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29 恒例のランチタイム

 初日は長蛇の列で少しばかりバタバタしたが、殿下とヘンリー様のおがけで、ケガ人が出ることもなく、無事終えることができた。


 開店から1週間たった今も店の前には列は出来ているが、なんとか落ち着きを取り戻しつつあった。


「エレナーそろそろ行くよ~?」「出れそうかい?」と殿下の声が。


 急いで階段から降りると、優しく手を差し出される。


 そこに手を重ねえると「では、行って来ます!」とスタッフに、殿下が華麗に挨拶し二人で馬車に乗る。


 開店初日終え、身内だけで、ささやかなパーティーを開いた時、お手伝いしてくれた殿下と、ヘンリーさんにお礼を述べると「お礼はいらないから、明日の昼休憩時、一緒にご飯を食べる褒美をくれないかい?」と殿下に懇願されたのだ。


「一回ぐらい、付き合ってやってくれ」ヘンリー様にも言われ、翌日、殿下と一緒にランチに出掛けたのだ。


 1回だけ? の約束が、何故か次の日も、知らないうちに馬車に乗せられて…


 気づけば毎日のように連れられ… 何故そうなった?




───今日はフレンチの店だ。いかにもお高そう~な店構えだ。


「今日はエレナに見せたい物があるんだ」ウキウキした顔でポケットをゴソゴソしている。


 彼の大きな手にスッポリ入った小さな小箱を差し出され「開けてごらん?」と優しい声で小箱をテーブルの上に置かれる。


 少々戸惑っていると、吸いこまれそうな眼差しで凝視される。

 キラキラビームご顕在だ。


 恐る恐る手に取り箱を開けると、殿下の瞳の色と同じぐらいキラキラ輝く空色の小さな石に、ダイヤモンドで周りを囲んだネックレスだ。シンプルな作りだが、とても上質な石だというのは一目瞭然だ。


 突然の出来事に驚き「これは?」とたずねると、

「もっと早く渡すべきだったんだけど、遅くなってごめんね。『トレ・ゾール』開店おめでとう」

「え?」「こんな高価な物頂けません」

「エレナが頑張ったご褒美だよ」

「ダメです。頂けません」

「いや、受け取ってほしい」


 小箱がテーブルの上で行ったり、来たりを繰り返す。


「君に受け取って欲しい!」真っ直ぐ力強い目で私を見る。


 その瞬間、空気が止まった気がした。思わず息を飲む。


 日差しを浴びて光輝く海のような碧い瞳にかかる、長い睫毛がゆっくり閉じられ、一瞬の静寂のあと、殿下が音もなくすっと立ち上がる。


 空気が止まる。


 ゆっくりと私の椅子の横に立ち、彼の長く白い指が私の髪に触れる。


「君のために用意したものだ」「よくがんばったね。エレナ」と言いながら私の背後にまわる。

 胸元に冷やんやりとした感覚が一瞬したかと思うと、うなじに彼の手が触れる。


 息が止まるかと思った瞬間、うなじに、温かく柔らかいものが軽く触れる。


 ほんの一瞬の出来事だった。


「良く似合っている」


 そこには普段と変わらず、至高の笑顔があった。




 その後、次々と料理が運ばれて来たが、まったく料理の味がしなかった。






 そのあと、屋敷に送ってもらったが、食事中や、馬車の中で、彼の話に頷くだけの自分だった。

 何の話をしたのか、まったく覚えていない……









 ───これは、頑張ったご褒美。

 私は「安定した生活さえ送れればそれでいい」

 私は、望んではいけないのだ……



 ベッドのサイドテーブルにある、白い小箱を見つめると、水滴が頬をゆっくり伝うのを感じた。












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