第13話 次なる目的地は?
それから時は流れ、セフィラとガルーがフラウ村にやってきてから二週間が経過した――。
この二週間でフラウ村は目を見張るほどの復興を成し遂げた。
アンデッド討伐のために呼ばれた冒険者たちは、討伐対象がすでにいなくなっていることに驚きつつも、再度契約を結び直し破壊された建物の修復を手伝った。
フラウ村にギルドの支部を設置する話も、とんとん拍子に進んだ。
もともと冒険者ギルドの方でも、王国の要所で住人が多く、それだけ仕事も望めるフラウ村に支部を置きたいと考えていた。
両者の意見が一致すれば、それをさえぎるものは何もない。
支部の設置が完了するまでの間も、冒険者たちが村の警護を行う。
ギルドが選んだ信用出来る手練れたちが呼び寄せられ、村と広大な小麦畑を守ってくれるとのこと。
魔造結晶を破壊したため、もうダークスケルトンは湧いてこないが、野生のモンスターや盗賊などはいつ現れるかわからない。
だが、これだけの戦力が置かれれば心配はないだろうと、ガルーも太鼓判を押した。
セフィラたちはこの二週間、村の防衛に関して助言を行いつつ、瓦礫の撤去や小麦畑の手入れなどその日ごとに手が足りていない仕事を手伝っていた。
そんな中で最も力を入れたのが……元気が有り余っている子どもたちの遊び相手になること!
ダークスケルトンが村に現れてからは、昼の間でさえも心配した大人たちが子どもたちを外に出さなかった。
それゆえに、事件解決後の子どもたちは空の下で動き回りたい気持ちでいっぱいだった。
柴犬状態のガルーも交じって追いかけっこをしたり、かくれんぼをしたり、復興作業の邪魔にならないところで大いに遊びまわった。
ボール遊びにだってガルーは参加し、脚やしっぽを上手く使ってボールを操る姿に、子どもたちはパチパチと拍手を送った。
そうして遊び疲れた子どもたちは、日が暮れる前には家に帰る。
セフィラたちは日々いろんな家にお呼ばれし、フラウ村の小麦をふんだんに使ったディナーを振る舞われた。
ディナーのお礼にセフィラたちは勇者グラストロのエピソードを語った。
もちろん、戦争の血生臭さを感じさせない愉快な逸話だけを選んで――。
この二週間、セフィラもガルーも心の底から幸せを感じていた。
それでも、二人の決断は変わらない。
まだ知らない世界を巡る旅は続く。
フラウ村を出て、次の目的地を探すのだ!
◇ ◇ ◇
「ワンちゃんとお姉ちゃん……行っちゃうの……?」
セフィラたちとの別れを悲しみ、今にも泣きだしそうな子どもたちの姿……。
これがセフィラとガルーの決断を一番揺るがしたと言っていい。
もちろん、子どもたちとたくさん遊んだセフィラたちにも離れたくない気持ちはあった。
(それでも、私たちにはやらなければならないことがある……!)
セフィラは子どもたちと真正面から向き合い、自分の気持ちを伝える。
「お姉ちゃんもみんなと離れるのはとっても寂しいです。でも、私はこの世界を自分の目で見て回って、やらなければならないことがあると思ったんです。この村をアンデッドから守ったように、神獣の力を必要としている人がきっとまだどこかにいるから……。平和のために戦った勇者様の娘として、旅を続けようと思います」
子どもたちはまだ、セフィラの言葉の意味を完全には理解できないだろう。
それでも、その言葉の中に子供騙しな嘘やごまかしがないことは十分伝わった。
悲しい表情を浮かべながらも、子どもたちはセフィラとガルーに「行ってらっしゃい!」と言った。
「いつかまたフラウ村に来ます。その時また楽しくワンちゃんと遊べるように、みんな大人たちの言うことを聞いて元気で暮らすんですよ!」
「「「「「はーい!」」」」」
「うん! いいお返事! ……ガルーも何か言ってあげてください!」
先ほどからガルーは、子どもたちと目を合わせないようにしている。
子どもたちとお別れするのを寂しがっているのが、誰の目から見ても明らかだった。
「むぅ……そうだな。お前たちと過ごした日々、なかなか楽しかったぞ。また会う日まで達者で暮らすのだ。くれぐれも怪我や病気には気を付けるのだぞ!」
「「「「「はーい!」」」」」
神獣として大人として、最後にはガルーも子どもたちと目を合わせ、自分の想いを伝えた。
そんなガルーの姿をセフィラは微笑ましく見守った。
「セフィラ様……ぐすっ……忘れ物はございませんか? それとまだ必要なものがあればいくらでもお申し付けください……ひぐっ!」
涙をこらえていた子どもたちと違って、ゴルドンはすでに大粒の涙を流している。
大の大人がここまで感情をむき出しにして別れを惜しんでくれることは、セフィラたちにとっても嬉しいことなのだが……その圧の強さにはたじたじといった様子だ。
「だ、大丈夫です! トランクの中は何度も確認しましたから! お土産に貰った水に溶かして牛乳が作れる全粉乳って白い粉に、戦争の時に比べて味が格段に進化した腐りにくいビスケット、それと小ビンに入った各種調味料もちゃんと入れてあります」
そう言ってセフィラは自分のトランクを目線で示す。
ガルーの移動速度ならば、ほぼほぼ野宿せずに街から街へ移動できる。
それでも非常食というのは持ってるだけで安心感がある。
セフィラたちが無事でも、道中でお腹を空かせて倒れている人に出会う可能性だってあるのだから、旅の妨げにならない範囲で物資は常に手元に置いておく方針だ。
「次の目的地は……クラグラ山脈のダムドー峠を越えてアスパーナでしたか。アスパーナは王国一番の温泉街ですから、戦いに疲れたガルー様やセフィラ様を必ずや癒してくれることでしょう……!」
ゴルドンの言う通り、セフィラたちの次なる目的地は温泉街アスパーナ。
目的は当然温泉に入ってほっこり癒されること――それ以上でもそれ以下でもない!
(子どもたちには何か大きな使命を抱えて旅立つみたいな雰囲気で話しちゃいましたけど、今回の旅に関しては私とガルーの休息が目的なんですよね)
セフィラはここ一年間あまり使ってこなかった聖なる魔力を短期間でたくさん発動している。
特にガルーを遠くから呼び出した召喚魔法の影響は、まだ体のどこかにほんのり残ってる。
それに加えてシオーネの家での生活は、とても成長期の子どもに適した環境ではなかった。
若いにもかかわらず、セフィラの全身には疲労がこびりついている。
世界を巡る旅を始めるに至って、そういった今までの疲れを名湯の力で綺麗さっぱり洗い流してしまおうと、セフィラとガルーは考えたのだ。
「……セフィラ様たちに限って心配はいらないと思いますが、最近ダムドー峠には子どもを狙った人攫いの集団が出るというウワサがあります。しかも山中にアジトを作っているという話まで……。くれぐれもお気を付けください」
ゴルドンはその話が周りに聞こえないように、ボソボソとセフィラたちに伝える。
「人攫いの集団ですか……。そういえば最近、私も王都で人攫いに追いかけられた経験があります。悪党のくせにやけに堂々としていて、周りの目も大して気にしていない様子でしたね。やはり王国騎士団が腐敗して、犯罪者の集団も動きやすくなっているのでしょうか?」
「そうなのだと思います、残念ながら……。大人の怠惰で子どもたちが苦しめられるなんて、本来あってはならないことです……!」
ゴルドンは顔をしかめ、怒りをあらわにする。
子どもは大人より小さくて攫いやすい上に高く売れる。
ゆえに子ども専門の人攫いも存在するという……。
「ねぇ、ガルー! 私たちが人攫いのアジトを見つけてぶっ潰したら、救われる子どもたちはたくさんいますよね?」
「人攫いのグループはたくさんあるだろうから、1つアジトを潰したところで誘拐行為の撲滅は出来ないが……少なくともそのグループに攫われていた子どもたちは救われるな。まあ、そもそもダムドー峠に人攫いがいるというのも、ウワサに過ぎないわけだが」
「それはそうですけど……何か私の勘が反応しているんですっ」
セフィラとガルーがそんな話をしていると、そこへゴルドンが慌てて割って入る。
「も、申し訳ございません……! 不確定な情報をお伝えしてしまって……! 私はただセフィラ様とガルー様が、無事次の目的地に到着できればと思った次第で、誘拐事件の解決まで考えていただく必要はございません……!」
ゴルドンはそう言って深々と頭を下げるので、今度はセフィラが慌てることになる。
「いえいえ、謝る必要はありませんよ、ゴルドンさん! 不確定でも頭の片隅に入れておくべき情報だと思いますので……!」
最後はなんともわちゃわちゃした感じになってしまったものの、それもまたいい思い出――。
いよいよセフィラたちはフラウ村を出る。
「それでは行ってきます! フラウ村のみなさん、ありがとうございました!」
「皆の者……また会おうぞ!」
セフィラたちを見送るために集まった村人たちは、大きく大きく手を振った。
彼らの気持ちに応えるため、ゆっくりと歩くガルーの背中から、村人たちの姿が見えなくなるまでセフィラは手を振り返し続けた。
そして、その姿が見えなくなった後は……次なる目的地を見据え、ガルーは加速した。




