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「こ…この化け物が!」
男がそう叫んだ時、レーツェルは足を止め、男の方に向き直した。
と、同時にレーツェルの横を誰かが通りすぎ、男の頭頂部、ギリギリで地面に剣を突き刺した。
――――アルフォンスだ。
そこにいた誰よりも速く、レーツェルでさえ対応できない程の速さで移動し、男の横に立っていた。
アルフォンスが頭頂部の上の地面に剣を刺したことにより、完全に男の動きは封じられた。
二本帯剣していたアルフォンスは残りの一本も抜いて、男の口に向けてかざす。
周りの者は一体何が起こったのかわからないまま、固唾を飲んで見ている。
「お前はもう一切喋るな。何も言わなくていい」
低い、とてつもなく低く、凄みを帯びた声がその場に響く。
レーツェルもそこにいる誰も聞いたことのないようなアルフォンスの声だ。
男からは汗がダラダラと流れ出て、喉からはヒッと言うような音が出ただけだ。
アルフォンスの濃い紫の瞳がさらに濃く深く、妖しく光り始めた。
ここまでの量の魔力を発動させているのはレーツェルも見たことがない。
多分、先程の言葉にも魔力がのっており、言霊のようになって、男は喋りたくても喋れない状態だろう。
「レーツェルが手を煩わせるまでもない。それすら値しない。精霊達に頼むまでもない、私がお前の記憶を探ればいいだけだ」
アルフォンスの冷たい低い声がその場を支配する。
記憶を探る、そんな事ができるのだろうか?レーツェルは今まで聞いたことはない。
でもアルフォンスならできるのだろうか、と考えていると
「私もまだ人にした事はないが、ちょうどいいから試させて貰おうか。何、痛みはないはずだ。ただ、探った後の脳がどうなるかは知らんがな」
アルフォンスが冷たい微笑みとともに言い放つ。
剣を腰に戻し、男の横にかがみ、右手人差し指を男の額につける。
途端に男の身体がビクッと動く。アルフォンスの人差し指から魔力が流れ出るのがわかる。
アルフォンスが見下すように男をみている。男の口が物言いたげに動いている。
「……がっ、あっ……」
声にならない音が男の喉から出てくる。
アルフォンスから醸し出される魔力のオーラは弱まらない。むしろ強くなっている。大丈夫だろうか?
「……アル?」
レーツェルの呼びかけにも反応がない。やばい。
「アルフォンス!」
レーツェルが叫ぶ。ハッとなったアルフォンスがようやく動く。
魔力のオーラが弱まる。
「……がはっ、おえっ……」
男が息も絶え絶えになっている。アルフォンスの力にかなりあてられたのだろう。
「アル、大丈夫ですか?」
レーツェルがアルフォンスに駆け寄る。
「……すまない、大丈夫だ」
「無理しないでください」
「無理はしてない。ちょっと加減が効かなかっただけだ」
レーツェルに向けられた男の暴言に対してレーツェル以上にアルフォンスが『キレた』のだ。
「……私は大丈夫ですよ。私のためにありがとうございます」
落ち着きを取り戻したアルフォンスがフッと笑う。
そして男をもう一度見ながら
「………ルージュナ侯爵だな」
アルフォンスのその一言にレーツェルも、カイル様もゲルト様も皆動きが止まった。
本当に記憶を読んだのか――――
いや、それよりもその名前だ。
男もその名前を聞いて蒼白な顔面がさらに白くなっている。汗も止まらない。
声には出さないが肯定しているも同然である。
「……ルージュナ侯爵って、本当か?アルフォンス」
カイル様が聞いてくる。
アルフォンスが立ち上がり、カイル様の方を向く。
「ああ、この男が侯爵と会って話しをしているのが視えた」
本当に頭の中を視たらしい。
「とりあえずこの男は一旦軍に連れていく。話すかは知らないがしばらくは生かしておく」
男を見下ろし、
「あと何日かだけは寿命が伸びたぞ。それ以降どうなるかはお前の態度次第だ。わかるな?」
アルフォンスの冷たい声が響いている。
アルフォンスは男の頭頂部辺りの地面に刺していた剣を抜き、自分の腰の帯剣ベルトに戻す。
「レーツェル、嫌かもしれないが一旦この剣、抜いていいか?」
「……お義姉様はどうなりましたか?」
「……聞いてみる」
アルフォンスがベルンハルト陛下と伝達する。しばらくすると
「今の所大丈夫だそうだ。痛みも引いて落ち着いたと。会話もできて、レーツェルに会いたいと言っているそうだ」
その言葉を聞いたレーツェルは男の元に行き、長剣と短剣を地面から抜いた。
「一旦引きます。が、この男に処分を下す時は必ず言ってくださいね」
「わかった、約束する」
カイル様の部下が男を連れていく。ほとんど意識がなくなっている。あの分だとどこまで話せるか、だな。
「で、こいつらだが」
と、ゲルト様が11人の方を見ている。
「一旦、軍に連れていくぞ。聞きたいこと聞いたら解放するからよ」
いいだろ?と聞かれたので、ボスの男に向かってレーツェルは
「と、言う事ですので、少しだけご協力願います。悪いようにはいたしませんので」
何かありましたら私まで言ってください、と。
「わかった。答えられることは協力する。いいな、皆」
他の10人はボスに頷いている。
「さっきまでのやり取り見てて、歯向かう気にはなれねーよ。お前さんだけでなくあんな奴までいるんだな、軍てやつは」
アルフォンスの方を見ている。
「彼は特別ですけどね。まあ私も「化け物」ですし、人のことは言えませんが」
とクスっと笑っていうと、アルフォンスが
「レーツェルは「化け物」じゃない」
と、ムスっとし始めたので
「ありがとうございます、アル。嬉しかったですよ」
と、微笑んで言う。先程までの冷たい微笑みではなく、暖かい笑顔で。
「……ってか、さっきまでと全然違うなあんたら二人。よくそこまで変われるな。似たモン夫婦だよな」
「……っぶ!」
とボスが言った言葉に思わず反応してしまった。
「……夫婦って……」
「あれ?違ったか?そんな発表あったよな」
確か、と。
いや、確かにありましたが……
そうこうしているとカイル様とゲルト様がこちらにやってきて、アルフォンスと11人を連れていくための打ち合わせをし始めた。
大体の流れを決めて、私とエルゼは乗ってきた馬車に乗ってもう帰ってもいいらしい。
じゃあ行こうかと思っているとアルフォンスがやってきて、
「ちょっと待って」
と、回復魔法をかけてきた。
「アル?」
「ごめん、今日は帰れないと思うから」
確かに相手が相手だけに手を回さなければ行けないことが沢山あるのだろう。
陛下もユーリア様についているだろうからすぐには動けないだろう。となるとアルフォンスが指揮するしかない。
「大丈夫です。アルも無理しないでくださいね」
「もちろん。レーツェルは離れに戻ったらゆっくり休むんだよ。エルゼ、よろしくね」
ちゃんと見ててね、と釘を刺されました。
「明日にでも、陛下にお伺いして義姉上の所に行けるようだったらまた連絡するね」
「お願いします」
じゃあ、とエルゼと馬車に乗り込んで、御者に言って出発してもらう。
しばらくすると王宮内に入る。馬車止めで降ろして貰って、エルゼと二人で離れに向かって歩いていく。
離れに戻ると伝達がいっていたらしく、レミリアが湯浴みの準備をしてくれていたので、ありがたくすぐに浸からせてもらった。
上がってから夜食もいただき、アルフォンスに言われた通り、大人しくベッドに入った。
気が昂ぶって眠れるかどうか心配したけれど、やはり身体は正直で、あっという間に深い眠りに入った。
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