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黒桜  作者: Riv Sansty


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1/12

相反するものの出会い

人には、まるで周囲を照らす光のように輝く者がいる。

そして、自分は世界にとって邪魔な存在なのだと思い込み、静かに影の中で生きることを覚えてしまった者もいる。

無数の人々がすれ違いながらも、誰一人として本当には互いを見ようとしない東京の街。

その中で、二人の高校生は正反対の孤独を抱えて生きていた。

佐藤涼太郎。

学校の廊下で彼に向けられるのは、冷たい視線と嘲笑、そして残酷なあだ名だけだった。

色褪せた黒いパーカーのフードを深く被った彼は、まるで人間ではなく“影”のように見える。

生徒たちは彼をこう呼ぶ。

――「黒い幽霊」。

近づけば不幸になる。

関われば気味悪い。

誰も彼を理解しようとはしなかった。

だが、本当に彼の“中身”を見ようとした者は、今まで一人もいなかった。

一方、高嶺愛子はまるで太陽のような少女だった。

優しく、人懐っこく、誰からも愛される存在。

彼女の笑顔は自然と周囲を和ませ、教師でさえ特別な目で彼女を見ていた。

しかし、その柔らかな笑顔の裏には、誰にも見せていない不安や恐怖が隠されている。

そんな二人が出会った時、何かが静かに動き始める。

それは運命的な恋ではない。

奇跡でもない。

ただの――「気になった」という感情。

どうして彼は、あんなにも孤独なのだろう。

どうして誰も、彼に手を伸ばさないのだろう。

愛子の小さな疑問は、閉ざされていた涼太郎の心に少しずつ触れていく。

そして涼太郎自身もまた、ずっと捨てたはずだった感情を思い出し始める。

「誰かに理解されたい」という願いを。

だが、人の傷は簡単には癒えない。

悪意ある言葉は心を蝕み、

孤独は人を変え、

過去の痛みは、“誰かを信じる”という当たり前の行為すら困難にしてしまう。

無関心な東京の街の中で、

涼太郎と愛子は少しずつ歩き始める。

それは、お互いが最も恐れながら、同時に最も求めていたものへ向かう旅。

――「繋がり」。

たった一人でも、手を差し伸べてくれる人がいれば、

人は完全な闇へ沈まずに済むのかもしれない。

そして――

どれほど壊れてしまった心でも、

もう一度、花を咲かせることはできるのだから。

「見て、黒幽霊よ」と、ある女の子が軽蔑するように言った。


「なんであいつがここにいるのか分からない」と、ある男の子がくすくす笑いながら言った。「あいつは出て行けばいいのに。誰もあいつがいなくなっても気にしないよ」


「近づかないで、友達!」と、別の女の子が友達を押しやりながら言った。「あの人、十種類くらい病気にかかってるんじゃないかしら!」


学校の廊下では、生徒たちが楽しそうにおしゃべりをしていた。また一日が始まった。しかし、その中でひときわ異彩を放つ人物がいた。黒い影。幽霊のように見えたが、実は人間だった。彼の名は佐藤良太郎。


良太郎はいつも周りの人たちとは違っていた。皆が明るくきれいな服を着ている中、彼はいつも黒い服、特にフードを被った黒いパーカーを着ていた。そのパーカーは色褪せ気味だった。彼に話しかけようとする者もいたが、質問には一切答えない彼に、皆諦めてしまった。良太郎は生徒たちの間で「黒幽霊」というあだ名で呼ばれていたが、本人は全く気にしていなかった。物静かな少年にとって、残酷な言葉や冷たい視線はもはや何の影響も及ぼさなかった。ただ教室へ行き、すべてを終わらせたいだけだった。


廊下の反対側では、一人の少女が歩いていた。彼女を見た人々は、すぐに道を譲った。教師は彼女を見ると、まるで自分の娘であるかのように、他の教師とは違う笑顔を見せた。数人の友人たちも、彼女を見つけるやいなや、温かく挨拶した。彼女の名前は?高根愛子。良太郎とは正反対の性格だった。


その日、愛子が廊下を歩いていると、フードを被った良太郎の姿を目にした。友人たちが彼を見た時の反応を間近で見て、彼女は尋ねた。


「あの人、誰?」


「知らないの?」友人の一人、美香が言った。「黒幽霊の良太郎よ。近づかない方がいいわ。」


「どうして?」愛子は理解できずに尋ねた。


「だって、変人なんだもん!」 「あいこちゃんの友達の一人、綾瀬が言ったの。『あいこちゃんに近づくとみんな具合が悪くなるのよ。近くにいるだけで不運が来るって聞いたわ』」


しかしあいこは、部屋に向かってくる涼太郎の方をじっと見ていた。涼太郎は部屋に入る前にあいこを一瞥し、あいこは彼の目を見た。灰色だった。比喩ではなく、文字通り。その視線に、あいこは何かを感じた。もっとあの子に近づきたい、と。しかし、友達に引っ張られて別の隅に連れて行かれたので、あいこは深く考えることはできなかった。教室に入ってからも、あいこは涼太郎のことが頭から離れなかった。なぜ彼があんなに人と関わらないのか、理解できなかった。


それから数日間、あいこは涼太郎をまるで珍しい鳥を見るかのように、じっと見つめるようになった。そのせいで、あいこは授業中に二度以上も注意を受ける羽目になった。


「あいこちゃん、どうしたの?」と美香が尋ねた。「いつもより落ち込んでるみたいだけど」


「ちょっと…考えすぎちゃっただけ」とあいこは嘘をついた。それは彼女がその週についた4つ目の嘘だった。


ミカとアヤセは眉をひそめ、しばらく顔を見合わせた。嘘だと分かっていたが、それ以上追及しないことにした。


ある日、授業が終わり、日が暮れかけた頃、愛子は壁の陰から彼を見ていた。彼は出口に向かって歩いていたが、途中で立ち止まった。すると、少し掠れていたが、それでも毅然とした涼太郎の声が聞こえた。

――愛子…高嶺。出て行け。


――どうして…――愛子は壁の陰から出てきて言った。――どうして私がここにいるって分かったの?


――ずっと前から知っていた――涼太郎はそう答えると、シャツのポケットに手を入れ、愛子をじろじろと見つめた。――教えてくれ。俺に…何…用だ?


愛子は何と言っていいか分からなかった。一瞬、自分の社交術が全て役に立たないように思えた。彼を気の毒に思うなんて言ったら、とんでもない失礼になるだろうと確信していた。


――私…――愛子は言葉に詰まり、心の中で渦巻く好奇心と直感の裏にある真実を探した。――この前、廊下であなたを見かけたの。他の人たちがそう言って…それで…

— ああ、わかったよ — 涼太郎が遮った。— 君は好奇心を持ったんだろ。いつもの…好奇心だ。俺が…異国の鳥に見えるか?


— い、いえ!そうじゃないんです! — 愛子は一瞬声が震えながら言った。— ただ…知りたいんです。どうして…どうしてあなたが…?


— 君には…関係ない — 涼太郎は鋭く遮った。— これからも関係ない。


涼太郎は彼女に背を向け、再び出口に向かって歩き始めた。しかし、愛子の決意は諦めずに、彼に向かって走り寄り、叫んだ。


— 待って!


涼太郎は彼女を見ずに立ち止まった。「今度は何だ?」とでも言うように唸りながら、彼女の言葉を待った。愛子は視線をそらし、囁いた。


— わかってる… 私に話したくないんでしょ。あなたは私のことを何も知らない。でも… 私は助けたい。君には…友達がいてほしいんだよ、わかる?


― 一人で幸せだったらどうするんだ? ― 涼太郎は唸った。


― 涼太郎、誰も一人でいるべきじゃない。たとえ一人でも、誰だって友達が必要なのよ!


その言葉に涼太郎はかすかに震えた。幼い頃のある出来事が思い出されたのだ。今にも崩れ落ちそうになったが、間一髪で踏みとどまった。


― 愛子、俺に…何を望んでいるんだ? ― 涼太郎は最後の言葉で声が震えながら囁いた。


― ただ…あなたを助けたいだけなの ― 愛子は優しい声で言った。


涼太郎は再び歩き出した。立ち去るためではなく、ただ学校を出るためだった。通りに出ると、愛子が彼のそばにいた。


― どう思う? ― 愛子は尋ねた。― 私に手伝ってほしい?


涼太郎は彼女の目を見る勇気がなく、視線を落とし、ため息をついた。彼はまだそんな準備ができていないと感じていたが、心のどこかで、少なくとも試してみるべきだと告げていた。亮太郎は再び身震いし、少し震える声で言った。


「…好きなようにして。止めたりしないよ。」


愛子は再び微笑んだ。彼が少なくともチャンスを与えてくれたことが嬉しかった。正式な友情の宣言ではなかったが、それでも何か意味があった。


「ありがとう」と愛子は首をかしげて言った。


彼女がそんな風に首をかしげるのを見て、亮太郎は思わず小さく、いたずらっぽい笑みを浮かべたが、彼女が気づく前にすぐに消えた。愛子は亮太郎に別れを告げ、通りに出た。しかし、彼女が通りに足を踏み入れたわずか2秒も経たないうちに、静かな少年は愛子を歩道に引き戻した。あまりの速さに、少女は瞬きする暇もなく、ただ風が髪をなびかせ、心臓が激しく鼓動するのを感じた。その後、重く、濃密な静寂が訪れた。



「や、危ない!」涼太郎はどもりながら言った。


「涼太郎…」愛子は心臓がドキドキして息が荒くなるのを感じながら言った。「…助けてくれたのね。」


涼太郎は彼女の腕を、まるで触れただけで火傷したかのように素早く離した。平静を装いながら、彼は視線をそらし、言った。


「ただ…当然のことをしただけだ」そして、少し威圧的で苛立った口調で言った。


「でも、そんな風に路上を走り回っちゃダメだぞ!俺がいなかったらどうなっていたか分からないんだぞ!」


愛子は彼を見て、彼の頬がほんのり赤くなっているのに気づいた。涼太郎も彼女を見て、視線が合った。その視線は二秒ほど続いた。愛子は慌てて視線をそらし、地面を見つめて顔を赤らめた。


「それでも…助けてくれてありがとう」彼女は小さな笑みを浮かべながら言った。「恩に着るわ。」



「ちっ」と、涼太郎は腕を組み、顔を背けながら呟いた。


「じゃあ、もう遅いから。じゃあね、涼太郎!また明日!」


涼太郎は驚いて、再び愛子を見た。


「えっ!?明日?」と彼は言った。


「もちろん!」愛子は涼太郎の方を向き、頷いた。「やってみてって言ってくれたから、やってみるわ!また明日ね!」


彼女は人影のない通りを渡り、走りながら彼に手を振った。別の通りの角を曲がって彼女が姿を消すのを見届け、涼太郎はしばらく立ち尽くした後、ポケットに手を突っ込み、「変な女だ」と呟いた。


そして彼は、今起こったことを忘れようとしながら家路についた。誰だってそうするだろう…そうだろう?


一方、愛子もまた、自分の問題を抱えていた。街を歩いていると、涼太郎が何をしたのか知らない友人たちに出会った。実際、彼女は友人たちに話そうとしたのだが、誰も耳を傾けてくれなかった。しかし、友人たちが別れを告げてそれぞれの道へ去った時、状況は一変した。一人になった愛子は、危うく事故に遭いそうになった時と同じように、恐怖に駆られ、あたりを見回し始めた。心臓は激しく鼓動し、全身が震え、汗がどっと噴き出した。


「くそっ…」彼女は腕を握りしめながら呟いた。 「お母さんに迎えに来てもらうべきだった…」

道を渡ったところで、彼女は母のミサオと弟のマサヒロに出会った。娘がひどくパニックになっているのを見て、ミサオは駆け寄り、名前を呼んだ。アイコもそれを見て駆け寄った。


「お母さん!」アイコはそう言って、母をぎゅっと抱きしめた。


「アイコ…」ミサオはそう囁き、抱き返した。「一人で帰ってはいけないって言ったでしょ。」


「ごめんなさい…忘れてた…」アイコはそう言って泣き出した。


ミサオは親指で娘の涙を拭い、安堵と心配が入り混じった表情で囁いた。


「大丈夫よ、娘。もう終わったわ。さあ、家に帰りましょうか?」


「うん…」アイコはそう呟き、そっと抱擁を解いた。


マサヒロは不思議そうにアイコのスカートの裾を引っ張った。



「泣いているの、妹よ?どうしたの?」


「大丈夫よ、正広」愛子は兄の髪を優しく撫でながら言った。「ちょっとびっくりしただけ。もう大丈夫よ。」


三人は街灯のオレンジ色の光の下、ほとんど人通りのない通りを歩き続けた。冷たい風が愛子の髪をなびかせたが、彼女はすでに落ち着きを取り戻していた。それでも、彼女の心は良太郎のことでいっぱいだった。母の手を握りながら黙って歩き、彼女は心の中でこう思った。「良太郎…どうして一人で暮らしているの?一体何があったの?」


街の反対側では、良太郎が家に到着した。東京の中心部にあるアパートだった。中に入ると、母の恵がリビングのテーブルに身をかがめ、山積みの製図と未完成の走り書きを抱えていた。聞こえるのは、小さなテーブルを鉛筆で叩く音だけだった。


「時間がかかったわ」と彼女は言い、一瞬目を上げた。


「渋滞だよ」と彼は、まるで呼吸をするかのように自然に嘘をついた。


部屋の中は、ようやく静寂に包まれた。壁に貼られたアニメのポスター、きちんと並べられた漫画、動かないアクションフィギュア。学校の喧騒が届かない唯一の場所だった。涼太郎は夕食を手に取り、パソコンの前に座った。書いている物語のキーボードに指を置いたまま、宙を漂わせていた。それは、誰にも見えないけれど、影で世界を救うヒーローの、おかしな物語だった。誰にも見せるつもりはなかった。静かな少年はタイピングを始めようとしたが、ためらった。今は書く気分ではなかった。


リビングのドアが軋んだ。父親の龍が入ってきた。ベテラン弁護士としての一日を終えた疲れが、彼の顔に刻まれていた。


「やあ、父さん」涼太郎は階段を下りてきて、ポケットに手を入れて壁にもたれかかりながら言った。



「やあ、息子よ」リュウは顔を拭いながら答えた。


「いつもより疲れてるみたいだな」


「今日は…厄介な客ばかりだったんだ」


リョウタロウはしばらくリュウの様子を伺った。リュウの表情は、今にも崩れ落ちそうな城のようだった。少年はためらうことなく二階へ上がり、手にゲームコントローラーを二つ持って戻ってきた。


「鉄拳でもやろうか?」と、コントローラーの一つを振り回しながら提案した。


「うーん、どうかな…」リュウは疲れ切った声でためらった。


「わかった。でも、断ったらどうなるか分かってるだろ?」


「まさか…」


「尻込みするつもりか、この臆病者め」


リュウは低いが、心からの笑い声を漏らした。そして息子の手からコントローラーをひったくった。


「もう、やりすぎだ!」


リビングにいたメグミは、二階から聞こえてくる物音に顔を上げた。最初は眉をひそめた彼女だったが、すぐに疲れたような笑みが顔に広がった。なんておバカな二人だろう。いかにも彼ららしい。


二階では、亮太郎がすでにベッドに座り、コントローラーを手にゲームの準備を整えていた。龍は彼の隣に座り、スタートボタンを押す前に息子の肩に腕を回し、引き寄せた。


「そのしかめっ面の下には、まだ機嫌の良い人がいるんだね」と、龍は愛情のこもった笑顔で言った。


ゲーム画面が色鮮やかに光り輝き、パンチが炸裂すると、家の中はようやく温かくなったように感じられた。亮太郎は、学校での視線、残酷なあだ名、そして自分を包み込む虚無感を、ほんの一瞬忘れることができた。彼の唇から、自然と笑みがこぼれた。

こうして、すべては始まった。

大きな悲劇からではない。

劇的な告白からでもない。

世界を変えるような誓いからでもない。

始まりは――たった一つの視線だった。

誰もが“影”として扱っていた少年を、

一人の少女だけが「人」として見つめた、その瞬間から。

佐藤涼太郎は、長い間ずっと拒絶され続けてきた。

気味が悪い。

近寄りたくない。

不幸を呼ぶ存在。

そんな言葉を浴び続けるうちに、彼は人を遠ざけることを覚えてしまった。

誰かに傷つけられるくらいなら、最初から孤独でいた方がいい。

その静かな諦めこそが、彼を守る唯一の方法だった。

だが、高嶺愛子は違った。

周囲の忠告を無視するほど変わっていて、

拒絶されても諦めないほど頑固で、

そして――涼太郎の冷たい態度の奥にある“痛み”に気づいてしまうほど優しかった。

けれど、この物語は「優しい少女が傷ついた少年を救う話」ではない。

人の心は、そんな簡単に治らない。

心の傷は、一度優しくされたくらいで消えたりしない。

不安は笑顔だけでは消せない。

孤独は、一晩でなくなるものではない。

それでも、二人の間には確かに何かが生まれ始めている。

それは奇跡ではなく、

とても小さく、壊れやすい――“始まり”。

長い年月をかけて築かれた心の壁に入った、最初のひび。

涼太郎が、誰かを拒絶することを少しためらった瞬間。

愛子が、自分自身の弱さから目を逸らせなくなった瞬間。

人と人との出会いとは、きっとそういうものなのかもしれない。

問題を解決してくれる誰かではなく、

苦しみの隣に立ち続けてくれる誰か。

それだけで、人は少しだけ前を向けることがある。

だが、二人を待つ道は決して優しいものではない。

涼太郎には、まだ向き合えない過去がある。

愛子にも、誰にも言えない恐怖がある。

そしてこれから出会う人々や出来事は、二人を近づけるかもしれないし、壊してしまうかもしれない。

成長とは、傷つくことだから。

世界は時に冷たく、不公平で、残酷だ。

それでも、その暗闇の中で手を差し伸べてくれる人は、きっと存在する。

たとえ多くの人が彼を「黒い幽霊」と呼び続けたとしても。

たとえ愛子が笑顔の裏に不安を隠し続けていたとしても。

今の二人は、もう完全な一人ではない。

そして時には――

それだけで、人の人生は変わり始めるのだ。

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