#02
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月面第二基地は、謎に包まれた場所だった。
何度か訪れたことはあるものの、そこがどういう場所なのか、正直、いまだによくわかっていなかった。いくつかの研究施設と、シリウス星系の外交窓口があるらしいという話だが、各区域は何重にも隔離されていて、その全体像は把握できないようになっていた。これはおそらく意図的な構造だろう。ただ、なぜそのようにしているのかがわからなかった。月面第一基地が一部とはいえ開放され、観光地化されているのに対し、月面第二基地はどう贔屓目に見ても、閉鎖的だった。
私が月面基地の疑問を口にすると、ナミハヤ宇宙港定期船乗り場のベンチに腰かけていたゼノンが、眠そうな半眼でいった。
「第二基地は地球(おか)の目の届かない裏側にあるから、自然とそうなるのかもしれませんね」
「はあ……」
曖昧にうなずくと、ゼノンは意味深に笑った。
「マクレガー警部が事件と断言しなかった今回の案件も、そういった意味で第二基地らしいといえば、らしいんだと思いますよ」
「どんな事件だと思いますか?」
「情報がないのでなんともいえませんが、非合法的な、なにかでしょうね」
「非合法的な、なにか?」
聞き返すと、ゼノンはうなずいた。
「合法的な事件であれば、シュナイダーさん一人で十分解決できますよ。以前と同じようにね。でも、そうはせずに、わざわざぼくを同行させるってことは、100%、合法的な事件ではないってことですよ」
「ふうむ」
私は唇に指をあて、考えこんだ。いや、ここで考えこんでも仕方がないのはわかっていたが、なにか心の準備となるものがほしかった。
そもそも、合法的な事件ってなんだ?
考えこむ私をみて、ゼノンが一言こういった。
「シュナイダーさんは本当に大変な時代に、警官になっちゃいましたね」
「ええ、まったく。一昔前の警官なら、こんな苦労はなかったでしょうに」
私は肩をすくめて答えた。