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朝、いつも一人で寝ているはずの自分のベッドで目を覚ますと、なぜか見覚えのある黒色のシャツが目に入った。
ん、何で?と寝惚け眼でよく見ると自分の手でシャツをしっかりとつかんでいる。
そして掴んだシャツがはだけて間から見える胸板が目の前にある。
頭の中が?マークでいっぱいになっていると上の方から声が聞こえた。
「おはよう、レーツェル」
その優しい声に思考が停止する………。
声が出ない、身体が動かない。何で?何で?
「レーツェル?大丈夫?気分悪いの?」
「……いえ、大丈夫…です。おはよう…ございます……アル…」
―――――何でアルフォンスが……。まだ、引っ越しは…。おそるおそる顔を動かす。
破壊力抜群の笑顔が現れた……。
頬を両手で挟まれ、おでこをくっつけてくる。
「うん、熱とかはなさそうだね。頭痛はない?気持ち悪いとかもない?」
「……ない、です…。あの……わたし…」
一体どうしてこうなった?
いや、確かにお披露目終わったら来るとは……あれ?
「レーツェル」
アルフォンスの声が静かに響く。
「……私のいない所ではお酒禁止ね」
―――やらかしました……。
「あ、あの…私、何を…」
しましたか?とシャツから手を離しつつ消え入りそうな声で尋ねると
「ん?全然覚えてないの?」
「……はい。果実酒を飲んだまでは…」
覚えていますが……。
アルフォンスが起き上がって、ベッドから下りる。
よくよく見ると黒いシャツに黒いパンツ。昨夜から着替えてない。というか着替えられなかったと言う方が正しい。
レーツェルも起き上がって下りようとするとアルフォンスが横に来てレーツェルを横抱きにする。いわゆるお姫様抱っこだ。
「!?」
顔が赤くなる。
「まだお酒残っているかもしれないしね」
転んで怪我したら大変、と楽しそうな顔である。
「だ、大丈夫ですよ」
「だーめ」
そのまま居間まで運ばれる。扉を開けるとエルゼとレミリアがいる。
ソファまで運ばれて座らされた。どうやらテオは王宮に戻ったみたいだ。
「おはようございます、レーツェル様。ご気分は大丈夫ですか?」
エルゼが尋ねてくる。レミリアも心配そうに見てくる。
「おはよう、エルゼ、レミリア。大丈夫なんだけど、私、昨晩」
何したの?と聞こうとしたらアルフォンスに遮られた。
「レーツェル、本当に覚えてないの?」
「え?覚えてないんですか?」
と、エルゼも少し驚いてる。
「お、覚えてません……」
ほんとに私何したのー?
アルフォンスが隣に座り左耳に触れてくる。
「さっきも聞いたけど、頭痛とかは?本当に大丈夫?」
「だ、大丈夫です」
なら、といつも通り紫水晶に近づいて魔力を移してくる。何かいつもより暖かい気もする。
「いつもの魔力とちょっとだけ回復魔法かけたから」
「あ、ありがとうございます」
エルゼがグラスにお水を入れて持ってきた。
「ああ、飲んでおいた方がいいね」
アルフォンスがグラスを渡してくる。とりあえず一口飲んでから
「あの、本当に私、何したんです?」
アルフォンスとエルゼ、レミリアが三人こちらを向く。アルフォンスが
「大丈夫、何もしてないよ。ただちょっと可愛かっただけだから」
絶対、他の人の前でお酒飲まないでね、と念押しされました。
そうですね、可愛らしかっただけ、ですね、とエルゼも何か苦笑してるし…。
どうやら私はたった2口で酔っ払ったらしい。自分では覚えてないが、あの後アルフォンスに色々言ってたらしい。
エルゼ達には聞こえなかったらしいが、アルフォンスがかなり照れて困っていたらしい。
―――一体私は何を言ったのか……。
アルフォンスは内緒、って言って教えてくれないし。
そして何か言った後、寝入ったらしい。アルフォンスがベッドに運んでくれたはいいが、シャツをつかんで離さなかったらしく、仕方ないという事でそのまま一緒に寝たらしい。
本当に何て事を……いや、まあ婚約者だし、部屋も元々一緒になるはずだったからいいんですけど…いいんですけどね。
―――もう二度と飲まないと誓います。
「私は嬉しかったから大丈夫だよ。でも他の人にはダメだからね」
と、おでこに軽くキスしながら言ってきた。
うーさらに体温が上がる……。
朝食を食べながら、今日の予定を確認する。午後から王宮のバルコニーから市井に向かって挨拶をするらしい。
言葉は陛下とアルフォンスだけだから私は横にいればいいらしい。
その後昨晩のように竜化してお披露目だ。
それで発表とお披露目の一連の流れが終わるので、少しずつだが二人で王国の防御壁の確認や点検、補強などに出向く。
魔獣などが現れた時なども兵士部門や魔道士部門と協力することになるだろう。
挨拶の時のドレスは王宮の方に準備してあるというので、簡単な服に着替えて移動する。着替える前に一つだけアルフォンスに試してもらいたいことがあるのでお願いする。図書館でその記述を見た時にできるのかどうか気になったからだ。
アルフォンスもなるほど、と乗り気になってくれたので、庭に出てやってみた―――――
「うん、大丈夫そうだね」
と、竜化を解除してもらってシーツを巻き付けてる私を抱きしめてアルフォンスが確認する。
「はい、不都合はなさそうですね」
これなら今日のお披露目の時から使えそうだ、と思っていると
「でも、無理しないでね。痛いとかあったら言ってね」
「はい。じゃあちょっと服を着てきます」
部屋に戻り服を着て、アルフォンスとともに王宮内に向かう。
アルフォンスの居住区に入り、部屋に入る。
「ごめん、先にちょっとシャワー浴びてくるからここで待っててくれる?」
本とか読んでていいから、と言われてそういえばと思い出す。
そうですよね、シャツ掴まえて離さなかったからシャワーどころじゃなかったですよね……。
「……申し訳ありませんでした」
「謝らなくていいよ、むしろ嬉しかったし」
じゃあ待っててねーと浴室の方へ向かって行ってしまった。
本当に私は一体何を……とそこにある本を一冊持ってソファに座ってアルフォンスが戻ってくるまでの間、読もうとしたけれども、はっきりいって頭に入ってくるわけがなかった……。
〜〜 おまけ・お酒の力 〜〜
「レーツェル、大丈夫?」
「だい…じょう…ぶ、ですよ…」
いや、これどう見ても大丈夫じゃないよな?アルフォンスはまずい、と思った。
「レーツェル大丈夫?レーツェル?」
たった2口だぞ。それもちょっとずつ。強いとは思ってなかったけど、こんなに弱いとも思わなかった。
「レーツェル?」
返事がない。息はしてる。寝た?のか?
とりあえずベッドに運ぼうかと思った時、目が開いた。
「レーツェル、大丈夫?わかる?」
「……だいろうぶですよ〜わ…かりますよ〜だあいすきなあるです…」
「……!」
今なんて言った?ん?舌っ足らずな喋り方でなんかサラッと言われた気が……。
「…レーツェル?」
「はあい、なんでしゅか、だいすきですよある」
蕩けるような瞳で、見つめてくる。
―――破壊力が凄すぎる……。
自分の顔が赤くなっているのがわかる。
ダメだ、嬉しすぎる……。
このままじゃマズイ。
「エルゼ、ベッドに運んでいいか?」
「はい、お願いいたします」
扉を開けて貰って横抱きにして運ぶ。目を瞑ったので寝てしまったのか、大人しく運ばれる。
寝室に入りベッドに横たえさすとまた目を開けて、
「あるだぁ〜」
フフッと笑いながら私のシャツを掴んで離さない。
「レーツェル、大人しく寝ようか、ね?」
と、頭を撫でながら囁くと、
「はあい、ねますよ〜おやすみなさい、だあいすきなある」
と、最高級の微笑みと共に言ってシャツを掴んだまま眠りに落ちた。
いや、これ、なんて拷問………。かわいすぎるだろ……。
「仕方ありませんのでアルフォンス様もこちらでそのままお休みくださいませ」
様子見も兼ねてと、エルゼが言ってくる。
仕方ない、腹をくくるか、と、とても可愛らしく隣で警戒心なく眠るレーツェルのおでこに口づけをして、
「おやすみ、レーツェル」
アルフォンスの眠れない夜は一晩中続いたとか……。
本日もありがとうございます。
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