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第21話 王子様はゲームの世界に憧れる

 僕が能力に目覚め始めたのは10年ほど前だった。最初はこの人間が魔法を扱えない世界でちょっとした魔法が使える程度だったけど、大きくなるにつれてどんどん色んなことが出来るようになっていったし、今では俗に言うチート持ちと言っても良いくらいになっていた。そして今はこのセルリタの世界で最強かつ最も神に近い存在となっていた。そんな僕にとってこの世界にあるものは全て自由に出来るおもちゃの様なもの。おもちゃは持ち主が遊んであげないと存在価値が無くなって可愛そうだよね。


「殿下、失礼します」


「将軍だね、入っていいよ。どう? この世界の『浄化』は進んでる?」


「はい、殿下の指示があった村や町に関しては問題なく浄化が進んでおります。また民たちへの『教育』も進んでおります。既に元ラトイアの町はフィクロの町として生まれ変わり、理想の牧場にて教育済みの住人も所定の位置に配置しております。また元々何も無かった場所に関しても現在建築が進んでおり、そう遠くないうちに良い報告が出来ると思います」


「おお、よくやったね。その調子でこの後も頼むよ。王都から近かくてちょうどよかったから理想の牧場に変えたあの元何とかって村も、役目を終えたら本来の場所に戻すからそのつもりでいてね。人手が足りないようなら僕の方で用意するから」


「ありがたきお言葉」


「もう下がっていいよー」


 将軍の報告を聞いた後は、いつものように僕は美味しいものを食べながらゲーム三昧の日々を再開する。コウイチ達が遊んでいた『セルリタの勇者』は何回やっても飽きないし、何回やっても感動する。コウイチ達以外にも勇者として召喚してみたい人たちと出会ったから、今度召喚してみようかな。それにしても偶然同じセルリタという名前なのに、どうしてゲームの中とこの世界では村や町の配置が違ったり、そしてなにより魔王や魔族が世界征服しようとしなくて大人しかったんだろう。


「あーあ、この世界が最初からゲームの通りだったら村や町を正しい位置に作り直したり、コウイチ達の記憶を改ざんする必要もなかったのになぁ」


 向こうの世界のゲームの中に入り込めた時、ノリと勢いでコウイチ達を勇者として召喚しちゃったけど、ゲームの中と実際の異世界に違いがあるとがっかりさせちゃいそうなので、この世界を正常な状態にするまでは、セルリタの勇者というタイトルを思い出せないようにしてあげていた。彼らにあげた馬車はしばらく魔王城には行かないようになってるから、その間にゲームの世界を完璧に再現するためには邪魔だったり間違ってる村や町を正しく浄化してあげないと。


「あーあ早く勇者が魔王を頑張って倒すところを生で見たいなぁ。あんなクソザコ魔王じゃなくて、チート持ちのコウイチ達が戦っていい勝負になるような魔王を作らないとね」


 僕はゲームを切り上げ、理想の世界のための作業をするべく城の地下にある秘密の実験室へと向かうことにした。誰も入れないようちゃんと鍵をかけているけど、そもそもこの国にいる人間は全て僕の命令を忠実に守り、必要なこと以外見えなくなるように魔法をかけてあるから、決められたこと以外は出来ないようになっていて何の心配もないんだけど。


「今日は何をしようかなー?」


 檻がたくさん並んでいる秘密の実験室で、僕は鼻歌を歌いながら今日のメニューを考えていた。殺した魔王の死体を活用して作成中の新しい魔王は、コウイチ達と互角になるように改造途中で触れない状況だし、人間を魔族にするのはもう慣れたし飽きてきたので、今日は久々に合成をすることにした。


「そう言えばクソザコ魔王討伐に行く途中で出会ったアイツはどうしてるんだろう? 大事な仲間が無残に死んだり、醜くて弱い魔族に変えられて凄いショックだろうなぁ。顔を見ているだけでもイライラするやつだったから、本人じゃなくて周りから痛めつけたけど、流石に可愛そうだったかな」


 アイツの絶望に満ちた顔は思い出すだけでもなんだか自然と笑えてくる。今日はとても気分が良いので、昨日城下町から適当に連れてきたばかりの女を実験台とすることにした。最初のうちはなんだか緊張して人間魔族どちらとも男ばかりを使っていたけど、アイツの仲間にいたハーピィの死体を運んだ時からあまり緊張しなくなっていた。僕も少し大人になったかもしれない。


「こんにちは……。ねぇ返事は? こんにちは!」


「……」


「あぁ、こいつ寝てるの? 僕がわざわざ話しかけてるのに!?」


 女を捕らえておいた檻に向かって声をかけたけど返事がないので奥の方を見ると、女はうずくまり寝ているようだった。魔法をかけていても疲れのせいか寝てしまうことがあるんだなと思いつつも、目上の人間に対して礼儀がなっていないやつは何より嫌いなので、この女は魔法を解いて正気に戻してから合成することにした。


「はい。君にかけていた魔法を解いたよ? 気分はどう?」


「えっ!? アーカス王子がなんでここに!? それにここはどこなんですか?」


「ここは僕の秘密の実験室。君は今から魔族と合成させられます」


「合体? 一体何のこと? い……いやぁあああ!」


「あーあ見ちゃったね。君の周りにある檻の中に入っているのは皆僕の作品だよ。ベースは人間だけど魔族と合体させれば強い魔力を持つようになるんだよ。失敗しなければだけどね」


「なんで!? どうして!? 私もこうなるの!? やめてお願い! 助けてください!」


「僕の特にならないことなんてしないよー。君の合成相手はあっちの檻にいるオスのオークがいいかもね。君せっかく美人なのにオークと合成しちゃったらどんなに風になっちゃうんだろうね? もし失敗して死んじゃっても大丈夫だよ。僕が育ててる超強い魔族のエサになるだけだから!」


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 思いの外興味深かった実験を終えた頃、すっかり夜になっていたので理想のために頑張る良い子の僕は、もう寝ることにした。小さい頃からたまに見る悪夢は怖いけど、大好きな母上が一緒ならなんだか大丈夫だと思うことが出来るので、僕は母上の部屋へ行くことにした。


「ねぇ母上? 今日は一緒に寝てもいい?」


「ええもちろんよアーカス。今日は一緒に寝ましょうね」


「ありがとう!」


 僕は母上と同じベッドへ入り、母上に抱かれながら眠ることにした。疲れが溜まっていたのか直ぐに瞼が重くなってきた。もう少しで寝られそうだという時に、僕は急に母上から突き飛ばされた。


「あなた何者よぉ!? 私の息子を……アーカスを返しなさいよ!」


「あーあ、せっかく後少しで寝られそうって時に魔法が解けるなんて。もっと強く魔法をかけてあげないとね」


 おかしくなってしまった母上に強めの魔法をかけると大人しく言うことを聞いてくれるようになってくれた。僕の能力が目覚め始めて、色々能力を使うようになった頃から、母上と父上は僕の事を僕だと認識してくれなくなっていった。だから真っ先に僕の言うとおりにさせる魔法を覚えて、それ以来魔法が解ける度にかけなおしている。寝る前に水を差されたせいか、その日はいつもの悪夢を見てしまった。誰なのかはわからないけど、大好きな誰かを取られ一人真っ暗な闇の中で泣き続ける夢。そして最近は目覚める前に必ず『もうやめて!』と女の声が聞こえてくる。チート持ちの優秀な僕でも、一体何をやめれば良いのかまではわからなかった。

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