128話 過去への回帰と愛の代償
フレイア王国の応接室。クロード王子は、アザトースの最終的な目標が、彼が過去に干渉して守り抜いた「運命の原点」にあることを確信した。
「アザトースは、私が憎しみを捨てる原因となった**『家族を救った過去』**を消去するつもりだ」
クロード王子の顔は、青ざめた。その過去が消えれば、彼は再び憎しみに囚われた孤独な王に戻るか、あるいは、彼の存在そのものが論理的に矛盾し、消滅する可能性がある。
「セバスチャンの最後の言葉…『彼の論理の最優先事項を、逆手に取る』」
私が、セバスチャンの最後の伝言を復唱した。
「アザトースの最優先事項は秩序の回復、つまり歴史の安定だ。過去が揺らぐことが、彼の究極の弱点となる」
クロード王子は、千鶴の杖を握りしめた。
「リリアーナ。俺たちがすべきことは、アザトースよりも先に、時の特異点に到達し、運命の原点を、**『揺るぎない歴史』**として固定することだ」
氷結山脈:痛みの転移
同じ頃、氷結山脈の祭壇跡。
ミサキは、レオンハルト殿下の激しい痛みを、ポッドの残骸へと転送することに成功していた。レオンハルト殿下の顔の苦痛は消え、穏やかな眠りに包まれた。しかし、ポッドの残骸は、激痛のエネルギーを受け止めきれず、黒い煙を上げ、急速に劣化していた。
「成功した…!痛みが消えた…!」
ミサキは、その成果に歓喜した。彼女は、この肉体が持つ時の力を、初めて誰かを救うために使ったのだ。
しかし、その喜びは長く続かなかった。
彼女の肉体に、新たな痛みが生じた。それは、レオンハルト殿下の物理的な痛みではなく、魂の奥底から湧き上がるような、根源的な空虚感だった。
「な、何なの、これ…?私じゃない、この肉体の…魂の痛み…?」
ミサキは、本物のリリアーナの肉体が持つ、長きにわたる時の境界の番人としての孤独、そしてカミに運命を弄ばれた絶望という、魂の記録を、無意識に引き出してしまったのだ。
「こんな…こんなの、耐えられない…!こんな悲しい運命…ユナは、こんな体で生きていたの…?」
ミサキの心は、ユナへの嫉妬から、ユナへの深い同情と恐怖へと変わった。彼女は、この肉体が、愛する人を守るために自己を犠牲にした、悲劇の器であることを知った。
過去への最後の旅
クロード王子は、私を抱き寄せた。時の境界へ向かう準備が整ったのだ。
「リリアーナ。俺たちは、運命の原点へ行く。そこで、運命の壁に、最後の**『人間の証明』**を刻む。俺たちの愛と、犠牲となった者たちの思いを込めて」
「ええ、クロード王子。私たちが築いた運命は、カミの論理には壊させない」
私たちは、アザトースの論理を超越し、世界を救うため、過去への最後の旅に出発した。




