#08
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簡素なカウンセリングルームの中央に、拘束具をつけられ手足の自由を奪われた少年二人が、椅子に固定されていた。整った眉をわずかに歪めた彼らは、まったく同じ顔、同じ姿勢で、私たちが入室するのを黙って見ていた。
「きみたちがユペルだね?」
私が尋ねると、ユペルたちは同時に口を開いた。
「そういう、あんたたちは何者だ」
「そういう、あんたたちは何者だ」
きれいなユニゾンだった。私は純粋に感動しながら、自己紹介をした。
「私は太陽系警察209分署のステファン・シュナイダー。こちらはアドバイザーのクリノさんだよ」
説明が面倒なので、あえて未来探偵という言葉は使わずにゼノンを紹介した。ゼノンは眠そうな目で、ヘッドホンをしたまま、「どうも」と短く挨拶をした。
「警察とアドバイザーが、ぼくたちになんのようだ」
「警察とアドバイザーが、ぼくたちになんのようだ」
少年たちはステレオのように声を響かせながら、やや瞳孔の開いた目をこちらにむけてきた。どうやら、まだ興奮が残っているらしい。どちらのユペルも紅潮した右頬が無意識に引きつっていた。
興奮による感情的な口調。しかし、それは少年たちの強がりのようにみえた。
私は二人を見比べながら、つとめて穏やかな口調でいった。
「アネイル・ショット博士の件で話が聞きたくてね。なにがあったのか、詳しく聞かせてもらえるかな?」
すると、またユニゾンが響いた。
「あれはアネイルが悪い。当然の報いだ」
「あれはアネイルが悪い。当然の報いだ」
「当然の報い?」
私が聞き返すとユペルたちは頷き、交互に話し始めた。まるで一人の人間の言葉を分割して話すかのように……。
「ぼくたちはいつものように」
「あの部屋で心理テストをしたあと、カウンセリングを受けていた」
「このテストとカウンセリングは」
「ぼくたちの心のシンクロ率をはかるもので」
「結果は、いつものように」
「好成績だった」
「それなのに」
「あいつは言ったんだ」
次の瞬間、二人の声が完全にそろった。
「おまえたち、気持ち悪いなって」
「おまえたち、気持ち悪いなって」
「その言葉を聞いて、カッとなったこいつが、急にアネイルを刺したんだ」
「その言葉を聞いて、カッとなったこいつが、急にアネイルを刺したんだ」
拘束されたユペルたちはお互いをアゴで指した。
「ぼくはとっさに止めに入ったけど、間に合わなかった」
「ぼくはとっさに止めに入ったけど、間に合わなかった」
マネするなといわんばかりに、睨みあうユペルたち。
「うーむ」
話を聞いた私は、頭が痛くなってきた。一体、ここから先、なにをどうすればいいのだろう。途方にくれていると、ゼノンが試すかのような口ぶりで二人にたずねた。
「きみたちは普段から、ナイフを隠し持っているのかい?」
「いや、そんなことはしない」
「いや、そんなことはしない」
「じゃあ、なぜ、今回に限って、隠し持っていたんだ?」
「そんなの、ぼくが知るわけない」
「そんなの、ぼくが知るわけない」
彼らはどちらも、自分が実行犯ではないと言いたいらしい。
ゼノンは鼻を鳴らした。
「そうやって、はぐらかすのが狙いだな」
「なんのことだ?」
「なんのことだ?」
ユペルたちが心外そうに首をかしげた。
その様子にゼノンの目の奥が怪しく光る。
「きみたちは、複製人間だよな?」
「そうだ」
「そうだ」
「なのに、なぜナイフを隠し持っていた理由がわからないんだ?」
「……」
「……」
ユペルたちは黙った。ゼノンのいいたいことがわかったからだ。
「本当は相手の行動や思考に思い当たるところがあるんじゃないか? そこまでシンクロしていれば、かなりの意思共有ができているはずなんだけどなぁ」
「……知らない」
「……知らない」
ユペルたちは動揺し、壊れたように同じ言葉を繰り返した。
「知らない、しらない、シラナイ!」
「知らない、しらない、シラナイ!」
「きみたちは、お互いのことがよくわかっていたはずだ。ともにショット博士を憎んでいたことも、その感情がピークに達しそうなことも。だから、きみたちはそのシンクロ能力を利用して、ショット博士の殺害を計画し、共謀して実行に移したんじゃないのか?」
「シラナイ!」
「シラナイ!」
「いや、待ってください、クリノさん。彼らは普段、別々の部屋に隔離されていて、計画を話し合う時間なんてどこにもなかったはずです。限られたテストの時にしか会えなかったはずですから」
背後で様子をうかがっていたワグナーが弁護するように口を挟んだ。
ゼノンが肩をすくめる。
「話し合う時間なんて必要ありませんよ。彼らは自問自答するような感覚で、計画を共有できるんだから」
「おまえ、何なんだ! なぜ、そんなことがわかるんだ?!」
「おまえ、何なんだ! なぜ、そんなことをわかるんだ?!」
ユペルたちは自分たちの秘密を知るゼノンに恐怖し、うろたえているようだった。だが、彼らは目配せするとすぐに冷静さを取り戻し、ゼノンを睨みつけあと、冷笑した。
「仮に、おまえの言うことが正しいとして」
「それをどう証明するんだ?」
「結局、ぼくたちのどちらが実行犯で」
「どちらが止めに入った人間か」
「わからないじゃないか」
「わからないじゃないか」
彼らは悪意に満ちた禍々しい笑みを浮かべ、挑発するように言ってきた。だが、そんな安易な挑発にのるゼノンではない。彼は冷めた目でユペルたちを眺めたあと、こういった。
「どうやら、きみたちはなにか勘違いしているみたいだね。どちらが実行犯なんて、この際、どうでもいいんだよ」
「なんだって?!」
「なんだって?!」
「なんですって?!」
「なんですって?!」
その場にいる全員が同時に声をあげた。そりゃそうだろう。じゃあ、いままでの話はなんだったんだって話だ。全員の、それこそ刺すような視線を身に受けながらゼノンは、相変わらず眠そうな半眼で、肩をすくめた。
「だって、そうでしょう。ユペルは狭義において人間じゃない。だから、人間の刑法で裁くわけにはいかないんだから」




