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 ベルンハルト陛下が夜会の最初に座っていた椅子に戻る。ユーリア王妃もすでに横に座っている。

 エルヴィン殿下やルカリスティア公爵と公爵夫人も近くに戻ってくる。


 レーツェルもアルフォンスの腕を取り、王族のみが立つ位置に一緒に戻ってきた。

 レーツェルはふぅと息を吐き、呼吸を整えた。横のアルフォンスが

「緊張かな?大丈夫任せておいて。なにも心配しなくていいよ。誰にも文句は言わせないから」

 と、優しく囁いてくれた。

「はい、よろしくお願いいたします」

 


 広間のあちらこちらからまたざわめきが起き始める。

 

 今度は一体何が始まるんだ?と好奇の目が集まる。


 音楽も一旦止み、ベルンハルトが立ち上がる。一斉に視線が集まったところで話し始める。


「今宵は楽しんでもらえているようでなによりだ。まだまだ夜は長い、この後も楽しんでもらってほしい」


 皆、静かに聞いている。


「夜会途中ではあるがいくつか発表したい事があるので是非聞いて欲しい。アルフォンス、こちらへ」


 と、アルフォンスを自分の横に呼ぶ。一礼してアルフォンスが陛下の横に立つ。


「先日、伝達させてもらってはいるが、我が弟アルフォンスがこの度、『竜』の『契約者』となった。しばらくぶりの我が国の『竜』の出現とともに契約の完了を喜ばしく思う」


 広間中から拍手が沸き起こる。


 手を上げ、拍手に応えたアルフォンスが

「これから先、『竜』とともに行動し、その力を我が国の安寧と守護のために生かすことを誓いたいと思う」

 と宣言すると、さらに大きな拍手が鳴り響いた。


 陛下が手を上げて拍手を制する。


「さらに我が弟アルフォンスについてだが、この場で婚約を発表する」


 ざわめき、悲鳴、歓声とも取れる色んな声が響いている。


「前国王であるルカリスティア公爵と公爵夫人を後見人とするレーツェル・シュヴァルツ嬢とアルフォンス・ドゥ・リヴィアニアとの婚約をここに宣言する」


 ベルンハルト国王陛下の宣言が響いていた途端、何とも言えない声が起こる。

 そりゃあそうだろう、いくら公爵が後見人とはいえ、素性のわからない、不吉と言われる黒髪黒瞳の少女がいきなり王弟殿下との婚約発表である。

 アルフォンスを狙っていた手紙を送ってきた貴族達からすると、到底受け入れられるものではないだろう。

 後ろ楯のせいで表立ったは言えないが、言いたいことは山積みだろう。

 しかし今からそれらを全て抑え込まねばならない。

陛下とアルフォンスもがんばってはくれるが、最終的には私の一挙手一投足にかかっている。失敗などはしない。

 アルフォンスが私に向かって手を差し伸べる。その手を取って彼の隣に立つ。


 国王陛下がざわめきを制するために手を挙げる。


「このことは我々王家一族総意の元であり、覆ることはない。これより約一年間の婚約期間を経て婚姻の儀を挙げることも決定している」


 ざわめきは収まらないどころか更に大きくなった。ベルンハルトは構わずに続ける。


「色々と言いたいこともあるだろう。だが我々一同、アルフォンスの相手にこれ以上ない相応しい者と思っている。これから、その証明をみていただくことになるが、それらを見て尚言いたいことがあるようならば、この私、ベルンハルトが引き受ける」 

 

 暗にベルンハルトが全ての責任を負うと言っているのだ。これでは誰も口出しは出来ないだろう。

 そして、口出しなどさせない為に、アルフォンスの横に立ち続ける為に、全力を尽くす。


 ―――さあ、その立場を皆に示せ!



 アルフォンスと共に段を降り、広間の中心を通り、庭に繋がる窓の方に向う。


 元々窓を開け放ち、庭に出られるようにしてあり、ライトアップもされている。


 窓の近くまで来た所で、エルゼとレミリアがいるのがわかった。アルフォンスが

「大丈夫だとは思うけど、これだけ外しておこうね」

 と、紫水晶のネックレスと髪飾りを外して、エルゼに渡す。


 ああ、そうか、耳飾りは大丈夫だったけど、ネックレスはわからないな、と思い、エルゼとレミリアに

「あとはお願いね」

 と頼むと、二人共

「お任せください。思いっきり見せつけてきてくださいね」

 にっこりと言われた。


 ………がんばります。



 二人で庭に出る。広間から見える位置で立ち止まり振り返る。

 皆の視線が集中している。


 ふぅと息を吐き出す。アルフォンスが語りかける。


「大丈夫、私がいる。心配など何一つない」

 そう言い切ってくれるアルフォンスに微笑み

「はい、もちろん。ではよろしくお願いいたします」


 準備は万端だ。後はアルフォンス次第。


 アルフォンスが広間に向かって宣言する。


「私、アルフォンス・ドゥ・リヴィアニアはこの度『竜』の『契約者』となった。契約主である竜と共にこのリヴィアニア王国のために尽くすことを誓う。今日この場で我が主である『竜』を皆に紹介したいと思う」


 アルフォンスの声だけが響き渡っている。


 「レーツェル」

 アルフォンスが優しく頬に両手を添えて微笑みかける。

 私は目を瞑り、全てをアルフォンスに委ねる。


 アルフォンスの両手から暖かい気が流れてくるのがわかる。そしておでこをお互いにくっつける。


「レーツェル、竜になれ」


 その言葉を聞くと身体の中から光が溢れてくる。


 レーツェルの身体が一瞬淡い光に包まれたかと思うと輪郭が崩れていく。



 そして夜空に向かって登っていくように黒竜が現れた。

 一度、上の方で旋回し、アルフォンスの横に巻き付くように戻ってくる。


 アルフォンスが黒竜の顔に自分の顔を優しく擦り合わせる。


「いい子だね、レーツェル」


 そして黒竜と共に広間に視線を移す。初めて見る竜に、皆声も出ない。その大きさに驚いているのか、動くことも忘れたようだ。そんな中、アルフォンスが再び宣言する。


「我が契約主、『黒竜』のレーツェル・シュヴァルツ。以後お見知りおき願いたい」


 初めて『竜化』したあの場にいた者以外、この広間にいるほとんどの者が初めて『竜化』の瞬間を見たのだ。

 

 アルフォンスの隣にいる、漆黒の鱗と瞳を持つ黒竜。間違いなく、先程までそこにいたレーツェル・シュヴァルツだとしか言えない。疑いようがない。



 広間から陛下が出てきて二人の前に立つ。そして同じように振り向き告げる。


「レーツェルとアルフォンス、この二人が『竜』と『契約者』だ。さらに見てわかる通り、『黒竜』である。竜種の中でも最上位であり、最強と伝えられている」

 あちらこちらで歓声や驚きの声が挙がる。さらに陛下は続ける。

「既に我が国の精霊は彼女を自分達の王だと認めている。彼女は『竜王』となる。彼女を蔑ろにすることは我々王家も精霊達も許さない」


 皆、ベルンハルトの言葉を聞いている。


「二人、我が国のために尽くすと誓ってくれている。これから先の二人を皆も温かく見守って欲しい」


 どこからか拍手の音が聞こえたと思ったら、それは広間全体に広がり、割れんばかりの拍手が響いた。


 そして、それは二人を祝福するかのように突然始まった。


 レーツェル達が今いる庭の樹木が一斉に花を咲かせ始めたのだ。もちろん季節など関係なく、花という花全てだ。


 陛下がアルフォンスに尋ねる。

「これは精霊達かな?歓迎してくれてる?」

「どうやらそのようです。自分達の王のお披露目を祝ってくれているようです」


 ベルンハルトが伝える。

「精霊達が自分達の王の誕生を祝ってくれているようだ。リヴィアニア王国の王として、互いに協力し、繁栄を願う」


 ひときわ拍手が大きくなる。


 ひとまず、成功したと言えよう。



「さあ、レーツェル、離れに戻ろうか。よろしいですよね、陛下?」

「ああ、あとは任せておいて。レーツェルのこと、よろしく頼むよ」


 明日またよろしくね、と陛下は広間に戻っていった。




 

 


 


読んでいただきありがとうございます。

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