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 ―――夜会が始まった。



 今日は国王陛下と王妃が主催のため、二人はすでに入場し、着席している。

 その横にアルフォンスとエルヴィンの二人の王弟が立っている。

 が、今日はアルフォンスの誕生祝いの宴でもあるため、貴族達はまず入場すると陛下と王妃に挨拶と、さらにアルフォンスに生誕の祝いを述べてくる。

 

 そしてアルフォンスが竜の『契約者』となった事も知れ渡っているためそちらの祝いもである。


 先日から届いているアルフォンス宛の見合い目当ての手紙を出した家などは、直に会えるこの場を逃してなるものか、と娘を連れて次から次へとやってくる。


 かなりの人が並んで挨拶を待っているため、一言二言で終わるのが幸いである。

 

「来たぞ」

 ベルンハルトがアルフォンスに声を掛ける。


 父親とその娘が目の前にやってくる。


 ―――ワナズア男爵とその娘ベアタ嬢だ。


 アメリ嬢の父親と姉か。姉は確かに18歳でアルフォンスにと手紙が来ている。

 彼女とあまり似てないなと思っていると、男爵が話しかけてきた。


「この度はご招待ありがとうございます。アルフォンス王弟殿下におかれましてはお誕生、そして『契約者』共にお祝いを述べさせていただきたく思います」

「おめでとうございます」

 と、父親に続いてベアタ嬢もカーテシーをしながら言葉を述べる。


「ありがとう」

 と、簡単にやり過ごそうとすると

「王妃様にも先日申し上げましたが、下の娘アメリも騎士部門に入門いたしました。是非とも王妃様付きとして」

「その件に関してはレーツェルに勝てたらと」

 とユーリア様が微笑む。


 ぐっと抑えた感じに見えたが、

「それは重々承知いたしておりますが、身分のない娘より…」

「身分云々より強いかどうかですから」

 とさらに被せて言うと


「で、ですが……そ、そうです、我が娘なら侵入者にやられて怪我をするなどないと思いますので」

 是非とも、と食い下がらない。


 しかしその言葉にそこにいたアルフォンスや陛下の目が厳しくなったことには全然気づいていない。


 後ろがつかえていると周りに促され、ようやく去っていった。


「確定かな?」

 ベルンハルトがアルフォンスに囁く。

「そうですね」

 アルフォンスも肯定する。



 しばらくすると家名と名前を呼ぶ声が聞こえる。


 本日のデビュタントの入場となったらしい。


 父親と一緒に歩いてくる着飾った者達に陛下と王妃から一言かける。

 ほとんどの者達は緊張して何も喋れず、礼だけして下がっていく。


「あと少しだ、がんばれ、アル」

「言われなくても」

 がんばりますよ、今日までですから、と言った所で横にやってくるイーヴォが目に入る。


「イーヴォ!お前なんでここに」

 レーツェルは、と問いかけようとすると


「大丈夫ですよ。ほら最終入場者です」


 入場者を宣言する者の声が高らかに響き渡った。




「ディートハルト・ルカリスティア公爵、アレクシア・ルカリスティア公爵夫人並びにレーツェル・シュヴァルツ様、入場!」



 ザワッとして皆入口を振り返り、静かになる。


 扉が開き、そこには前国王のルカリスティア公爵、そしてアレクシア公爵夫人の二人に挟まれエスコートされて入ってくるレーツェルの姿だ。


 先程までの五人の入場時はかなりの音や話し声が響いていて、そんなに注目を浴びているということはなかったが、今は違う。


 静かである。三人の歩く靴音だけが響いている。


 それもそのはずで、黒髪黒瞳のレーツェルの事は噂にもなっており、公然の秘密に近いものだったが、こうして公式の、それも国王主催の正式な夜会には初めての出席である。直にお目にかかるのは初めてという貴族も少なくはないだろう。


 さらにデビュタントで前国王であるルカリスティア公爵と公爵夫人にエスコートされているということは二人が後見人であるという事を正式に発表したようなものである。


 広間にいる全員に注目され、見られている三人だが、そんなことは一切気にしない態度で中央を進んで行く。


 美しさ、姿勢、歩き方、何をとっても非の打ち所がないレーツェルに皆釘付けになっている。


 三人が国王陛下らの前に到着する。


「この度の招待、感謝する。アルフォンスにおいては誕生と『契約者』ともに祝う」


「ありがとうございます、父上」

 アルフォンスが頭を下げる。


「我が娘、レーツェル・シュヴァルツ、本日成人となる。よろしく頼む」


 ルカリスティア公爵のその一言に周りがザワつく。


 レーツェルが王族に対して最高級の礼をする。


「レーツェル・シュヴァルツ嬢、これからも我が国のためによろしく頼む」

 ベルンハルトが国王として一言申す。

「私でできることであれば全力を尽くさせて頂きたく存じます」


 王妃様からもお言葉を貰い、これで国王陛下らへの挨拶は終わった。あとはダンスだけだ。


 少し下がり、ふぅと息を吐くと隣のアレクシア様が、

「大丈夫、レーツェル?緊張してるの?」

 珍しいわね、と微笑んできた。

「緊張してますね、やっぱり。でもお二人が来てくださったのでかなり落ち着きました。ありがとうございます」

「もう少し後から入場しようかとも思ったんだが、ベルンハルトがどうせならレーツェルをエスコートしないかと誘ってくれてな」

「そんな嬉しいことさせて貰えるなんて、ねぇあなた」

「アルフォンスには恨まれそうだがな」

 と笑っていたら、そのアルフォンスがやって来た。


「聞いてないんですけど」

 と、かなりふてくされた声だ。クスっと笑ってしまった。

「レーツェルは聞いていたの?」

「いえ、広間の前まではイーヴォ様と一緒でした。最後に近くの部屋に案内されたら」

 お二人が、と言うと

「兄上ですか?」

 と、公爵をチラッと見る。

「まあそう怒るな。ベルンハルトも万全にしたかったんだろう。イーヴォよりいいだろう?」

「…まあそれはそうですが」

「あ、アレクシア様ありがとうございます、今日に間に合いました」

 と、ネックレスと髪飾りに手を添える。

「良かったわ、綺麗ね、似合ってるわ。流石アルフォンス。でも独占欲強すぎない?」

 と、クスクス笑いながらドレスを見ている。


 四人で話していると周りの視線をかなり感じる。それはそうだろうなと思っていると、音楽が鳴り始めた。

 「ほら、これ(ファーストダンス)は誰にも譲れないんだろう」

 と、公爵が促す。

「もちろんです。行こうかレーツェル」

 と、右腕を差し出してくる。

「よろしくお願いいたします」

 と、左腕を絡ませる。


「次の一曲は是非私と頼むよ」

 ルカリスティア公爵と公爵夫人に、いってらっしゃい、と笑顔で送り出される。



 今日の一曲目は国王陛下と王妃、そして今日デビュタントの六組だけである。レーツェル以外の五組は父親か兄、婚約者がいる者はその相手だ。


 そこにレーツェルがアルフォンス王弟殿下を伴って開始位置に着いたものだから入場時以上のざわめきが起こる。

 

 気にしてないのは陛下と王妃、アルフォンスとレーツェルだけで、他の五組はただでさえ緊張している上にこのざわめきである。

 多分、今日をデビュタントに選んだことを後悔している者もいるだろう。それほどにレーツェルが全てを掻っ攫っているのだ。

 さらにこれぐらいの事では動じないレーツェル、同じ年齢とは思えない落ち着きである。


 ベルンハルトとアルフォンスが一瞬目を合わし、同じタイミングでホールドに入る。

 


 その瞬間、曲が始まる。

 



本日もご覧いただきありがとうございます。

評価、ブックマーク等していただければとても嬉しいです。励みになります。

よろしくお願いいたします。

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