第12話 村の復興に向けて
もしかして、不幸な身の上話だと受け取られてしまったかも……!?
一応私は戦争孤児って扱いになるんだろうし、そりゃかわいそうに思われて当然か。
「あ、あまり私の過去はお気になさらずに……! 私自身、勇者様と出会う前の記憶は曖昧なので悲しいと思うこともありませんし、勇者様と出会ってからは寂しいと感じたことはありませんから! セフィラはとーっても幸せ者なんです! 今はガルーとも一緒ですからね!」
「我もまたセフィラと出会って救われた者の1人。ここ1年間は会うことが出来なかったが、これからは我がセフィラのそばにいる。寂しい思いなど絶対にさせるものか!」
ガルーが黒柴の姿のまま、ピンと背筋を伸ばしてカッコいいポーズをとる。
そんなガルーの頭から背中にかけてをなでなでする!
……何の話をしてたんだっけ?
「あっ! つまり神獣の聖なる力というのは、私に由来する力なのです。ガルーはガルーで元々は特別な種族ではあるのですが、闇を払って浄化する力は私との契約で得た力なのです」
「普通に考えれば冥府の番犬と呼ばれるガルムが闇をまとうどころか、闇を払う聖なる力を持っているというのはおかしな話であるからな。神獣という肩書きと勇者と共に戦ったという物語は、民衆に勇気を与えるための英雄譚であり、セフィラの力を隠して守るための作り話でもあるということだ」
ガルーがわかりやすくまとめてくれる。
ゴルドンさんはもう口を閉じているから、今までの情報を呑み込めたみたい。
「勇者グラストロ様、神獣ガルー様、そして契約者セフィラ様――皆さんそれぞれの考えがあって、今の状態があるということですね。私はそのすべてを知ったわけでも、理解出来たわけでもありません。ですが、セフィラ様たちが世界の平和を願い、今も昔も戦っているということだけは、疑いようのない真実だとわかっております!」
そう言ってゴルドンさんは微笑んだ。
出自のわからない私でも信じてもらえるなんて……何だか心があったかくなる!
それからしばらくは村の現状と、復興の方針についてゴルドンさんとお話しした。
死者こそ出ていないけど、壊された建物の数は多い。
今の村にいる人たちだけで建て直そうと思えば、途方もない時間がかかる。
ガルーは瓦礫を引っ張ってどけたり、野生に棲息しているモンスターを倒してみんなを守ったりは出来るけど……建築までは出来ない。
「神獣といえど、体つきはほぼ狼なのでな……。道具を使って家を建てるのは無理だ!」
恥じることなどなく、狼だから仕方ないと胸を張るガルー。
もちろん、そのことを責める人なんていない。
「復興が一段落するまではフラウ村に滞在しようと思っていますが、この人手不足だと一段落するのにもかなり時間がかかりそうですね……。私たちは別に急ぐ旅ではないので時間はあるのですが、復興が遅れるとそれだけ不便な生活が続く人が増えるってことですし、何とか人手を確保出来る手段があればいいのですが……」
「……人手を確保する手段ですが、私に1つ考えがあります。というのも、冒険者ギルドの支部をこのフラウ村に誘致しようと思っているのです」
ゴルドンさんの提案に私とガルーは顔を見合わせる。
冒険者ギルドというのは、戦後の混乱の中結成された民衆による武装組織――。
戦争で傷ついた王国騎士団では、人々の間に起こる小さなトラブルの解決まで手が回らなかった。
だから、戦場から帰ってきた兵士たちのような戦闘の心得がある者を中心に、民衆によって民衆のトラブルを解決していくために冒険者ギルドは生まれたんだ。
今となっては戦後の混乱はだいぶ収まったけど、同時に王国騎士団の腐敗が進行しちゃったから、国民の中で冒険者ギルドがどんどん頼れる存在になってる……らしい。
冒険者ギルドの支部とは、そんな冒険者たちが活動の拠点とする場所だ。
支部が村にあるとそれだけ冒険者の出入りが増えるし、仕事の拠点として移り住んでくる人もいるはず。
だから、いざという時の戦力も集めやすくなる。
もちろん、ちゃんとした報酬を払えば……ね。
「ゴルドンさんのアイデア、私は名案だと思います! フラウ村みたいな国民にとって重要な場所は、王国騎士団が守るべきとは思いますが……それが叶わない以上、冒険者ギルドに頼るのは当然のことだと思います!」
「おおっ、賛成してもらえますか! 冒険者ギルドは日々勢いを増していますが、急速に膨れ上がる組織には必ず良からぬ者も混ざっている……。なので支部の誘致には不安もあったのですが、セフィラ様に賛成していただけるのならば、推し進めていこうと思います」
「わ、私の意見で重要な決断を……! ガルーも大丈夫だと思いますよね?」
間違いがあってはいけないから、ガルーの意見も求める。
「ああ、我も賛成だ。この村は裕福だし、気候も安定していて、美味しい食べ物がある。冒険者たちに支払う報酬をケチらなければ、質の高い人材を集められるはずだ。くれぐれもどこの馬の骨とも知れん荒くれ者は採用せんことだな」
「その助言を心に刻みます。すでにアンデッド騒動解決のために、何人かの頼れる村の者を近隣の街に送り、冒険者を雇ってくるように言ってあります。彼らが倒すはずのアンデッドたちはもういませんが、そのまま彼らを通じてギルドの支部を誘致する話を進めていこうと思います」
冒険者は何でも屋さんだから、報酬さえ払えば家の再建のお手伝いもしてくれるはず。
つまり、今のフラウ村には冒険者のお仕事がたくさん転がっている状態なんだ。
その話が周辺の街に広がれば、たくさんの人材が押し寄せてくる可能性も……!?
そうなれば、私たちが次の目的地に出発する日も早まるだろうなぁ~。
この村にもっといたい気持ちと、いろんなこの目で場所を見て回りたい気持ち――どっちの気持ちもあるけれど、旅はまだ始まったばかりだ。
いろんなところを巡ってから暮らしていく場所を選ぶのでも……遅くはないよね?
美味しい小麦を使った料理を毎日食べて、村の復興を手伝って、子どもたちと遊ぶこと2週間――私とガルーの旅立ちの朝が来た。




