第20話 そして茜色に染まる
眠っていた兵士を全員ファイスさんの臭いで目覚めさせたところ、兵士全員の洗脳が解けていた。皆が落ち着いた後、ここがハーニルの町であることと、こちらの事情を簡単に話しつつ兵士たちからも詳しい話を聞くことにした。
「アーカス殿下が魔王を!? そんな馬鹿な! 俺達は王都で魔族が暴れだしたところを殿下に助けてもらったんだぞ!」
「王都で魔族が?」
「ああ、アーカス殿下がある時城の兵士たちを連れて王都を出てしばらくした後、急に王都にいる魔族達が暴れ始めたんだ。中には見たことない強力な魔族も存在していて、王都は大混乱に陥り死傷者もたくさん出た。そんな中外出していた殿下が知らせを聞きつけたのか慌てて王都に戻り、強力な魔法を使い魔族達を倒したんだ」
「王都がそんなことになっていたなんて……」
「その後殿下は生き残った人達を集めて広場で演説をしたんだ。魔王が本性を表して世界を征服しようとしていて、それにより魔族が暴走を始めて人間を襲い始めているって言ってたな。実際王都では魔族が暴れ出していたわけだから、信じる他ない状況だよな。後は魔王討伐のために異世界から勇者を呼んだって言ってたな」
演説の中でアーカス自身が魔王様を殺したのにも関わらず、魔王様が生きていることを前提で話している部分に凄い違和感を感じた。そもそもコウイチ達が討伐するよりも先に魔王様を倒していること自体もおかしい。
「でもアーカス殿下が勇者の話をした後のことはここで目が覚めるまで記憶がないんだ。我々兵士は洗脳? されていたらしいが、どんな状況だったんだ?」
「『人間は理想の牧場へ連れて行き、町は壊す』と言いながらこの町の住人を捕まえたり家を破壊しようとしていました」
「そんな馬鹿なこと! と言いたいところだが、この町の荒れ具合を見るに信じるしか無いようだな。それに理想の牧場という言葉には全く覚えがないな。何もわからなくて、そして記憶がないとは言え町を壊してしまい申し訳なかった」
「あんたらは誰も悪くないよ」
「君はコボルトだよね? 先程のゾンビといい私達を襲ったりはしないのか?」
「そんなことしないさ。このペンダントがある限りは魔力のコントロールも出来るみたいだし大丈夫さ」
「ペンダント? もしよかったらその辺りの話も詳しく聞かせてくれないか?」
この町にいる人たちには諸々の事情を説明しなければと思い、兵士たちや住人も全員広場に集めて、今までのことを全て話した。
「君たちの話が本当だとしたら、今この世界の混乱の元凶は魔王ではなく、アーカス殿下と勇者を名乗る三人組ということなのか。そして目的はわからないが我ら兵士を洗脳しこの町を破壊させようとしていたと。なぜこの平和な世界を壊そうとするのか我々にはわからないな」
「私らみたいな庶民にも話が大きすぎて何がなんだかって感じだね。ただ魔族の皆が急に暴れだしたのも、兵士達が何かに操られているようにこの町を壊そうとしたのもこの目で見ているからね。そこは信じるしか無いね」
話をしたあとは皆信じられないと言った様子でしばらく広場はざわついていた。ただ、目の前で起きたことに関しては皆信じるしか無いと言った様子で、真剣に話を聞いてくれていた。今のハーニルの町長と兵士長が周りの人たちと話をした後俺達の所に来た。
「我々兵士は君たちの話を聞いて、皆現状は理解した。だがそうすると我々が王都に戻るのはまた洗脳される可能性があり危険だな。今日出会ったばかりの君たちよりも殿下を信じたい気持ちはあるものの、不安は拭いきれないな。これからどうするべきか……」
「兵士さんたちさえ良ければこの町にしばらくの間住まないかい? このくらいの人数ならこの町で寝泊まりできる場所は用意できるよ。私達としても兵士さん達がいてくれるなら安心だしね」
「それはありがたい提案だ! お言葉に甘えさせてもらおう。その代わり我々兵士はこの町の住人たちを全力で守ることをここに誓おう!」
兵士たちがこの町にしばらくの間滞在することが決まり、町長と兵士長が固い握手を交わした。
「あたしらも一緒にこの町を守り続けるよ!」
二人の握手にコトとオルバも加わった。いつの間にか町中が茜色に染まり始めている中、夕日の眩しい光が四人を照らしていた。ハーニルの町の調査が終わり、町の人たちから食料や道具、移動手段として馬も分けてもらうこともできたので、俺達は町の宿屋に泊めてもらい、明日の朝ラクスベルクへ戻ることになった。もしまた兵士が来た時のために、ファイスさんの血をビンに詰めてハーフエルフの彼女『キャロル』さんに渡した。
「色々あったけど、とりあえずはひと安心だね」
「そうね、今度また兵士たちが来たとしても、洗脳を解く方法がわかっているから大丈夫よね」
「今回はファイスさんに助けられっぱなしだったね。本当にありがとう!」
「ウォオウ!」
俺達はお互い少し話をした後、それぞれの用意された部屋へ戻った。
「今日は疲れたねアレン兄さん」
「チュウ!」
「そろそろ寝ようか」
部屋の明かりを消して目を瞑ると、疲労感と睡魔が一気に襲ってきた。
「お……きて」
「ん……?」
「起きて!」
「誰!?」
眠る寸前で耳元から起きてという声が聞こえてきて俺は慌てて目を覚ました。辺りを見回しても俺とアレン兄さん以外は誰も部屋にいないので、どこから聞こえてきた声なのかわからなかった。一気に眠気が覚めてしまったので、外の空気に当たろうとして部屋の窓に近づくと、昼間の火事とは比べ物にならないほどの激しい炎が、町の入り口付近から上がっているのが分かった。俺の眠気は完全に覚めて考える間もなく部屋を飛び出していた。
「起きて! 今町の入り口の方で凄い火事が起こっているよ!」
「ラルフ……? どうしたの?」
「アオイ! 外を見て! 町の入り口の方でまた火事が!」
宿屋にいる全員や周辺の家、兵士たちにも声をかけつつ、俺達は町の入り口の方へ向かった。そこには異様なほど大きい鎧を身にまとった大勢の兵士たちがいて、魔法を使い家を破壊していた。住人たちは辛うじて逃げていたものの、就寝中だったこともあり火傷を負っている人がたくさんいた。
「どうして人間なのに魔法が使えるんだ!?」
「そんなはずは! 王都の兵士は皆人間で、魔法を使えるものなんて一人もいないはず!」
「とにかくなんとかしないと! キャロルさんまた魔法をお願い!」
「わかったわ。「高ぶる者たちに一時の休息を! 安らぎの霧」
キャロルさんが魔法を唱え辺りが霧に包まれた。火事の勢いは収まったものの、兵士たちは全く落ち着く様子がなく、ところ構わず魔法を放ち破壊活動を続けていた。
「なんで私の魔法が効かないの!? 人間相手なら聞くはずなのに……。まさか!?」
破壊活動を続けていた兵士たちがこちらを向き、おもむろにその大きな鎧を脱ぎ始めた。
「えっ……。どういうこと……?」
鎧を脱いだ彼らは、無数の触手が身体から伸びている者や棘が生えている者、中には肩や腹の辺りに牙の生えた大きな口がある者等、人間とも魔族とも言えない異様な姿をした者達ばかりだった。あまりの不気味な光景に俺達はしばらくその場から動くことが出来なかった。
「マチヲコワス! ジャマスルヤツラコロス!」
兵士の内の一人が人間とは思えない異様な声で叫ぶと、周りの兵士たちもそれに呼応するように同じ言葉を発しながらこちらに向かってきた。
「これはもうあたしらにどうこうできる相手じゃないよ! こりゃとにかく逃げるしか無いよ!」
「ああ、ここは危ない。皆とにかく町の外まで逃げるぞ!」
コトとオルバの声で我に返った俺達は、皆町の外まで全力で逃げた。暗闇の中途中で転んでしまう人もいたものの、なぜか兵士たちはそこまで真剣に追っては来なかった。ただ、町の中にいようとする者には容赦なく襲いかかろうとしていた。俺達はどうすることも出来ず町の外に逃げてきた。
「なんで、なんでアーカスはこんなことをするんだろう……」
俺達含めた町の人々は、炎で激しく燃え茜色に染まる町をただただ見つめるしか出来なかった。




