢力だ。彼らの目的は、秩序でも混沌でもなく、自らの国境の平和を維持することだった。
要塞の司令官室には、歴戦の将であるヴォルク少将が、巨大な戦略盤を前に鋭い視線を向けていた。彼の目の前には、遠方からの魔力反応を示す特殊な解析データが映し出されている。
「少将!新たな魔力反応を検知しました!以前の武神(耕太)の暴力的なパターンとも、知神の冷たい論理のパターンとも異なります!」
オペレーターの報告に、ヴォルク少将は、眉間に深い皺を刻んだ。
「これは…混沌の波動だ。しかも、以前よりも性質が複雑になっている。知神の封印が不完全なため、鶴神千鶴が最後の干渉を始めたに違いない」
究極の不確定性への警戒
ヴォルク少将は、千鶴の力を最も恐れていた。武神の暴力は予測可能であり、アザトースの論理は解析可能だが、千鶴の混沌は、何の規則性もなく、世界を予測不能な悲劇に陥れるからだ。
「千鶴の狙いは、常に**『物語』と『不確定な要素』**の具現化だ。彼女は、新たな混沌の種を世界にばらまこうとしている」
ヴォルク少将は、戦略盤上の複数のポイントを指差した。その一つは、リリアーナ女王が向かう大皇国の領土の近く、もう一つは、東部海域の航路だった。
「全兵に告ぐ。我々の行動目標は、アザトースの拠点探索ではない。鶴神千鶴が仕掛ける『混沌の触媒』の特定と隔離だ。彼女の干渉が成功すれば、この世界は、再び収拾のつかない戦乱に巻き込まれる」
北方自由連合の軍隊は、千鶴の不確定性を予測し、その防衛に全力を注ぎ始めた。




