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 「始め!」


 カイルの声が響き渡った。



 レーツェルとアメリが長剣を構える。周りからも一切音がしない。


「アメリ様」

 レーツェルが声を出す。皆が驚く。かまわず続ける。

「護衛や警備において大切なのは、まず事態の把握です。そして把握してから『動く』事です。覚えておいてください、『動く』ですよ」


 それだけを告げるともう一度レーツェルは構え直した。


 そして、『それ』は一瞬でやって来た――


 レーツェルが瞬きをした瞬間、彼女の身体を纏う『気』がガラリと変わり、周りの温度が下がる感じがする。


 ――『殺気』だ。


 昨日の令嬢方に向けた『モノ』とはレベルが違う。『本気』の『殺気』だ。


 周りにいる騎士達も言葉が出ない、というか出せない。この場に立っているのも辛い者もいるだろう。


 一番近い位置でその『気』を受けているアメリも例外ではなく、動けない。


 レーツェルの漆黒の瞳がその瞬間光る。


 一瞬でアメリの目の前に移動し、懐に入り込み、目にも留まらぬ速さで剣を振りかざす。


 皆が気づいた時にはアメリの剣は手から離れ宙を飛んでいた。

 そして地面に落ちた瞬間、カイル様の声が響く。


「一本!それまで!」


 ――瞬殺だった。アメリも何が起こったのか解っていない。多分この場で理解したのはアルフォンスとカイル、部隊長の数人だけだろう。


 レーツェルが深呼吸をして剣を下ろす、と同時に『気』も解除する。

 周りの空気も元に戻った感じがする。ざわざわと騎士達も動き出す。

 

 剣を飛ばされたアメリはまだ状況を把握できていない様子で、レーツェルの『気』が解除されたことにより緩んだ身体が膝から崩れ落ちた。


 その場に座り込んで動けないアメリにレーツェルが近づき膝立ちになり目線を合わす。


「大丈夫ですか?怪我はないと思うのですが、どこか痛むところとかありますか?」

 とアメリの手を取り確認する。まだ声は出ないが、ふるふると首を動かして、無いと意思表示をする。


 大丈夫そうだと安堵してレーツェルが続ける。


「今の私の『気』を受けても把握して『動ける』ようになること、これが王族の警護につくための最低ラインだと思ってください。そして『動いて』反撃をし、王族を守る、これが護衛であり警護の責任です」


 アメリはレーツェルと視線を合わして聞いている。


「王族の警護に就いて対処しなければならない時、ほぼ相手は暗殺者です。先程の私以上の『気』を放ってくるでしょう。それか反対に全て消していきなり前に現れるかのどちらかです。そのどちらに対しても一瞬で事態を把握して、身体を動かすこと。止まっていては駄目です」


 アメリが小さく頷く。


「いきなり体験させて申し訳ありませんでした。でもアメリ様ならと思い、『本気』でぶつからせていただきました。こんな年下のいう事なんて、と思っていただいても結構です。ただもしよろしければ心の隅にでも留めておいてくだされば」


 と、手を引いて立ち上がらせる。落ちた剣を拾い、一緒にカイル様の方へ歩いていく。


 まだ少し放心状態のアメリ様を彼女の部隊長に引き渡して、アルフォンスの方へ戻る。


「ご苦労だったな、レーツェル。怪我はないな?」

「はい、大丈夫です」


 アルフォンスと確認していると、カイル様が

「レーツェル、せっかくだし相手してくれるか?」

「私はいいですが。アルフォンス殿下、よろしいですか?」

「レーツェルの無理のない程度ならいいぞ」

 アルフォンスの許可が出ると部隊長達からも、俺も俺もと声が上がる。

 一人最長5分一本勝負でとの条件で受けられるだけやりますよ、と答えて始めることにした。


 とりあえず最初は部隊長クラスから。先程のような『殺気』は無しの条件で。純粋に剣の腕前だけの勝負だ。

 髪を結んだまま、思いっきり出来るのは助かる。


 3人、5分かからずレーツェルが倒した時点でカイル様が「明日から訓練時間増やすか……」と眉間に皺を寄せてつぶやいた。


 次、カイル様と対決しようとした時にその声が響いてきた。



「楽しそうな事やってんじゃねーか」


 体格の良い少し無精ひげを生やした男性がこちらに向かって歩いてくる。


 アルフォンスやカイルより年上の彼はゲルト・ハウストラ伯爵、兵士部門のトップで現在の王国軍総帥である。

 伯爵位ではあるが、あくまで戦績の報奨であり、元は平民出身なのでとても気さくな方である。


「ゲルト総帥」

「ゲルト様」

「珍しいですね、どうしてこちらへ?」

 誰かに用事でも?とカイルが聞くと


「さっき心配ないって伝達は来たけどもよ、あんな『殺気』感じたら何やってんのか知りたくなるってもんだろ?」

「そちらの訓練は抜けて来ても大丈夫なんですか?」

 アルフォンスが尋ねる。


「部隊長がなんとかしてるだろ。ってか彼奴等も気になるから見てこい、って」

 言われてよ、とゲルト様が答える。

「で、昨日のもレーツェルだろ?連日だし余計に気になってな。まあ昨日のとは全然違ったがな」


―――昨日のは聞かないでください………。


「まあ久しぶりに感じたけど、相変わらず凄いな。また一段とキツくなったんじゃねーか?」

「そうですか?自分じゃ変わらない感じなんですけど。ゲルト様には敵いませんから」

「どうだか」

 と、ゲルト様がニヤッと笑う。


「で、今からカイルとか?」

「はい。そのつもりですが」

 手に持っている訓練用の刃の潰れた剣を見て、

「なんだ?真剣じゃないのか?」

 せっかくなのに、と。

「アルがいるんだからちょっとぐらい怪我したって大丈夫だろ?」

 国一番の回復魔道士がいるのに勿体ない、って。


 いやいや王族をそんな歩く救急箱みたいに……。


「そういえばそうだな、真剣でいいか?レーツェル」

 カイル様まで。

「私はレーツェルしか治療しないぞ」

「えーちょっとぐらいしてくれよ、私の方が怪我する確率高いんだからさ」


 アルフォンスがさらっと何か言っているんですけど……。


 訓練用の剣を置いて、腰の帯剣ベルトから剣を取り出す。

 自分に合わせて造って貰ってあるので、訓練用のよりかは扱いやすい。


 開始位置につく。剣を構える。周りの騎士達も静かに見守る。


「始め!」


 カイル様だけではないが男性と対決する時は、待ち構えるのではなく、こちらから攻めていく。

 5分と決められているので最初から全力で行けるというのもあるが、向こうから攻めてこられるとどうしても男性の剣の振り下ろしの重さには敵わない。

 なるべく振り下ろされないように細かく攻撃し、反撃させないようにする。


 流石に騎士部門のトップだけあって、レーツェルの攻撃も全て受け止め、かわし、スキあらば攻撃してくる。

 本当の戦場なら当たりたくない相手だ。味方で良かった、と思う。


 皆が固唾を呑んで見守る中、声が響く。


「止め!」


 5分終了。他の人の時には出なかった汗が流れる。


 周りの騎士達から拍手がおこる。


「ありがとうございました」

「いや、こちらこそだ。久々に楽しかった」


 アルフォンスの元に戻る。

「怪我はないな?」

「はい、大丈夫です」

「私もないぞ」

 とカイル様がふざけた感じで言うと

「あってもしないと言っただろう」

 仲の良い二人である。


 そのやり取りを見ていたゲルト様が


「じゃあレーツェル、こっちにはいつ来てくれる?」

「え?」

 こっちって兵士部門の方ですか?と言うと


「当たり前だ。騎士部門だけはズルいぞ。うちも鍛えてやってくれ」

「……私の方はよろしいですが。アルフォンス様?」


 アルフォンスが考える。するとゲルト様は

「アルは別にいなくてもいいぞ、レーツェルだけで。ちゃんと訓練用でやるから」


「レーツェルは?何か用事とかしたい事はないのか?」

 アルフォンスに聞かれて、出来れば三日後ぐらいがいいと答えると、何故?と言われたので、正直に


「図書館に行きたいのです」


 と答えると皆、一瞬動きが止まった。


 理由を解ってくれたアルフォンスが

「そうだな、それは分かる。ではゲルト総帥、三日後の午後、兵士部門にお邪魔しますがよろしいですか?」


「理由がよくわからんが、わかった、三日後だな。部隊長達に伝えておく。楽しみだ。俺とも是非お願いしたい」

「お手柔らかにお願いいたします」

 と、答えるとにこやかに笑って、ではまたな、とゲルト総帥は去っていった。


 じゃあ私達も戻るか、とアルフォンスが言ったので

カイル様と部隊長達に挨拶をして戻ろうとすると、回復したのかそこにアメリ様が立っていた。








本日も読んでいただきありがとうございます。

評価、ブックマークよろしくお願いいたします。

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