元侍女と王子様が向かう先
ルナの結婚式が終わってから1ヶ月半後、私は正式にアレク様とようやく婚約を結んだ。仮に婚約してからもう4ヶ月、戦争が終わってからとなるともう7ヶ月も経ったのだ。時の流れは早い。
だけど婚約式だというから軽く挨拶でもするのかと思ったら、国内の貴族達に午前中はずっと挨拶をし、そして午後からは誓約式で赤色の婚約届を出したら、その後にバルコニーに出て国民達へ顔出しをしていた。こうして1日はあっという間に過ぎ去ったのである。
完全に王族の婚約式を舐めていた。エラとヴィオル卿の時の婚約式は誓いの式と軽い挨拶で終わっていたのに、私達の時はここまで大変だとは……。これが時期王と、臣籍降下する予定の王族の違いだろうか。
婚約式でここまでするなら、結婚式はどうなるのだろうか? 考えるだけで恐ろしい……でももう逃げられない。逃げるつもりは微塵もないけど。
「アナお疲れ様。もうクタクタだろう?」
「はい、疲れました。アレク様もお疲れ様です」
アレク様も疲れているはずなのに、スマイルなのが凄い。私にはちょっと無理かも……尊敬するな。
「ねぇアナ、今日で正式に婚約したんだ。だからそろそろ変えないか?」
「 アレク様、一体何を変えるのでしょうか?」
「その呼び方と話し方……そろそろ敬語は止めないか?」
「えっと……まだその、心の準備が……」
「4ヶ月もあったのに?」
もうニヤニヤして……そうやって逃げられないようにするのズルい。正直そのことをスッカリ忘れていて、今更だけど緊張する。だってやっぱり元々手に届かないと思っていた人だもの。まだ呼び捨てやタメ口に抵抗がある。
でも今アレク様の両腕で後ろから私の身体がしっかりとホールドされているし……これもう呼ぶまで離して貰えないパターンじゃない。
「ア……アレク、離して」
「第一声がそれなの? 何か傷ついたな〜。嫌だ、離してあげない」
「もう〜ならどうしたら良いの?」
何だか凄く甘えているような気がするのだけど、気の所為? 何か不思議な感覚だ。
「じゃあ素直に答えて。本当にこの婚約に後悔ないの?」
「勿論ありません……いえ、ないわ。だってこの4ヶ月でアレクのことをもっと好きになったから」
「本当に? 勿論私もアナのこと大好きだよ。ずっと加速する形でね。もうこのまま部屋に連れて帰りたいぐらい嬉しい」
「流石に連れて行くのはやめて」
「本当にアナは釣れないね。今回は我慢しておこう」
もう冗談が過ぎるわよ。もし連れて行ってと冗談でも言ったら、本当にアレクの部屋に連れて行かれそうな勢いだったもの。まだ婚約しただけなのに……。
でもそれが寂しく感じるのは気の所為だと思いたい。
◇◇◇◇◇
私達が婚約発表した1ヶ月に、ロゼリアは騎士団長と結婚した。
婚約が決まって4ヶ月後の結婚式であり、超名門貴族であるオールトン家の式だと早い方だと言えるだろう。普通これぐらいの名門だとどんなに最短でも半年はかかるだろうから。
どうやら侯爵達が結婚を早くさせたがっていると言うのは本当だったようだ。
まあ、彼は誰よりもストイックで一流の騎士になるためにずっと騎士道に打ち込んできたような人だから社交界に出ることも無かったと聞いているし、あと単純に本当に結婚の意思が無くて縁談も全て断っていたという噂もある。そんなこんなで26歳になってしまった彼にようやく結婚したいと思った相手が出来たわけだから、逃したくなかったのだろうな。
ロゼリアもその勢いに驚いたと言っていたし。
そんな急いで用意された式だと言うのに、参加者はルナの時とは比にならないぐらいの人数の多さに圧倒されていた。流石超名門のオールトン侯爵家だ。
「お姉様、エラちゃん、お母様、来てくださりありがとうございます。何だか今凄く幸せですの」
マーメイド型のウェディングを着たロゼリアが高らかに声を上げると、それはもう美しい声で歌っているマーメイドのように華やぐ。
この時私はこんな美しい妹を見ることが出来て、本当に生きていて良かったと涙してしまった。そして、 式の途中でも涙目になっている私に、隣にいたアレクは微笑みながら見守ってくれたのだった。
◇◇◇◇◇
ロゼリアの結婚式の3ヶ月後、次はエラがヴィオル卿と結婚式を挙げた。
ロゼリアの式の時は国内の貴族を呼んでいた感じだけど、今回の式は国外からの来客も来ており、それはもう膨大な参加者が押し寄せていた。話によると、王兄であるヴィオル卿の父である前公爵の2倍ほど来ていたとか。
まあヴィオル卿は元々外交的な仕事を担っているから、その分の繋がりが強くてこうなったのだと考えられる。
「お母様、お姉様、来てくださりありがとうございます。人が多すぎで大変緊張しております」
A型ラインのウェディングドレスを着たエラが微笑むと、まるで後光が差さるかのように輝いたのだ。もうその姿は天使そのものである。いや元から天使だけど、更に天使になっていた。うん、語彙力が欠けていることは自覚しているけど、こんな可愛い義妹を見てまともにいられるわけがない。
ロゼリアの時も思ったけど、こんなに美しい義妹を見ることが出来ていて、本当に生きていて良かったと心の底から思う。
ここまで思うのは姉馬鹿だろうけど、だって可愛くて仕方がないんだもの。そう思うのは当然だと思う。
そして今回もそのエラの美しさに涙目になりながら、隣にいるアレクが微笑んで見守ってくれていたのだった。
◇◇◇◇◇
エラの結婚式から4ヶ月後、つまりアレクと婚約してから8ヶ月経って、ようやく結婚式を迎えることが出来た。
今私はちょうどおめかしも終わったところだ。
「私の手でアンのウェディング姿を仕上げることが出来るだなんて……最高過ぎる!! もう間違いなく世界一綺麗な花嫁よ」
「ルナ、世界一は言い過ぎ!!」
でも本当に驚くほど綺麗だ。試着で何度も着ているはずなのに、いつもよりも綺麗に見えるのは、やっぱりルナの手が加わっているからかな。
私が今着ているウェディングドレスは、ロングトレーンドレス。それもトレーンが5メートルもあるから凄く重いし、コケたらそこで終わり。大変格式の高いドレスだから気を付けないといけない。
まあその分見栄えがあって、私でも惚れ惚れするほどだけどね。でもいざこれで参加するとなると緊張が増してくる。
「ルナの言っていることは間違いないわ。絶対に今この瞬間は世界一綺麗です」
「お姉様、本当に美しいですわ」
(義)妹2人がルナの言葉を追いかけるように、ベタ褒めをしてくる。何だかそこまで褒められるとくすぐったい。
「アナスタシア、本当にこれで良いの? 何だかこのネックレスだと忍びないのだけど……」
「お母様のネックレスが無いとサムシングフォーが出来ませんもの。是非着けてください」
母は不安そうながらも、大きく輝くダイヤモンドのネックレスを着けてくれた。どうせ身に着けるなら母のものが良かったもの。凄く綺麗なネックレスだし、違和感ない。これでサムシングオルドは完了だ。
因みにサムシングブローは王妃様が結婚式で身に着けたグローブ、サムシングブルーはブーケを束ねるリボン、サムシングニューはこの仕立て上げたドレスだ。やはり結婚式と言えばサムシングフォーをしないと。
「アナ、準備出来た?」
「アレク……今出来たわ」
アレクが入ってくると、ルナ達は即座に部屋を出て2人きりにする。
「凄く綺麗だ。みんなの視線がアナに集まるね」
「アレクも凄く格好良いわよ。私はアレクの方にずっと目がいきそう」
改めてアレクを見ると、正装がとても引き締まっており、格好良くて惚れ惚れとしてしまう。あぁ、本当に彼と結婚するんだ。
「ねぇ心の準備はどうなの?」
「そうね……やっぱり不安もあるわ。これからちゃんとした王太子妃として役割を果たせるかって思ってしまうの」
「なんだそんなことか」
なんだって何よ。私は凄く真面目に言っているのに、笑うなんて酷いじゃないの。
「これから正式に王太子妃になるだけで、アナはもう立派な王太子妃だろう。すでにもう色々と問題に取り組んで、解決しそうになっているじゃないか」
「でもあれは元々取り組む予定だったもので、それに私が少し加わっただけよ」
「いやアナがいなければもっと先になっていたし、下手したら取り組めていなかったかもしれない。本当に感謝している」
これから王太子妃になる私が何故もう政治に関わっているかと言うと、私の王太子妃教育が想定よりも半年も早く終わったからだ。
今取り組んでいる問題と言うのは、まあ色々あるけれど、例えば爵位の譲渡を成人女性でも可能にすることや、貴族と庶民の賃金格差の是正、税収徴収の在り方の見直しなど、私が直面してきた問題を主にしている。
最初私がこういう問題に取り組みたいと言った時、反対されるかもしれないと覚悟していた。でもアレクは寧ろずっと取り組みたかったけど、中々出来ずにいたから一緒にしたいと乗ってくれたのだ。
まあ、他の貴族に説得するのが大変で簡単にはいかないけど、少しずつだけど受け入れられつつあるし、私達の出した案をより良い方向に持って行ってもくれている。きっと時間はまだかかるけど、必ず成し遂げてみせる。
ふふ、言われたらもう私は王太子妃としてすっかり馴染んでいたのかもしれない。そう言われたら心が軽くなった。
「これからもアナの隣で一緒に国を支えていきたいんだ。だから今日はその誓いをみんなの前でしよう」
「ええ、 私もアレクの隣で共に国を守りたいわ」
アレクとなら絶対に大丈夫。私は王太子妃として進んでいける。あとは国民のみんなの期待に応えられるように努力するだけだ。
「勿論、あとは夫としてアナに永遠の誓いをみんなの前でするから。そっちの約束も破らないでよ」
「破るわけないじゃない。アレクがアレクである限り私は永遠に愛の誓いを立てるわ」
私達が向かう先は、国と国民を守ること、そしてお互いに愛し合って支えることと共に同じ。
これから私達は同じ道を歩む。
そのことを誓って、みんなの前でもこれからハッキリと言葉にするの。
「「はい、誓います」」
1年間半最後までお付き合いいただきありがとうございました。
今回は一人称と言う事で、後日談が書けなかったことが少し悲しいですが、その分感情をより表面化することが出来て、前作よりは恋愛感を増すことが出来たのではないかと思い、個人的に満足致しました。
無事に完結出来たことを大変嬉しく思います。




