2-36.作戦
「ーーーそれで、その子をおぶって逃げてきたんだ。俺の話は以上だ。…結果的に結を見捨ててきたんだ。本当にすまない…」
「……」
どう声をかけてあげればいいかわからない。
話を聞いた限りでは、その場でできることを精一杯やっている。だから、彼を悪く言うつもりは全くなかった。
けどそれは、周りがそう思っているだけ。
話すたびに辛そうで、今にも泣き出しそうだった。きっと、彼自身は責められるべきだと思っているのかもしれない。
だから、大変だったね、気にしないで、あなたのせいじゃない。そんな同情の言葉を彼は求めてない。
そんなふうに考えていると、未道さんが話し出す。
「真壁さん。」
「…なんだ?」
「ありがとうございます。」
「…え?」
お礼を言われるとは思ってなかったのだろう。深々と頭を下げる彼を前に、困惑している。
「真那を助けてくれたことです。本当にありがとうございます。」
「結果的にそうなっただけだ。だから礼なんて…」
「だとしてもです。あなたのおかげで彼女は戻ってこれました。だから、ありがとうございます。」
「…好きにしてくれ。」
そう言って、トイレに閉じこもってしまった。
やっぱり、結さんを置いてきてしまったことを相当気にしているようだ。
筒裏さんを助けれることができたのに、罪悪感でいっぱいだ。
でも、きっとこれで良かったんだと思う。彼がどう思っていても、筒裏さんを助けたことは正しいことだと思うから。
けれど、まだ全てが解決した訳じゃない。
「…これからどうしましょう。」
思わずそう口からこぼれた。そう、まだ結さんは捕まったままだ。それに、今も危険な状態かもしれない。
今すぐにでも助けに行きたけれど、わたしだけじゃ無理だ。
それに筒裏さんが無事だった以上、未道さんはがこれ以上協力する理由がない。元々彼は、結さんを助けることにひゃ反対だったのだから。
そう思ったら言わずにいられなかった。彼がどうするのか、無意識に確認したかったのかもしれない。
「もちろん、結さんを助けに行きます。」
そう言われて安心した。少しでも多い方が、助けられる確率も高くなる。
けど、どうやって助けに行くのか…その問題が残っている。
たくさんの人がいるところから、どうやって助ければいいのだろう。
「…そういえば、作戦があるって言ってましたよね?」
「ええ。そうですね、大雑把に説明するとーーー」
どんな作戦なのか、期待して彼の言葉を待つ。
この人数で結さんを助け出す方法。一体、どんなものなのだろう?
…彼から出てきた言葉を聞いて、わたしは自分の耳を疑った。
「鶴木のシェルターを爆破します。」
笑顔でとんでもないことを言われたような気がする。
驚きすぎて内容がとんでしまった。
「えっと、ごめんなさい。もう一度言ってもらえますか?」
「爆破します。鶴木のシェルターを。」
「えぇ!?本気ですか?!」
聞き間違いだと思ったが、どうやらそうではないようだ。
爆破。鶴木さんのところに、爆弾でも投げ込むのだろうか?
でもそんなことをすれば、最悪の場合生き埋めになってしまうかもしれない。
そんなことになったら、助けるどころではない。
明確なイメージがわかず、混乱していると、未道さんが話し始めた。
「作戦の内容ですが、まず鶴木を連れ出します。シェルターの人たちは、鶴木に依存しているので、彼女がいなければ不測の事態に対応できない。呼び出しに関しては、僕が連絡すればおそらく釣れるはずです。」
「どうしてですか?あちらも警戒しているのですから、応じてくれないのでは…」
「大丈夫です。僕が鶴木に救援を求めれば、十中八九誘いに乗ってきます。」
「そうなんですか?」
「ええ。元々彼女は、支配欲が強い。能力を使って人を洗脳し、自分の思い通りになる場所を作るほどです。そして、その場所はほぼ完成している…そんな時に、切羽詰まった態度で連絡すれば、舞い上がって頼みを聞いてくれるでしょう。」
確かに。思い返してみれば、彼女が作ったシェルターは、ある意味彼女のための場所だ。
あそこにいる人達に命令して、自分は高みの見物をする。
そんな場所を維持するために、結さんを連れて行って、そして……その先は考えたくない。
「そして彼女がいない隙に、1階と3階の入り口を爆破して崩します。」
「?どうして2階を残すんですか?」
「そうすれば、上から狙うことができます。銃を撃つにしても、同じ位置や下から撃つよりも、上から撃った方が当たりやすくなります。それに、相手の行動も把握し易いですから。」
「なるほど…」
「そして混乱に乗じて、2階から出てくる人達を…殺していきます。雨宮さんに頼んで、火炎瓶も用意してもらいましたのでそれも使っていきます。」
「……」
「…申し訳ないですが、これは仕方ないことです。敵対しているからには、無傷でとは…」
「分かっています…」
…結さんを助けるためには避けては通れない。いや、いつかはやらなければいけなかった。
誰かを殺す。そう考えるだけで、ゾッとして気分が悪くなる。殺人なんて、自分には一生縁のないことだと思っていた。
けど、ここではそうしないと生き残れない。…そして、今わたしが生き残れているのは、それを代わりにやってくれていた人がいたからだ。
今までみたいに、守られるだけじゃいけない。誰かを傷つけてでも、助けたい人がいる。だから…
「大丈夫です。覚悟はできてます。」
俯かず、前を見てそう答えよう。
少しでも、彼女の隣に立てるように。
「そこまで気負う必要はないですよ。何も、全員を殺す必要はありません。睡眠ガスも用意してもらったので、籠城を始めたらそれを使いますから。」
「そうでしたか。それで、眠っている間に結さんを助けるんですね?」
「はい。…後は、脱出に必要な人数を殺害し、このフロアから逃げるだけです。」
「…分りました。…そういえば、呼び出した鶴木さんはどうするんですか?」
「動けないように痛めつけるか、最悪死んでもらいます。」
「…あまり言いたくないですが、そうなっても仕方ないと思います。」
「僕もそう思いますよ。彼女は少し、やり過ぎた…」
わたしもそう思う。彼女のせいで亡くなった人は、きっと何人もいる。
自分の私欲のために、他人を洗脳するなんて間違ってる。それに、わたしの友達に酷いことをしているのは許せそうにない。
…けれど、最初からそうだったんだろうか。
初めのうちは、純粋に周りの人を助けていたのかもしれない。もしそうだとしたら、彼女も被害者なのかもしれない。
…やめよう。これ以上考えると、きっと撃つことができなくなってしまう。今は、結さんを助けるとだけを考えよう。
「さて、雪原さん。あなたにお願いがあります。」
「?何でしょう?」
「…鶴木を呼び出した後、彼女を足止めし…行動できないようにする、つまり戦って倒すか殺す必要がある。」
確かに。呼び出しても、大き音を立てれば戻ってしまう。
そうなれば作戦はうまくいかない。けど、誰が彼女の足止めを…
「その役を…あなたにお願いしたいです。」
「……ふぇ?」
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