28 姉さん大変です
「大変~~大変だぁあ。どうしましょう」「おじょうさまーぁ」大きな声が二つ。
何事?と、思いベッドから飛び起きる。
大声で叫びながら、バタバタと足音が近づいて来る。
あの声はルーシーとアンね。
ドアを開けると、二人共、息を切らして、目を白黒させている。
「貴女達、ちょっと落ち着きなさいよ。何ごと?」困り顔で私が言うと、二人揃って
「申し訳ございません」45度のお辞儀をする。
『接客5大用語』の賜物ね。と嬉しく思う。そんなことより何ごとだ?
「お嬢様大変です!」二人揃って言う。
息ピッタリね。と内心感心しながら続きを催促する。
「ちょっと落ち着いて。だから何が大変なのよ?」
「人が! 人が!」震えながらルーシーがブツブツ呟く。
「お店の前の道に人が溢れかえっているんです! お嬢様」アンが早口で言う。
「へ?」
「開店時間まで、まだ3時間はあるわよ?」
「朝番の子達が、屋敷に来る途中、店の前を通ったら長蛇の列が出来ている。と教えてくれて、先程私達も行って来たんです」「そしたら、凄い人だかりで……」
えぇええ?今まだ、朝の6時よ?
通常10時開店だが、本日は初日と言うこともあり9時開店予定だった。
取り敢えず、急いで着替えをして、朝食を済ませ三人で店に向かった。
店の近くまで行くと「押さないでー」「二列に並んでくださーい」「道を開けてくださーい」
長身の凛々しい青年達の声がした。
ぇ?殿下? あっちはヘンリー様?
未来の国王様と宰相様が、人員整理している。
私、不敬罪で処刑されないよね?と、ちょっと心配になった。
二人に急いで駆け寄ると、満面の笑みで殿下が「人集りが出来ている。と、聞いたものだから、様子を見に来たんだよ」「いやぁ。来てみて良かったよ」爽やかに言われる。
「殿下、お気持ちは有難いのですが、殿下のお時間を頂戴するわけにも、いきませんので…」
さりげなくお断りすると「エレナの為なら問題ないよ」笑顔で言われる。
「お城の方は、よろしいのですか?」小声でヘンリー様の方をチラリと見ると、苦笑いされてる。
「大丈夫だよ。気にしないで」キラキラ王子降臨だ。
「そんなことより、まだ朝早いよ。エレナはもう少し休んでいた方がいいよ」
「連日の準備で疲れも溜まっているだろうし」「ここは僕に任せて、二階の休憩室で休んできなよ」
今日の空と同じサファイヤブルーの瞳をキラキラさせ、左手で店のドアを開けながら、店内に押し込まれる瞬間、ほんの一瞬、背中に軽く彼の手が触れた。
ビクリと背筋が一瞬伸び、彼の顔を見ると普段と変わらずキラキラ満点スマイルだ。
そそくさと逃げるように階段を駆け上がる。
ソファに横になると、仄かに香ったシガーを想い頬が熱くなる。
殿下ってシガーを嗜まれるのね…
ちょっと意外だった。思いつつ自然と重い瞼が閉じてきて、そのまま意識を手放した。
「殿下、ここは私が見ておきますから、少しでもお休みになって下さい」
「馬車をご用意しましたので、せめて馬車の中ででも! 一時間だけでもお休み下さい!」
「先程帰ったばかりではありませんか!」
ヘンリーは珍しく主君に強い口調で言う。
実は窃盗団の捕縛後、直ぐに一晩中、寝ずに馬を駆けさし、今日の朝方やっと王都に着いたばかりだった。
まさに、鬼神の化身の如く…
ヘンリーの強い意志と真剣な眼差しを見て「わかったよ」「エレナが起きたら教えてくれ」
「すまんなヘンリー」幼馴染に応える。
馬車の中に入ると直ぐに、座席に崩れ落ち、静かに瞼を閉じた。
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