092 終焉の口づけ
あらすじ:
最終決戦?
神域の方もたまには思い出してあげてください。
「クソッ、あの化け物。ここまで力を残してたのか。来るぞドーラ!」
「分かってる。教皇様の道を開くぞダルシェン!」
ダルシェンさんと寅井くんがデミディーヴァの前に向かってそれぞれの武器を構えた。魔力が集束されてふたりの武器が光り輝く。それはアーツが発動する光であった。
「アーツ・ゴッドジャッジメント!」
「アーツ・ゴルディアスハンマー!」
おお、あのデミディーヴァの周りで渦巻く黒いオーラをふたりのアーツが削っていく。黒い触手も何もかもを吹き飛ばしていく。
『小賢しい。だが所詮勇者は勇者。ひとりでもふたりでも、仲間の助けなしではその程度よな!』
「クッ」
「ここまでかよ!?」
おおっと、どちらもカウンターの触手を受けて弾き飛ばされたか。いきなり大技を放ったんだ。そりゃあ隙もできるわな。けど、それでも正面の黒いオーラがかなり消えた今がチャンスだ。あいつらもダメージ覚悟で仕掛けてくれたんだから、ここからは俺の出番だな。
「神竜の盾、行け!」
俺がサーフィンみたいに掴みに足を引っ掛けて乗っている神竜の盾が走り出した。もちろんセイクリッドブレスを吐き出させながらの突撃だ。正面からの黒いオーラも迫ってくる触手も聖なる炎がみんな焼いてくれる。いや、こいつはほんと便利な盾だよな。
「案の定だ。セイクリッドブレスにゃ弱ぇえな、デミディーヴァさんよぉ!」
『確かにそれは厄介ではあるがな。ならば炎のない場所から当てればいいだけのこと』
触手を出すのか。けどな。こっちにだって雷霆の十字神弓があるんだよ。
「おら、固まってるとまとめて吹き飛ばすぞ」
『チィ』
放った爆発の神矢が真横から迫る触手の塊を消し飛ばす。神矢だからな。神力が込められてんだから当然デミディーヴァにゃ通用する。そんで残りの矢は竜水の聖矢だ。こいつには神竜の盾と同様の何かを感じる。これは多分……
『なんだと!? 竜と化した矢が周囲を守っている? 神竜の腕を持ちし故か!?』
驚いてるな。俺もだよ。けど、分かるぜ。今の竜水の聖矢は神竜の盾と同じく、俺の制御下にあるんだ。俺の意思のままに自在に動かせる。
『我が手が、こうもやすやすと破壊されるだと? 何故出がかりが狙われる? その感知能力はなんだ!?』
馬鹿め。出るところなんざ未来視で見えてんだよ。セイクリッドブレスで前を開け、周囲を竜水の矢で守る。完璧だ。完璧過ぎる戦術じゃないか。そんで、デミディーヴァとの距離もいい加減詰まってきた。となれば……
「教皇様、いけます?」
「ああ、問題ない。ここから先は私の出番だ」
俺の『後ろに』ついてきていた教皇様がそう返すと俺を飛び越え、デミディーヴァに向かって走り出した。教皇様の全身は今、黄金色に輝いている。怒りによって目覚めた例のアレっぽい感じだ。あの帽子を取ったら髪が逆立ちそうなアレだ。
「デミディーヴァよ。ガチャ様の力をその身で受けよ。この世界を破壊する貴様らを我らは許容せぬ」
『愚かしいな、あの女の手先が。貴様らはどちらが世界にとっての裏切りなのかも理解せぬ。摂理に従うならば妾の側にいるのが正しいと言うのに』
「戯言を。神の拳を喰らえ」
教皇様の拳が光った。裾が破れ、腕に腕輪のような光のサークルが生まれて
「ラストアーツ・教皇神拳!」
そのまま腕が千切れて、黄金の炎を噴射しながら飛んでいった? って、おい!? それってリアルロケットパンチ! 生身の腕でロケットパンチじゃねえか!?
『見せたな教皇。最後の手を!』
「滅せよ邪悪!」
周囲の黒いオーラがデミディーヴァの前に集まり、ロケットパンチと激突する。その場を中心に黄金と漆黒のスパークが起きて、凄まじいほどの暴風が吹き荒れ、そして……ついには黄金の光が闇を消し飛ばした。
「やったか?」
あ……寅井くん、言っちゃあならんことを。
『ははははは、凄まじいな教皇。確かに貴様の全てを込めた拳は受け取った。確かに妾に届き得る力だったぞ。本来であればな』
ほら、駄目だ。黒いオーラのほとんどは消滅した。けれど、肝心のデミディーヴァはまだ生きている。ビキビキと血管浮き上がらせているけど、ダメージはなさそうだ。勝ったとばかりに超笑ってる。教皇様の生ロケットパンチは届かなかったんだ。
『もはや妾に勝つ手段は存在せぬ。これで貴様らは……む?』
ま、そりゃあ笑うよな。お前は今のが俺らの最終手段だと思ってたんだもんな。これをしのいだらもう勝ちだって考えてたんだろ。分かるよ。愉悦ってヤツだ。でもな。それ、間違いですから。
『神託者!? 貴様程度が挑むか。愚かしい』
力尽きて倒れる教皇様を抜いて一気に走り出した俺と神竜の盾にデミディーヴァの触手が迫ってくる。けど、問題ない。神竜の盾はこのまま暴れて触手の一部を引きつけといてもらう。デミディーヴァにとっちゃあ脅威なのは俺よりも盾の方だからな。そんで、俺の方に来る触手は右1に左2。この程度なら十分避けられる。
『すべて避けただと!?』
おいおい、驚き過ぎだろ。おっと、正面からも来るか。で、こいつは神罰の牙+竜腕でブン殴る。俺の拳は並みのパンチ力じゃあねえし、攻撃に入る前の触手じゃあ止めらんないぞ。
『むう、またも我が腕が破壊されたか。しかし』
ただの触手じゃ不足と理解したのか、デミディーヴァの両腕に黒いオーラが集まっていく。マジかよ。まだあんな力があったのか。
『さあ、これでくたばるが良い』
これは不味……くはないな。うん。
「アーツ・クリスタルピラー」
後ろから巨大な水晶の柱が飛んできた。こいつはマキシムのアーツだ。あいつ、自分の相手もあるってのにな。
『おぉぉおおおお!?』
デミディーヴァがとっさに左腕で受け止めたが、宿っていた力は相殺されて消失した。これで残りのあいつの手札は右腕のみ。
「行けタカシ!」
マキシムの声が俺の背中を押してくれる。未来視は視えてる。カウンタースキルも発動してる。今ならこのデミディーヴァの顔面にだってカウンターをブチ込めるさ。けど、ここでの最善手は
「あーちゅ・しゅるゔぁーひゃんまー!」
『甘いわぁあ』
右腕同士でぶつけあって相殺するのが正解だ。俺のすべての魔力を竜腕に込めてギリギリだ。だが、これでいい。これで目の前のこいつにはもう『手が』ない。それは恐らく数瞬。攻撃が来ないのは瞬くようなわずかな時間だけだろうがそれで十分だ。
『ハッ、人間風情がよくやったと褒めてやろう。だが、お前の手札ももう……何!?』
そうだな。俺も手はねえ。けど『口が』ある。何せこの距離だ。抱き締めてディープキスするぐらいの余裕はあるってもんだ。はは、なんて顔してやがるデミディーヴァさんよぉ?
『むぐっ!?』
「貴様、ナウラ様にベロチューを!?」
おい、寅井くん。お前が反応するな。舌を入れるのを躊躇しちゃうだろうが。
『痴れ者がっ』
「うがっ!?」
ぎゃふっ、蹴っ飛ばされたぁああああ!?
『わ、妾の唇を奪うとは不敬な。しかもなんじゃ、これは? 口の中に何かを流し込んで? まさか毒殺でも狙うたか?』
いてて。思いっきり蹴りやがって。けど……やったぜ。俺は『完璧にやり遂げた』ぞ。
『小賢しいな人間。妾に毒など……反転をすれば……ぬ、できない? な!?』
驚いてるな。そうだろうさ。そいつはお前にとっては最悪のもんだ。
「おいおい、そりゃ毒じゃねえよ。超ありがたい力だぜ。飲めば元気になること請け合いだ。千切れた腕も生えるし、神様の力だってもらえる」
『これは……あの、女の……力だと? 何を食わせた!?』
「薬草だよ、薬草」
『何をふざけて……ひぐっ!?』
ふざけたわけじゃあないさ。大変だったんだぜ、ここまで段取り組むのはさ。教皇様が飛び出した瞬間に雷霆の十字神弓を戻して神の薬草を出して口に含んで頑張ったわけ。その状態で神罰の牙のアーツが打てるか不安だったけどなんとかなったし、上手く口移しで流し込めるかとも不安だったができた。マキシムとの経験が無意識に体の中に残っていた……ということにしておこう。ともかく、こうして俺は生きていて、あいつの方は……
「ゴッドレア……神の力が備わった薬草だよ。人間には良い感じに利くけどさ。敵対している神様ならどうかね? いやいや、勿体ぶるのは止めておくわ。実は一度デミディーヴァを殺してるんよ。神核石っつったか。アレをきっちり破壊してるんだよなぁ」
『グッ……おぉおおおおお』
「だぁかーらさー。お前は死んで、神の薬草で元気になったナウラさんは帰ってくるってわけだ。つまり、人間風情がぁあ……とか言ってた相手に負けちゃったわけ。バーカバーカ。いやいやホント馬鹿。お前マジ間抜け」
『し、神託者ぁぁあああああああああああ』
わははははは。めっちゃ怒っとるけど知るかボケ。こっちはテメエのせいでチンドラに絡まれたり魔族に襲われたり女になったりマキシムの幼馴染ぶん殴ったりマキシムのお父さんに睨まれたりマキシムに貞操狙われたり散々だったんだぞ。こんぐらい煽ってもバチは当たるまいよ。
そんでナウラさんの体の中をガチャの神様の光が駆け巡っているのが直に見える。周囲を覆っている黒いオーラが内側から消滅して、それにナウラさんの影から黒い結晶が飛び出て砕けて、そして……
「どすこい!」
光り輝く、でっかい女のお相撲さんがそこに誕生していた。
確定情報:ナウラの体型はこのままスモウスタイルで固定されます。




