第36話 お早い帰還
セフィラ以外の全員がオデットの帰還に絶句していた。
ムニャーですらほんのりと驚いた表情をしている。
「……あれ? 私って歓迎されてない? みんなに会いたくて、急いで帰ってきたんだけどなぁ~……」
全員が険しい顔をするものだから、オデットは身を縮めて申し訳なさそうな顔をする。
「い、いえっ! 歓迎はしたいんですが……あまりにもお早いお帰りだったので、ビックリしてたんです。子どもたちを連れて山を下りて、昨日の今日でバナンバまで帰ってこられるとは……」
セフィラの言葉を聞いて、オデットは「なるほど!」と納得する。
「誰も笑ってくれないから、昨日の今日で嫌われちゃったのかと思ったよ。まあ、確かにこの早さで帰ってこられたのは、運が味方してくれたところもあるし……驚かれても仕方ないか」
「子どもたちは……いえ、オデコさんのことですから、この短期間で全員無事に故郷に送り届ける目途がついたんですね」
「もちろんっ! 下山からフラウ村までの道のりは、子どもたちの脚力を回復魔剣術の応用で強化することで、歩くスピードを速めて移動時間を短縮して……」
オデットがここに来るまでの工程を話し始める。
いきなり子どもたちの脚のツボを、魔力を帯びた剣で突いて強化するという手段に出ていることには、合理的だと感じると同時にやはり驚かされてしまう一同。
「村についてからは他の冒険者の協力を得るのに時間がかかると思ったけど、なんと運良くフラウ村に冒険者ギルドを作る準備が進んでてね! そのおかげで何度か一緒に仕事をしたことがある、信頼できる冒険者たちが何人もいてさ。彼らとその仲間たちに協力を仰いで、とんとん拍子に子どもたちを送り届ける計画が練れたんだよ」
ずっと仕事をしているからこそ、オデットの顔は広い。
冒険者だけでなく、かつて戦争で兵士だった者たちにも信頼されている。
大体どこに行こうと協力者を見つけられるのだ。
(流石は一流の冒険者オデコさん……! 人徳も運もあって、スムーズに仕事を進めちゃいますね!)
オデットが帰ってくるまでに、彼女が抱えていた仕事を終わらせるという目標は、始まる前に脆くも崩れ去った……。
だが、セフィラは今の話を聞いて希望も覚える。
(今回、オデコさんは信頼できる他人に仕事を任せました。つまり、オデコさんが温泉で体を休めている間は、他の人に頑張ってもらえばいいという説得が通用するかも!)
セフィラは心の中でニヤリと笑った。
しばらく会わない間に、オデットも丸くなっているのではないか……と。
「それで役目を終えた私は、急いで山を越えてここへ戻ってきたわけだけど……。一体どうして私の仕事をセフィラたちがやろうって話になったのかな? ギルドの外で聞き耳を立ててたけど、私が来た時にはその理由の話は終わってたみたいだからさ」
「それは……オデコさんを少しでも早く温泉に連れていくためですっ!」
セフィラは語る――オデットに休息を取らせるため、王国一の温泉街アスパーナに向かうことを。
そのためにオデットが抱えている仕事を先に終わらせたかったことを。
「……ということで、私たちと一緒にアスパーナに行きましょう、オデコさん!」
右手をスッと差し出し、同意の握手を求めるセフィラ。
だがしかし、オデットの反応はなんとも煮え切らないものだった。
「う~ん、気持ちはもちろん嬉しいし、温泉に興味がないわけじゃないけど……。今のところ仕事を休むほど疲れてないしなぁ~。それならもっといろんな仕事がしたいなぁ~って……」
セフィラの横でガルーが「はぁ~……」とため息をつく。
あまりにも予想通りの反応をオデットがしたからだ。
「オデットよ、お前もセフィラの優しさがわからぬわけではないだろう。それに疲れというのは自覚できない場合もある。ここは我らと共に温泉街へ来い。仕事はまたその後に再開すればよいではないか」
ガルーの言葉に、オデットは困ったような顔をする。
「まぁ~、確かにプラタノ原生林の案件以外に抱えてる仕事はないけど……。温泉行ってる時間があったら、その分新しい仕事をやれるのも確かだし……」
これにはオデットと初対面のシャロも困惑の苦笑いを隠さない。
何を言ってもオデットには響かないんじゃないかと思わされる。
「あっ、そうそう。プラタノ原生林のモンスター討伐と、バナンバ原種のバナナの確保は、当初の予定通り私が単独でやるからね。一人で十分な仕事だし、セフィラたちを巻き込むのは気が引けるよ」
ついには仕事を一人でやると言い出すオデット。
そもそも彼女一人でやるはずだった仕事に割り込んだのがセフィラたちなので、文句を言える立場ではない。
とはいえ、ここまでの強硬な姿勢には、思わずガルーもお腹を天井に向けて寝転がるしかない。
まさに降参のポーズである。
しかし、セフィラはまだ諦めなかった。
呆れた表情を引き締め、再びオデットと向き合う。
「相変わらずですね、オデコさん……! でも、私たちとて簡単に引き下がるわけにはいきません。あなたが誰かのために働こうとするように、私たちもオデコさんのためを思って提案しているのですから……!」
「そ、そこまで……? 私ってそんなに弱い人間に見えるかな……?」
「強くても、弱くても、人間には休みが必要です! 長生きできませんよ!」
「でも、私が動けば動くだけ、救える人がどこかにいるんだ。力を持つ者として、勇者様のように限界まで……!」
「はいっ、そこまで! やめやめっ!」
セフィラとオデットの間に、ラカタンが割って入る。
手をぶんぶん振って、これ以上話をヒートアップさせるなとアピールする。
「一回落ち着こうや、お互いさ。こんなギルドの受付の前で、ずっと立ち話してるのもアレやし。続きは一緒にディナーでも食べながら、落ち着いて話せばええやん……なっ? なっ?」
セフィラとオデットの顔を交互に見て、ラカタンは一緒に晩御飯を食べることを提案する。
二人はその提案に乗った。
「よしっ! じゃあ店はこっちでええとこを選ばせてもらうから、十八時くらいになったらまたこのギルドに集合な! こっちもそれまでに残りの仕事を終わらせとくし! ほな、また!」
一度頭を冷やせ――。
ラカタンからの気遣いを素直に受け取ったセフィラたち、そしてオデットはギルドを出る。
そして、一人ギルドの受付に残ったラカタンは……小さくガッツポーズを作った。
(どさくさに紛れて、オデットとディナーの約束を取り付けられた~! 二人っきりってわけやないけど、これは大きな一歩やでっ! あ~、自分が言い出したのに、すっごい緊張してきたぁ~!)
ある意味、一番頭が温まっていたのはラカタンなのだった。




