第20話 夜に備えよう
「そうだっ! フラウ村で貰ったビスケットを配ろう!」
あれは非常食だから、1枚でもたくさんの栄養を補給出来る。
結構硬いし、量は少ないからお腹いっぱいにはならないだろうけど、とりあえず一夜をしのぐだけなら十分な食べ物だ。
そうと決まれば急いでアジト内に戻って、置いてきたトランクを回収して戻ってくる。
ビスケットは想像より多くって、100枚以上あった!
なので、子どもたち1人に2枚のビスケットを配っていく。
ビスケットは濃い緑色で、渋さの中から噛むほど甘みが出るという大人向けの味。
子どもたちには不評かな……と心配していたけど、みんな受け取ってすぐにバリバリとビスケットを食べ始めた。
人攫いから満足な食事を与えられていなかったのがわかる……。
美味しいという声は聞こえてこなかったけど、とりあえずこれでムニャーみたいな栄養失調状態にはならないはずだ。
「……お腹空いた」
「もっと食べたいよっ!」
「お家に帰りたい……!」
小さい子どもたちの中から、泣き出す子が出てしまった……!
比較的年齢が高い子たちも耐えてはいるけど、その顔から不安は消えない。
よくわからないうちに牢屋からは出してもらえたけど、それをやったのは自分たちと変わらない子どもと犬なのだから、安心出来るわけがない。
また新しい人攫いがやってきて、お仕置きを受けた上で牢屋に戻されるのではないか……と不安に思われても仕方ない。
「心配するな、子どもたちよ!」
体を普段の大きさに戻したガルーが子どもたちに語り掛ける。
泣く子も黙る神獣様の姿に、びっくりした子どもたちの涙が止まる。
「我らがお前たちを守る、必ず家に帰す! ただ今日は……いや、数日はここに残る可能性もある! その間はこのセフィラの言うことを聞くのだ! そうすれば、お前たちの身の安全は保証する!」
子どもたちは完全に硬直していて、ガルーの言葉が理解出来ているかわからない。
ガルーも「ちょっとびっくりさせすぎたか……?」みたいな感じで首をかしげている。
張り詰めた空気が流れ、次に誰かが泣いたら連鎖して止められなさそうな雰囲気の中、一番最初に声を出したのは――。
「ムニャ~~~ン! ムニャッ! ムニャッ!」
ムニャーだった!
今にも泣きだしそうな子どもたちに体を擦り付けて、安心させようとしている。
まだ体力も傷も回復し切っていないのに、それでも子どもたちのために動けるムニャーはすごい……!
「このでっかい犬さんはとっても強くて優しいですから、どんな悪者が来ても負けません! それにムニャーもいます! だから、心配しなくても大丈夫です! お腹がいっぱいになるご飯も……お姉ちゃんが用意しますから!」
ご飯に関して胸を張ってハッタリをかます!
あれだけの人攫いがいたアジトなんだから、絶対に食材はあるはず……!
それにここは山の中――いざとなれば狩りをして食べ物を確保するのみ!
子どもたちはガルーとムニャーの活躍で冷静さを取り戻した。
その場に座ってくつろいだり、岩場から湧き出てくる水を飲んだりと、アジトの周りから離れない限りは自由にしててもらう。
「セフィラ様、食事に関しては私にお任せください!」
ずいっと目の前に自信満々のシャロさんが現れた!
「シャロさん、お料理得意なんですか?」
「はい! こんな私の数少ない誇れるもの……それが料理です! 流石に無から料理を作り出すことは出来ませんが、どんな食材でもそれなりの味に仕上げる自信はあります。今あるもので料理を作り上げる……それがレシピナ家のレシピです!」
決めた料理のために食材を選ぶのではなく、手元にある食材から作れる料理を作る。
私を探すために一人旅を続けてきたシャロさんには、ぴったりの料理スタイルだ!
「では、晩ご飯はシャロさんにお任せします! もちろん、お手伝いはしますよ!」
私はあんまり料理に自信はない。
シンプルに切って焼いたり煮たり、即席の戦場ご飯を作るのが限界だ。
「それなら早速一緒に食材を探しに行きましょう。アジト内にきっとあるはずですから!」
子どもたちを見守る役目をガルーとムニャーに任せ、私とシャロさんでアジト内の食料庫を目指す。
人攫いたちにとってもこのアジトの構造は複雑だったようで、食料庫を探す途中誰かの個室でアジトの見取り図を発見。
それを頼りに私たちは食料庫へとたどり着く!
「おおっ! 意外と食材の管理はキッチリしてますね~」
食料庫はひんやりしていて、食材ごとに入れるカゴを分けて管理されていた。
さらに冷やさなければ長持ちしない卵や生肉などは、氷のブロックと共にフタ付きのツボに入れられていた。
やたらと食事にうるさい人でもいたんだろうかってくらい、食材の管理には気合が入っている!
「見取り図を見た感じ、この食料庫はアジトの入口よりも低い場所……つまり地下にあります。最初から食料を冷やして保管するための場所として設計されたのかもしれません」
見取り図とにらめっこしながら、シャロさんが言う。
「ただの悪党の集団でしかない人攫いたちが、こんな山の中にそこまでの建物を作れますかね? しかも、このアジトは岩をくり抜いて作られていますし……」
「なので、実はこのアジトを作ったのは人攫いたちではなく、そもそもここにあったものを見つけて利用していただけなのかもしれません。元々は戦争中に作られた隠れ家とか、古代の遺跡とか、そっちの方が納得出来ると思いませんか?」
「う~む、それは確かにそうですね。これだけ複雑な構造なのにどの部屋にも風の流れがあって、新鮮な空気が循環しているのも、それなりの技術を持った人たちが作ったものと考えれば納得です」
まあ、人攫いの中に夢破れた異才の建築家がいなかったとは限らないけど……。
何はともあれ、このすごいアジトのおかげで食材の確保には困らなさそうだ。
一切の遠慮をせずに、シャロさんと食料庫の物色を開始する!




