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今日は午後から図書館に向かうため、軽く昼食を食べた後、一人で奥庭を通り過ぎ、王宮内に入る。
とりあえず二日間、図書館に行くための時間をもらって、一日目の昨日、楽しみすぎて、はりきって午前中から行ったら、夢中になりすぎて昼食もとらず、気がついたら夕方近くになっていた。心配したエルゼがアルフォンスに連絡し、飛んできたアルフォンスに怒られ、午前中からの一人での出入りが禁止になってしまったのだ。
午後からなら最悪、アルフォンスが仕事終了後に確認がてら迎えにくれば、食事を抜くこともないだろうということで、許可が出た。
昨日と同じように図書館の前まで来る。昨日もそうだったが、一人でもご令嬢方に声を掛けられることはなかった。
たまたまか、この前のことが広まっているのかはわからないが。
中に入り、昨日誰でも利用できる場所の方で借りた3冊の本を返してから、奥に向かった。
教えられた通りに入り、ヘルミーゼ様とヘドリック様がいる部屋に入る。するとヘルミーゼ様がすぐさま立ち上がって、
「昨日は本当に申し訳ありませんでした、お声掛けすればよかったものを」
とヘドリック様と二人で頭を下げてくれた。慌てて
「いえ、私が悪いのです。すみません、本が興味深くてのめり込んでしまって」
気づいたらあんな時間で、と言うとヘルミーゼ様が、
「その気持ちわかります」
と、横でヘドリック様も頷いてます。流石、図書館の司書一の本好きの姉弟、話が通じます。
「今日は気をつけますので、よろしくお願いいたします」
と挨拶して最奥区に向かう。いくつかの部屋を通り抜け、水晶に手をかざして鍵を解除して扉を開ける。
右手の壁を触り、灯りをつける。
昨日の続きから読み始める。
『竜化』した人自身が書き残した物もあれば、『契約者』が書いた物もある。
何組かの書物を読んでみたが、一つ分かったことは、記録上だけではあるが、今まで
―――『竜化』したのは男性、のみである。
『契約者』には男性も女性もなってはいるが、女性が『竜化』した記録はない。
記録に残ってないだけの可能性もあるが。
そしてやはり黒竜は『竜化』した竜の中でも最上位
であるようだ。
同時期に二組現れた時、片方が黒竜だったらしく、精霊達が同じ竜でも黒竜のことを優先し、最上位であることが確認、記録されている。
ただ記録上、黒竜はその一頭のみ。その他は緑系で、色の濃さの違いぐらいだったらしい。
その人も黒髪黒瞳だったのかしら、と思いつつ読んでいると、扉が開く音がした。
アルフォンスが入ってきた。もうそんな時間か、と思い、片付けを始めようとすると
「もうそこまで読んだのか?」
と聞いてきた。
「はい、一応最初から順番に目を通したとは思いますが」
と、答えるとちょっと困ったような顔で、
「レーツェルなら気づいたよね?」
「………はい」
女性の『竜化』は今までにないことを。
だから皆あれだけ心配をしてくれている、という事も。前例がないため、これから先身体にどんな変化がおきるのか、まったくわからない。
さらに最上位の『黒竜』だ。
何もかも手探り状態だ。一体自分はどうなるのか、どう変化するのか。変化はあるのか?それすらわからない。
でもこうなった以上、全てを受け入れるしかない。自分を信じていくしかないのだ。
アルフォンスがギュッと抱きしめてきた。心臓の音が聞こえる。とても穏やかで暖かい感じだ。
―――これだけで安心する。
「………不安がないと言ったら嘘になります。自分の身体がどんな風に変化するのか、怖い気持ちもあります」
アルフォンスがビクッと身体を震わせる。
「でもこうやってアルの心音を聞いているととても落ち着きます。何も怖くなくなるんです。だから、だからこれからもずっとこうしてくれますか?」
アルフォンスが少し腕を緩めて目線を合わす。
「約束する。ずっと離さない。いやだと言っても離れないからな」
「いやだなんて言うわけがないです。よろしくお願いいたします」
笑顔で返すとあっという間に顎に手をかけられ、唇が重なっていた。
どれくらいの間、口唇を重ねていたのか。長い間かもしれないし、あっという間だったのかもしれない。
ようやく離れた時、もう一度アルフォンスがレーツェルを抱きしめた。
レーツェルもアルフォンスの背中に手を回し抱きしめ返す。
「大丈夫、二人なら大丈夫だ」
何があっても、とアルフォンスがささやく。
「はい」
と、返事をすると、アルフォンスが腕を緩める。
「さあ、今日は帰ろうか。明日はゲルト総帥が待ってる。明後日からまた来てもいいからね」
午後からだけど、と釘をさすのも忘れない。
「……はい」
二人で最奥区から出て、ヘルミーゼとヘドリックに挨拶をし、戻る。
今日も3冊本を借りていく。明後日までには読めるろう。
アルフォンスが持つと言ってくれたが、流石にまずいので自分で抱えて持つ。
奥庭に向かっている時に
「そういえばレミリアなんだけど、夜会の一週間前から来てもらおうかと思うんだけど大丈夫かな?」
部屋の準備とかは?と聞いてきたので
「あ、はい。もう殆ど出来てますからいつでも」
「なら、そのように伝えておくね。で、私はいつから行ってもいいの?」
突然の発言に、思考と歩みが止まる。
アルフォンスが笑顔で、
「ほら、レーツェル『動いて』。いつでもいいの?」
「……いつでもいいと……思います」
と言うか私に拒否権はないですし、アルフォンスが決めるだけではないんでしょうか?
「一応離れの主人の意見を聞かないと。じゃあ、夜会が済んだらなるべく早く行くね。まあ執務室は王宮内のままだから」
移動させるものはあまりないかな、と。
「どのお部屋を準備すればよろしいですか?」
客室はあと4つあるが、どの場所がいいんだろう?と考えていると、耳元に
「レーツェルと一緒でいいんだけど」
と眩しいくらいの微笑みで囁かれた。
一瞬にして自分の顔が赤くなり体温が上がるのがわかった。
「………うー、わざとですか……」
「ごめん、ごめん。レーツェルがかわいいから。でも本当に一緒でいいんだけど、ダメ?」
確かに婚約して、結婚もするんだから誰も何も言わないとは思う。あとはレーツェルの心一つである。
「まあ、もうちょっと日にちあるから、考えておいて」
と、言われた辺りで離れに着き、じゃあまた明日朝ね、と王宮方向に帰っていった。
私は一人、本を抱えて離れに入り、エルゼにレミリアが来る日にちを伝え、アルフォンスのことも言ってみた。そうしたらエルゼからは
「え、一緒のお部屋じゃないんですか?そこ以外にどこに?」
と返ってきた。
やはり、そうなるのか……。
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