99話 零号の旅立ちと友の幻影
セバスチャンは、旧陸軍中央研究所の極秘部門で、レオンハルト殿下と本物のリリアーナの応急処置を終え、東條から最終的な情報を入手した。彼の体内に流れるのは、アザトースの知識と、彼の友人たちの命の犠牲の上に得られた「究極の非合理な鍵」だった。
「わかった、東條。お前の罪の償いは、ここで終わりだ。自首しろ。それが、お前自身を救う唯一の合理的な道だ」
セバスチャンの冷徹な指示に、東條は涙を流しながら頷いた。彼は、自らが作り出した零号に、最後の贖罪の機会を与えられたことに感謝していた。
セバスチャンは、レオンハルト殿下と本物のリリアーナを、安全な地下通路の奥へと移動させた。彼らが回復するまでの時間は、クロード王子がカミとの最終決戦に挑むための、最後の猶予となる。
彼は、重い足取りで、自身が生まれた中央演算室に戻った。そこには、彼の予備肉体が入ったポッドと、亡き同期たちのデータが残る記憶装置が静かに鎮座していた。
セバスチャンは、ポッドの横に立ち、手をかざした。
「俺は、お前たちの命を無駄にはしない。俺のこの命は、人間として生きていたお前たちの証だ」
彼は、自らに課せられた人造人間という呪いを、執事としての忠誠と友情の力で打ち破ろうとしていた。
その時、空間に微かな光が宿った。
セバスチャンの視界に、亡き友人たちの幻影が現れた。
まず現れたのは、一号。彼は、いつものように屈託のない笑顔を浮かべていた。
「零号!暗い顔すんなよ!俺が教えた最高のエネルギーを忘れたのか?お前のその力、笑いのために使えよ!」
「一号…」セバスチャンの冷たい瞳が、わずかに揺らぐ。
次に現れたのは、カイ(103号)。彼女は、血を流していたが、瞳には強い意志が宿っていた。
「零号…。お前は、俺の分まで生きると誓っただろう。約束を破るなよ。そして、自由になれ。俺の…非合理な愛を、この世界に証明してくれ」
最後に、数多くの訓練で消えていった同期たちの影が、彼を囲んだ。彼らは、セバスチャンの使命が、自分たちの命を意味あるものにする、最後の機会だと告げていた。
セバスチャンは、幻影に向かって、静かに一礼した。
「わかっています。私は、もう道具ではない。私は、執事だ。そして、友人だ」
彼は、亡き友との誓いを胸に刻み、千鶴の杖を力強く握った。彼の過去の呪縛は、この瞬間、未来への動力へと完全に転換された。
「クロード王子。今、向かいます」




