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未来探偵ゼノンと七つの事件  作者: 八海宵一
「03 複製人間の罠」
25/47

#08

     *


 簡素なカウンセリングルームの中央に、拘束具をつけられ手足の自由を奪われた少年二人が、椅子に固定されていた。整った眉をわずかに歪めた彼らは、まったく同じ顔、同じ姿勢で、私たちが入室するのを黙って見ていた。

「きみたちがユペルだね?」

 私が尋ねると、ユペルたちは同時に口を開いた。

「そういう、あんたたちは何者だ」

「そういう、あんたたちは何者だ」

 きれいなユニゾンだった。私は純粋に感動しながら、自己紹介をした。

「私は太陽系警察209分署のステファン・シュナイダー。こちらはアドバイザーのクリノさんだよ」

 説明が面倒なので、あえて未来探偵という言葉は使わずにゼノンを紹介した。ゼノンは眠そうな目で、ヘッドホンをしたまま、「どうも」と短く挨拶をした。

「警察とアドバイザーが、ぼくたちになんのようだ」

「警察とアドバイザーが、ぼくたちになんのようだ」

 少年たちはステレオのように声を響かせながら、やや瞳孔の開いた目をこちらにむけてきた。どうやら、まだ興奮が残っているらしい。どちらのユペルも紅潮した右頬が無意識に引きつっていた。

興奮による感情的な口調。しかし、それは少年たちの強がりのようにみえた。

 私は二人を見比べながら、つとめて穏やかな口調でいった。

「アネイル・ショット博士の件で話が聞きたくてね。なにがあったのか、詳しく聞かせてもらえるかな?」

 すると、またユニゾンが響いた。

「あれはアネイルが悪い。当然の報いだ」

「あれはアネイルが悪い。当然の報いだ」

「当然の報い?」

 私が聞き返すとユペルたちは頷き、交互に話し始めた。まるで一人の人間の言葉を分割して話すかのように……。

「ぼくたちはいつものように」

「あの部屋で心理テストをしたあと、カウンセリングを受けていた」

「このテストとカウンセリングは」

「ぼくたちの心のシンクロ率をはかるもので」

「結果は、いつものように」

「好成績だった」

「それなのに」

「あいつは言ったんだ」

 次の瞬間、二人の声が完全にそろった。

「おまえたち、気持ち悪いなって」

「おまえたち、気持ち悪いなって」

「その言葉を聞いて、カッとなったこいつが、急にアネイルを刺したんだ」

「その言葉を聞いて、カッとなったこいつが、急にアネイルを刺したんだ」

 拘束されたユペルたちはお互いをアゴで指した。

「ぼくはとっさに止めに入ったけど、間に合わなかった」

「ぼくはとっさに止めに入ったけど、間に合わなかった」

 マネするなといわんばかりに、睨みあうユペルたち。

「うーむ」

 話を聞いた私は、頭が痛くなってきた。一体、ここから先、なにをどうすればいいのだろう。途方にくれていると、ゼノンが試すかのような口ぶりで二人にたずねた。

「きみたちは普段から、ナイフを隠し持っているのかい?」

「いや、そんなことはしない」

「いや、そんなことはしない」

「じゃあ、なぜ、今回に限って、隠し持っていたんだ?」

「そんなの、ぼくが知るわけない」

「そんなの、ぼくが知るわけない」

 彼らはどちらも、自分が実行犯ではないと言いたいらしい。

 ゼノンは鼻を鳴らした。

「そうやって、はぐらかすのが狙いだな」

「なんのことだ?」

「なんのことだ?」

 ユペルたちが心外そうに首をかしげた。

 その様子にゼノンの目の奥が怪しく光る。

「きみたちは、複製人間だよな?」

「そうだ」

「そうだ」

「なのに、なぜナイフを隠し持っていた理由がわからないんだ?」

「……」

「……」

 ユペルたちは黙った。ゼノンのいいたいことがわかったからだ。

「本当は相手の行動や思考に思い当たるところがあるんじゃないか? そこまでシンクロしていれば、かなりの意思共有ができているはずなんだけどなぁ」

「……知らない」

「……知らない」

 ユペルたちは動揺し、壊れたように同じ言葉を繰り返した。

「知らない、しらない、シラナイ!」

「知らない、しらない、シラナイ!」

「きみたちは、お互いのことがよくわかっていたはずだ。ともにショット博士を憎んでいたことも、その感情がピークに達しそうなことも。だから、きみたちはそのシンクロ能力を利用して、ショット博士の殺害を計画し、共謀して実行に移したんじゃないのか?」

「シラナイ!」

「シラナイ!」

「いや、待ってください、クリノさん。彼らは普段、別々の部屋に隔離されていて、計画を話し合う時間なんてどこにもなかったはずです。限られたテストの時にしか会えなかったはずですから」

 背後で様子をうかがっていたワグナーが弁護するように口を挟んだ。

 ゼノンが肩をすくめる。

「話し合う時間なんて必要ありませんよ。彼らは自問自答するような感覚で、計画を共有できるんだから」

「おまえ、何なんだ! なぜ、そんなことがわかるんだ?!」

「おまえ、何なんだ! なぜ、そんなことをわかるんだ?!」

 ユペルたちは自分たちの秘密を知るゼノンに恐怖し、うろたえているようだった。だが、彼らは目配せするとすぐに冷静さを取り戻し、ゼノンを睨みつけあと、冷笑した。

「仮に、おまえの言うことが正しいとして」

「それをどう証明するんだ?」

「結局、ぼくたちのどちらが実行犯で」

「どちらが止めに入った人間か」

「わからないじゃないか」

「わからないじゃないか」

 彼らは悪意に満ちた禍々しい笑みを浮かべ、挑発するように言ってきた。だが、そんな安易な挑発にのるゼノンではない。彼は冷めた目でユペルたちを眺めたあと、こういった。

「どうやら、きみたちはなにか勘違いしているみたいだね。どちらが実行犯なんて、この際、どうでもいいんだよ」

「なんだって?!」

「なんだって?!」

「なんですって?!」

「なんですって?!」

 その場にいる全員が同時に声をあげた。そりゃそうだろう。じゃあ、いままでの話はなんだったんだって話だ。全員の、それこそ刺すような視線を身に受けながらゼノンは、相変わらず眠そうな半眼で、肩をすくめた。

「だって、そうでしょう。ユペルは狭義において人間じゃない。だから、人間の刑法で裁くわけにはいかないんだから」


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