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EDEN  狂気と裏切りの楽園  作者: スルメ串 クロベ〜
99/126

2-35.罪滅ぼし side:真壁 龍之介

side:真壁 龍之介


ーー結達が捕まった直後ーー


気を失っている結達を抱え、シェルターへと戻ってきた。

真白…鶴木は部下達に、2人を運ばせている。時間が遅いから、連れてこられた彼女達に気づいた人はいなかった。

俺はというと、結に言われたことが頭から離れなかった。

【鶴木には人を洗脳する力がある】そう言われた時、今自分がしていることを疑問に思った。


初めてできた仲間を、気絶させ引き渡した。

…なんで俺はこんなことをしたんだ?数時間前までなら、疑問にすら思わなかっただろう。

でも今は違う。自分がやっていることが正しいと思えない。そもそも、ここにいることすらおかしい。


今すぐ逃げるべきだが、その前にやることがある。

捕まった結達を連れ出さないと。このままここに置いていったら、何をされるかわからない。

…今は、正気に戻ったことを悟られないようにしつつ、結達を助けるチャンスを伺おう。


そう考えてすぐ、俺は再び洗脳されないように対策を考えた。

あの時、結の連れに叩かれた時に正気に戻った。多分強い痛みがあれば、正気を保てる。

けど、鶴木の前で何度も顔を叩くわけにはいかない。バレないように、自分に痛みを与える必要がある。

最初はナイフを足に刺すことを考えたが、出血でバレかねない。

その時ふと、文具店の商品が目に入る。…画鋲なら、小さいし目立たない。

とりあえず太ももに数本刺した。動くたびに多少痛む。…効果があるかわからないが、あることを祈ろう。


結達が捕まって数時間後、鶴木が楽しそうに何かを運んでいる。

近づいて見てみると、調理器具と保管用の容器が載せられていた。


「鶴木さん、これは?」

「ん?あ〜君ならいいか。ほら捕まえてきた子、どんな怪我を負っても再生するでしょ?だからね…削ぎ落として食料にしようと思ってね。」

「…は、え…」


何を言っているのか本当に理解できなかった。

まさかそんなことを本気で言っているとは思えない。流石に冗談だろう。

…そんな考えは、彼女の顔を見て吹き飛んだ。

とても嬉しそうに俺を見ている。時折、恍惚とした表情で刃物を手に取り薄く笑っているのがとても不気味に感じた。


「そ、そ…れは…あいつを、切り刻んで食べるってことですか?」

「そういうことになるね。でもしょうがないのよ…ここのみんなが餓死しないためにこうするしかないの…わかってくれるよね?」

「…はい。」

「よかった!そうだ、君にも後で手伝ってもらおうかな。後で連絡するから、それじゃ。」


鶴木が去っていくのを見送った後、近くの壁を殴った。あいつのように、砕けることもなくただ手が痛かった。

…今一瞬、彼女が言っていることが正しいと思ってしまった。

すぐに足の画鋲を捻ったからか、もしくは手の痛みのおかげか、今はまともに考えられる。人を切って食べるなんて、どう考えても異常だ。


今すぐ止めに行きたい。けどそれをすれば間違いなく殺される。

シェルターにいる奴には、やることがないからか四六時中起きている奴等が何人かいる。そいつらに見つからずに、結を連れ出すのは難しい。

それに運よく抜けられたとしても入り口で止められる。それに、出た後どうする?

ダメだ。どうしても、結を助けてここから逃げるイメージが湧かない。

…今はまだ動けない。結局、自分に出せた結論はこれだけだった。


何もできずに朝を迎える。

その日は、今まで少ししか出なかった肉が大量に配られた。

周りの人は何も知らないのか、普通に食べている。…それの正体に思い当たる俺は、手をつけずに近くのやつに全て渡した。

これだけの肉を食べれるのは久しぶりだからか、みんなはしゃいで湧き上がっている。

俺はその光景を見て、ただただ吐き気を覚えるだけだった。


誰かが肉を食うたび、結の顔が浮かぶ。必死に俺に助けを求める声が聞こえる気がして、耳を塞いで目を閉じた。

あの肉はきっと保管してあったものだ。俺の想像している物なんかじゃない。そう自分に言い聞かせ続ける。

肉の味や食感を話すたび、パズルを埋めるようにその肉の正体が脳裏に浮かぶ。

…ダメだ、これ以上ここにいたらおかしくなる。

おもむろに立ち上がり、出て行こうとした時だ。鶴木から連絡が来た。

指定した場所に来て欲しいと。








指定された場所は初めてくる所だった。

2階にあるお店。置いてあるものからして、音楽関係の店のようだ。

どうしてこんな所にと疑問に思っていると、鶴木が現れ奥に案内される。

頑丈そうな扉。どうやら防音室のようだ。だがそれ以外に気になることがある。

取手や床に黒い汚れが付いている。それに何か鉄っぽい匂いがして、鼻を覆いたくなる。

…嫌な予感がする。


「さ、入って?」


笑顔で促す彼女。生唾を飲み込み、震える手で取っ手を回した。


そこにあった光景は、俺が招いたもの。

鎖に繋がれ項垂れる結。乾いた血が全身に付着しており、オレンジの髪がところどころ黒ずんでいる。

体についている乾いた血には、切れ目のようなものが入っているのをみると、何度も切り取られては再生させられたんだと思わせる。

垂れた前髪の先にある視界は、ただ地面を見つめ続けていて光を灯していない。

床には水たまりの様に血が溜まっており、稀にピンク色の臓器のようなものが落ちている。そこに投げ捨てられたように、寝かされている子がいる。


すぐに結に走り寄って、鎖を外そうとしたが外れない。ボルトで締められているため、手で外すのは不可能だ。

工具を取りに行こうとしたところで、鶴木がいたことを思い出した。

しまった。俺は洗脳されているのに、今の行動は不自然だ。

微笑みながら近づいてくる彼女を前に、冷や汗が流れる。


「ねえ、真壁君?」

「は、はい。なんですか?」

「…まあいいわ。あなたには、ここの掃除をお願いしたいの。お願いできるかしら?」

「っ…わかりました。任せてください。」

「ええ、頼りにしてるわ。それじゃあ、終わったら連絡してね。」


そう言って俺の肩を撫でながら出ていく。

扉がしめられると、室内の物のせいでとんでもない悪臭が漂い始める。

…ひとまず何から始めるか…そうぼんやり考え、掃除を始めようとモップを手にとる。


「っ!馬鹿か俺は!」


思いっきり顔面を叩く。危なかった。また、洗脳されかけていた。

こんな惨状を前に、平然と掃除しようなんておかしいだろ。

道具をほったらかし、彼女達の安否を確認する。


…ひとまず2人とも息はある。床の子は声をかけて、ゆすっても反応しない。目は開いているのに、魂がない人形のようだ。一体何をされたらこんなふうになるのか…

その子の顔を拭き、壁にもたれかからせておく。さて…


「…結。なあ、大丈夫か?」


声をかけつつ、肩に触れる。

瞬間飛び跳ねるように仰け反った。そして、赤子のように泣き叫び始めた。


「ひぃっ!いや!やめてください!もう嫌なんです!いや、いやぁああああああああああ!!!!」


目から大粒の涙をこぼし、錯乱している。拘束具が擦れて、血が滲んでいる。

光のない瞳は、絶望で埋め尽くされているからだろうか。俺を見ているはずなのに、誰だかわかっていない。


「ちょ、おいっ落ち着け!」

「あああああぁああああ!!!いやあああああ!!」

「わかった!離れる!ほら、何もしない!」


…沸々と怒りが込み上げてくる。結をよくもこんなめに合わせやがったな…!

鶴木が出ていってよかった。もしこの場にいたら、締め殺していた。けど、必ずそうしてやる…

しばらくそうやって悶々としていたが、あることを考えた時怒りが止まった。


…そもそも、こうなった原因は…誰のせいでこうなったんだ?

それはもちろん鶴木のせいだろう。…でも、本当にそれだけか?

確かに、鶴木に洗脳されておかしな行動はしていた。最初は、結から離れて自分にできることを増やそうと思っていた。そうすれば、結果的に結を助けられると思って。

それなのに、ただ流されて仲間を裏切ったのは誰だ?こうなった原因は…俺にもあるんじゃないか?


だって、結を捕まえた時だって、俺は正気だった。あの時鶴木を殺して、2人を連れて逃げることだってできたはずだ。

けど、そうしなかった。…いや、できなかった。どうしたらいいかわからず、迷ってしまった。

つまり、今回のことは…いや、今までだって俺は助けられるばかりで、いつも足を引っ張ってばかりだ。

…決めた。今夜、2人を連れて逃げよう。それが、俺にできる唯一の罪滅ぼしだ。


「どう?進んでいるかしら?」

「っ!鶴木…さん。すみません、あんまりですね。」

「みたいね。ん〜やっぱり、場所が悪いのかしら。けど、他に防音の設備がある場所ないのよね。」

「いっそ辞めればいいじゃねえか…」

「?何か言った?」

「いえ、何も。…まだかかりますので、終わったら連絡しますよ。」

「わかったわ。でもその前に…せっかくだから、あなたにも経験してもらうと思ってね。」


そう言ってナイフを取り出す。それを見て、心臓が飛び跳ねる。…彼女の視線の先には、泣き叫ぶ結がいる。

やめろと、叫びたい。けど今はまだできない。ここで止めたら、脱出の機会はもうない。

…ちょっと待て。さっきこいつなんて言った?……あなたにも、経験してもらうって…


「はい、どうぞ。」

「…な…にを…」

「?何って、あいつの肉を切るんだよ。私がいない時には、誰かにやってもらわないといけないから。」

「…………」

「できるよね?」

「……っ……でき…ます…」


…心を殺せ。これはこの場を乗り切りために、仕方なくやることだ。そう自分に言い聞かせろ。

ただ、ナイフで切るだけだ。料理をすると思いこめ。

俺だってやりたくない。これはお前を助けるために必要なことなんだ。…そのはずなんだ。

だから…


「ああ…いやぁ…お願いします…やめてよぉ…」


頼むから、そんな目で俺を見ないでくれ…








その日の夜。消灯間際に、防音室に忍び込んだ。

手枷を外すための工具を探そうとしたが、あまり派手に動くと報告されかねない。

なんとかペンチを入手できたから、これで試してみるしかない。


扉を開け、悪臭のする室内へ。

灯りをつけず、Gフォンの画面の明かりで作業する。

手枷をなんとか外そうとするが、うまくいかない。血糊がついている為か、工具が滑る。

落ち着け…焦るな。まだ時間はある。


何度も何度も試すが、うまくいかない。

…ダメだ。持ってきた工具が安物だからか?それとも、専用のものじゃないとダメなのか?

もういっそ、鎖を切ろう。そう思い、別の工具を取りに行こうとした時だ。


「!誰かきた…」


誰かの足音が聞こえる。

急いで、扉を閉め部屋の角に縮こまる。

しばらくすると、誰かが部屋に入ってきた。


「くっさ!…クソ!鶴木さんの頼みじゃなかったら、絶対キレてるぞ…」


どうやら鶴木ではないようだ。


「えっと…ああそこにいたか。へへ、前は逃げられたからな。今度こそ俺らのおもちゃにさせて貰うぜ。」

「………」

「あん?随分静かになったな…ま、使えればなんでもいいか。俺以外にも、お前を使いたいってやつがいるだろうし、楽しみだぁ。」

「っクソが!」

「あん?がぁっ!」


しまった。思わず、殴っちまった。あまりにも下衆な考えに腹が立ってしまった。

どうやらこいつは、結のツレを連れて行こうとしていたようだ。連れて行かれた先で何をされるかは、考えたくない。

…どうする。こいつ殺しておくか?結を助ける作業中に起きられても面倒だ。

そう考えていると、不意に後ろで扉が開いた。


「おい、いつまでかかってんだ。って真壁?何やってんだ。」

「っ…ああ、俺も鶴木さんに頼まれてきたんだけどよ、こいつが転んじまって…」

「はあ?まじかよ、ダッセーな。おい起きろー。」


まずいまずい!このまま起こされたら、俺が殴ったのがバレる!

なんとかこの場を切り抜けるには…


「ん…ああ、いって…」

「何やってんだよお前。」


…扉は閉まってる。外に音が漏れることはない。

俺は、背後から2人の頭を撃ち抜いた。声をあげることもなく、地面に倒れ込む。

もう時間がない。こいつら以外にも、ここに来る可能性がある。すぐにここから離れないと!


だけど、結の拘束が外せない。拳銃で鎖を撃っても、壊すことができない。

かといって、今から道具を取りに行く余裕なんてない。


「…悪い、結。必ず助けに戻るから…だから、少しだけ待っててくれ。」


聞こえていないとわかっていても、そう伝えたかった。絶対にまた助けに戻る。

俺は結の仲間の女の子を抱え、部屋を出る。こいつをこのまま置いていくと、どんな目に遭うかわかったもんじゃない。

基地から出たら、舞のところに行こう。そこなら、この子も安心できるだろう。


「待って…」

「っ!」


振り返りそうになるが、バタバタと聞こえる足音で思いなおす。


「…置いて行かないで……たす…けてよぉ…」


…その声を幻聴だと割り切り、駆け出す。

なぜか、何人かがおかしな行動をしてたのが気になったが、無視して出口へと向かう。

入り口の奴らに止められるが、死体を捨てにいくと言ったら通してくれた。…やっと出れた…

けど、このまま立ち止まっている待っている場合じゃない。すぐに舞がいる場所へと向かった。


…その道中ずっと、結が俺に助けを求めている声が聞こえた気がした。

…本当に…すまない…

新しいキーボードを買ったら、まさかの初期不良…


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