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アメリ・ワナズア嬢がこちらに向かって歩いてくる。
初めてお会いするが、歩き方も多分小さい時から男爵家令嬢として躾けられているであろう、綺麗な姿勢である。背丈もそんな低くもなく体格的にも申し分ない。
容姿も綺麗というよりかは可愛らしいと言う方があっている感じだ。
男爵令嬢としてドレスを着ていたら引く手あまたではなかろうか、と思うのに、何故騎士に?親もよく許しましたね、と色々考えてしまう。
自分の記憶に拠れば三人兄妹の末娘で、上に兄と姉がいるはずだ。確かに兄が家督を継ぐし、姉もいるなら妹はある程度は好きにできるだろうが。
まあ、こんな所でなければ一度ゆっくり話を聞いてみたいなと思っているとアルフォンスが
「レーツェル、色々顔に出てるぞ」
とクスクス笑いながら言った。
「……すみません」
目の前にアメリ嬢がやって来た。カイル様が話しかける。
「アメリ嬢、突然ですまないが今日時間ができたという事でレーツェルが来てくれた。今からでもいいか?」
「はい。私はいつでも大丈夫です。反対にレーツェル様にご迷惑をかけて申し訳ありません」
と、頭を下げてきた。
――意外だ。男爵令嬢ならもっと上から目線で来ると思っていた。アルフォンスが隣にいるにしても、普通なら頭を下げるなんてないと思っていた。
なんかイメージが思っていたのと違う感じがする。
「レーツェル・シュヴァルツ様、初めまして。アメリ・ワナズアと申します。アメリとお呼びくだされば。この度は私の我儘を聞いていただきありがとうございます」
アルフォンスも隣でちょっと驚いている。
「アメリ様、初めまして。私のこともレーツェルと。私に出来ることで、こんな我儘なら大歓迎です。よろしくお願いいたします」
「挨拶も済んだところで始めようか。では模擬戦の要領で5本セット、3本先取で勝ち。剣はこちらで用意した訓練用の長剣で。魔法による防御等は禁止。他に何かわからないところはあるか?」
二人共、無いと答える。訓練用の刃を潰してある長剣をもらう。
先ほど部隊長が言っていた通り、騎士部門全員じゃないかというくらいの人数が周りに集まる。
見世物の気分だ。まあ仕方ないか。
「準備ができたら前へ」
カイル様の号令で開始位置に付き、長剣を構える。
「始め!」
流石に最初は様子見という所か、いきなり仕掛けてはこなかった。
こうやって相対してみると確かにフォームも綺麗で、付け焼き刃ではないことがよくわかる。長年訓練している感じだ。
ということは小さい時から騎士を目指して練習してきたのか?男爵令嬢にしては珍しいな、とか考えていると、スキがあるとみなされたのか、アメリの足が動いた。
レーツェルに向かって一直線に向かってくる。長剣を振り下ろし攻撃をしてくる。
レーツェルも我に戻り剣で防御する。ガッと剣同士がぶつかる音が響く。
中々いい重さで入ってくる。グッとこらえて、弾き返す。
弾き返されてもよろけず再度攻撃を仕掛けてくる。何度か剣を交じ合わせ、払い、お互いの力を図りあう。
剣のぶつかり合う音だけが響く中、アメリの剣が少し下がった一瞬の隙をレーツェルが見逃すはずもなく、横からの一閃でアメリの手から剣を弾き飛ばす。
「それまで!レーツェル一本!」
カイル様の声が響く。
「2本目いくぞ、用意!」
アメリが剣を拾い、再び開始位置につく。
「始め!」
今度は開始合図とともに向かってきた。こちらも今度は考え事などせずに向き合う。剣を受け止めて弾き返すと、先ほどよりも速い間隔で攻撃を仕掛けてきた。
レーツェルは髪の毛の事もあり、少し動きを抑えているため防戦一方になる。アメリもイケる!と思ったのか、次から次からへと攻撃を繰り出してくる。
これはイケるのでは?と周りで見ている騎士達は思い始めた。
アルフォンスやカイル、部隊長達は余裕な顔をしている。何も心配はしていない顔だ。
アメリが繰り出す攻撃を全て剣で受けて弾き返すレーツェル。
先程の一本目より長い時間が経過した。段々とアメリの息が上がってきた。
レーツェルはまだ少しも息が乱れていない。それどころか嬉しそうに笑顔も見て取れる。
実際レーツェルは心の中で少し喜んでいた。これは嬉しい誤算だった。もっと高飛車な感じだと思っていたからだ。その場合はまた違った対応をしただろう。
だが実際会ってみると、これは、と感じたのである。
ずっと防戦一方だったレーツェルがたった一度繰り出した攻撃が確実にアメリの剣を捉え、飛ばした。
「それまで!レーツェル一本!」
おーっと周りから声が上がる。
レーツェルがカイルに歩み寄る。
「すみませんが三本目に入る前に少し時間をいただけますか?」
アメリが驚いた顔をする。慌てて
「私はすぐできます、休憩は要りません!」
と叫ぶ。自分の息が上がっているからと思ったのだろう。
「私が欲しいのです、休憩ではありません」
とレーツェルが言うとカイルが
「何分いる?」
「アルフォンス殿下次第です」
カイルと部隊長達が?な顔をする。
「アルフォンス殿下、何分いりますか?」
それだけ聞くとわかってくれたのか、
「5分くれ。いいかカイル?」
「わかった。5分休憩に入る」
と宣言した。見ている者は何だ何だ?となっている。レーツェルはアルフォンスの所に向かい前に立ってくるっと背中を向ける。
「お願いします」
「全部でいいのか?」
「はい」
アルフォンスが紐を何処からか出してレーツェルの髪を上の方から器用に、そして綺麗に編み込んで行く。
あっという間に髪の毛が纏まっていくその光景に皆、開いた口が塞がらない。
そりゃあ王弟殿下で魔道士部門トップの王国軍副総帥が魔法をつかうわけでもなく、その両手で綺麗にレーツェルの髪を整えていく姿はその目でみても信じられない事だろう。
当のアルフォンスは鼻歌まじりで髪を仕上げている。
「はい、出来た」
5分もかからず、あれだけのレーツェルの長い黒髪を編み込みと三つ編みで纏め上げた。
紋様は見えないようにしてある。
「ありがとうございます、アルフォンス殿下」
皆がある意味あんぐりとしている中、レーツェルは開始位置に戻った。
アメリも慌てて開始位置につく。向かい合った時、レーツェルが話しかける。
「アメリ様、お待たせいたしました。今までの二本でアメリ様の心意気受け取らさせていただきました」
アメリがレーツェルの言葉に耳を傾ける。周りの者も静かに聞いている。
「申し訳ありませんが今までの二本は私にしたらハンデがありました。なので『最後』の一本は『本気』を出させていただきます」
周りがざわついた。アメリもその言葉の意味を理解し、ギリッと歯ぎしりをする。
最後、と言い切ったレーツェルは四本目は無いと言ったも同然、この三本目で終わると言ったのだ。
アルフォンス達も先程までとは違い真面目な顔をしている。
「久しぶりに『本気』が見られる」
「楽しみだな」
「どれだけ持つかな」
とカイルや部隊長が話す。
「アルフォンス殿下!」
レーツェルが叫ぶ。
「なんだ?」
「今から起こる『事』は心配ないと、各部署に通達願えますか?」
「……分かった」
と、目を瞑って、人差し指を額につけている。魔力で伝達しているのだろう。しばらくして
「大丈夫だ。通達完了した。思いっきりやっていいぞ」
アルフォンスがレーツェルに許可を出す。
「ありがとうございます、アルフォンス殿下」
レーツェルがアメリに向き直す。
「では、始めましょうか」
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