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宇宙の亡霊 <Birth of the Space Ghost>  作者: 雪道風岬
1章:ラーの夜明け
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1章-最終話:2人の邂逅

「お出ましね……」


縦開きのコクピットが持ち上がり、中からパイロットスーツ姿の人影が現れる。彼女は戦々恐々とそれを見上げるが———。


そのシルエットを捉えて怪訝そうに眉を顰めた。


「……何よ。本当に女性なの?」


低身長のメテラと比べれば大柄だが、体のラインが明らかに女性だ。どんな豪傑が出て来るものかと待ち構えていたため、彼女は拍子抜けする。

先ほど"頭の中に響いた声"は明らかに女性の物だったが、まさか、それが本当にパイロットの声とは思わなかったのだ。


「……」


見上げるメテラと見下ろすパイロット。バイザーでお互いの顔は分からないが、確かにその視線が絡み合う。


そして膠着するのだが———。別に、これは互いに敵意を向け合っている訳ではない。

なぜ膠着しているのかと言うと、パイロットが何の指示も出さず、メテラは指示をもらうまで自由に動くことが出来ないためである。


投降する際は不用意に動いて妙な動きだと捉えられると困るため、投降する側が主体的に動くことはできない。そのため投降先の指示を待つ他ないのだが、肝心の指示がいつまで経っても飛んで来ないのだ。

双方動かず、微妙な時間が過ぎて行く。


「見てないでRAの近接通信で指示を送りなさいよ……」


……そもそもの話、真空空間で向かい合った状態から相手に意思を伝える方法など存在しない。

あいつは何をしているんだと、彼女は面倒臭そうにため息を吐く。


「———」


———そして、パイロットが手を上にやってブンブンと振り始めると本格的に怒りを滲ませた。


「はあっ?手を振っただけじゃ分かんないっての!戻りなさいって!」


ビシッと伸ばした腕をまずはパイロットに向け、そしてその照準をコクピットの中へと指し示す。


『お前はコクピットの中に入れ』


その動きを繰り返すのだが、パイロットが首を捻ったのが遠目からも分かった。


「もうっ!宇宙人は文化も違うって言うの!?」


こっちから通信を繋いであのポンコツパイロットにその旨を伝えたいのだが、自分からコクピットに戻ろうものなら危険行為と見做されてビームでジュッだ。

しかし、このまま膠着状態が続いた挙句に『意思疎通が出来ないし殺しておこう』なんて思われたらたまったもんじゃない。だから動けない。じれったいったらありゃしない。


黙ってパイロットの動向を追うと、彼女は首を下に傾けて何かを思案し始め———


「———!」


そして、パッと勢いよく顔を上げたのだった。何か妙案でも思いついたような様子である。


「な、何?何を思いついたのよ……」


それを見てメテラはたじろぐ。ただでさえ意思疎通が取れない相手だ。どんなアイデアが出てくるのか想像がつかない。

……それに首尾の悪さで天然ちゃんみたいに思っていたが、思い返せばあのパイロットはRAを落とし、船を爆散させ、何100人もの人間を普通に殺している相手だ。


天然ちゃんなどではなく、対人関係の感受性が低いサイコパスなのかもしれない。


「———うあっ!?」


そんな最悪なケースを想定していると、突然彼女の足に巻き付いていたワイヤーが動き始めた。スラスターの制御とワイヤーの引き戻しによってその全身はスルスルと引っ張られ、彼女は目の前の巨大なRAへと引き寄せられて行く。


「何よ……」


何をされるのかと彼女は身構えるが、ワイヤーの動きは非常に優しいものだった。一刻前の四肢が断裂するようなエスコートとは全く違う。


そして、このまま進めばあのパイロットの元に辿り着くと理解できた。別に取って食おうと言う気はなく、ただ近くに引き寄せるためにワイヤーで手繰り寄せているのである。

メテラはホッとするが、同時に相手の危機感のなさに不安を覚えた。


「碌な拘束もせずに敵兵を近づけるなんて。不用心なのか、それとも回避する自信があるのかしら」


軍隊の宇宙服は有事に備えて武器が内蔵されていることが多く、彼女の宇宙服も両手両足のアンカーを武器として利用することが可能だ。

これを利用して奇襲を仕掛けても良いのだが、戦闘時に見せていた相手の実力を思うと普通に回避される恐れがある。白兵戦は最終手段だ。



そのような強硬手段も検討しつつ、どの程度の距離まで近づけるものかと注視していたが……。どんどん近づいて行く。最低でも5mは間合いを取るだろうと思っていたが、そんなこともお構いなしに近づいていく。


———そしてメテラは、コクピットの入り口、つまるところパイロットの目の前に着地したのだった。


「……本当に不用心ね」


ここで撃ち殺す手もあるが、まだ堪える。直感で回避でもされたら堪らない。


そして、ここまで近づいたことで彼女たちはようやくお互いの顔を視認することが出来た。目の前のパイロットを視認したメテラは———その、幼さの残った少女の顔に驚く。


「(……何よ。同い年くらいじゃない)」


身長は違うが、お互いとも高校生ほどに思える。


「……!」


また、メテラはパイロットの少女と一瞬目があったのだが、すぐに逸らされてしまった。少女は腰が引けており、それなりの身長差があると言うのに目線がそれほど変わらない。

かなりの人見知りなんだろうとメテラは推察する。


加えて、少女の赤く膨らんだ瞼は涙で泣き腫らした跡のようにも見える。一刻前の最適かつ容赦のない戦闘を思い出して彼女は困惑するのだった。


「(こんな子があれだけの戦闘を行ったの?……それに、なんか泣いた跡もあるし)」



そんなことを考えながら次のアクションを待っていると、少女は横目でチラチラとメテラのことを見上げながら、ハイタッチするように右手を突き出して来た。


「はぁ?」


謎の行為に対してメテラは一瞬だけ眉を顰めるが、すぐにその意図に気が付く。


「(……ああ、何かと思ったら"手のひら接続"ね。不用心すぎて頭から抜けてたわ)」


手のひら接続とは、一部の宇宙服に搭載されている通信形態である。その名の通り、互いの手のひらを押し付け合うことで通信を可能にするのだ。

適当な端子で互いの服を接続しても同じようなことは可能なのだが、手軽さを追求するついでに家族や恋人同士でやったらなんかエモいよね!……と言う遊び心で作られたシステムでもある。


もちろんその通信を行うためには体が接触するまで接近する必要があり、投降して来た敵兵相手に行うには不用心極まりない。


「ほんと、素人みたいね」


メテラは逡巡する。

手のひらを思いっきり押し付けて、通信のふりをして超至近距離からアンカーをバイザー目掛けて叩き込んでやろうか。


……しかし、武器としての使用が主ではないアンカーがバイザーを貫けるとも限らない。アドリブをするには時期尚早か?



「……あー、はいはい」


———逡巡し、やがて仕方がないと考えて彼女は攻撃を断念した。

表情からも察して余りあるほどおずおずと右手を翳す目の前の少女に対して、ずいっと自らの右手を押し付ける。これで通信は繋がるのだが……何故だろうか。


目の前の少女は、互いの手のひらを押し当てた上で———まるで恋人繋ぎでもするかのように、その指をぎゅっと絡めて来たのである。


「はあっ!?」


あまりに突然のことにメテラの顔が赤らむ。

そして、驚いた彼女は相変わらず独り言を漏らしてしまうのだった。


「馬鹿、握る必要ないでしょ!」

「ひっ!?」



———独り言のつもりだったが、手のひらをくっつけた瞬間に通信は始まっているのだ。彼女の怒鳴り声と少女の悲鳴がこだまし、互いの声によって二人は硬直した。


「(……うわぁ)」


独り言を聞かれてしまったことは恥ずかしいし、完全に目を逸らしてしまった少女相手にどう話を振れば良いのか分からない。

……数分前は生命の危機を気にしていたのに、まさかこんな問題に直面するとは。



「……」


チラっチラっとこちらを振り返り、その度に目が合って目を逸らし……。そんな動作を繰り返す少女を見て、さっさとアンカーを打ち込んでしまおうという考えが頭をよぎるが、なんとか堪える。


……そして、耐えた甲斐があったのだろう。やがて少女はモジモジと指を突っつき合わせながらも言葉を切り出したのだった。


「あの、コクピットに入ってお話ししませんか……?」

「……」


敵兵をコクピットに招き込む不用心さにメテラは絶句するが、どうせ敵である。甘ければ甘いほど良いだろうと結論づけて彼女の好意に従った。


「ありがと、お邪魔するわ」


二人はコクピットの中へと吸い込まれ、その蓋が帷を下ろすように彼女たちの姿を覆い隠して行く。


「(本当、一体何なのかしら)」


冷徹な戦闘マシーンから出てきた、人見知りで、世間知らずで、愚鈍な少女。困惑と苛立ちを煽る彼女の丸まった背中を、メテラは怪訝そうに眺める。

そして———



「(……手、大きかったわね)」


———その幼さと危うさに、どこか心を揺れ動かされながら。


生存を賭けたメテラの奮闘は意外な形で幕切れを迎えるのだった。




———そしてこれは、RAオシリスを巡る初戦が終了した瞬間でもあった。

地球側は秘密基地の発見と言う大きな成果の代わりにオシリスの確保と言う最大の作戦目的を失敗し、ホルス国はオシリスを守ると言う最大の目的を果たした代わりに小惑星基地ラーと多数の研究者、そしてエースパイロットであるアーロン・カリルを失った。

多くの機体と命を散らしながら双方痛み分けに落ち着いたこの戦いは、メテラとアルファラと言う奇妙な二人の邂逅によって一時閉幕を迎えるのだった。

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