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 三ヶ月前に王国軍騎士部門に新人騎士が数人、入ってきたらしい。それ自体は例年通りの事で、16歳を迎えた貴族のご子息の中で、騎士を目指す者達が入門してくる。

 大体三ヶ月から六ヶ月間基礎訓練を受け、その後いくつかの部署に分けられていく。

 騎士部門の場合は王宮内の警備や、王族、側近の警護などになる。もちろん王族の警護が一番重要なので、そこの部署が騎士部門の中でもエリートとなる。

 新人は大体王宮内の警備から始めて、力をつけて出世していく感じだ。

 


 今年入ってきた新人の中に女性が一人いたらしい。その事自体はそんなに珍しい訳ではなく、ニ、三年毎に一人から二人入っては来る。


 ただ、今年の子はいつもとちょっと違うらしい。

 

 自分は強いし、男爵令嬢として振舞いもマナーも身に着けている、だから王宮内の警備からではなく、すぐに王族の警備につけろ、と言ってきたらしい。まあ女性で王族の警備と言ったら王妃につくことが多く、所謂騎士の中でも花形と言えよう。新人で王族警護の部署、しかも王妃付だと家名にも箔がつくだろう。


 確かに今年入ってきた中では新人男性より剣術などは優れていたらしいし、言うだけのことはある、と。

 ただカイル様曰く、確かに剣術はそれなりにできるが、まだまだ、と。もう少し経験が欲しいところらしい。

 それを伝えても納得せず、はては親まで出てきて、部門トップのカイル様を飛び越えて王妃に直談判しにいったらしい。

 

 ――すごい自信だ……。



 そこで王妃様がにっこり微笑んでこう言われたらしい。



  「レーツェルに勝てたらいいわよ」



 ………お義姉様……。


 アルフォンスとレーツェルは同時に額に手を当て、目を瞑った。


 それは所謂体のいい厄介払いでは……?


 私としてはどうすればいいのだろうか、迷っているとアルフォンスがカイルに質問する。


「男爵と言ったな?誰だ?」

「ワナズア家だ。次女のアメリ。16歳と半年くらいかな」


 ――その家名、この前束の中に見たな……あれは長女名だったのかな。

 とにかく王族に入りたいのか、取り入りたいのか、そう言う家だということか。

 ユーリア様も解っているのだろう。その上で私に振ってきたということは……。


「ワナズア家か、なるほど」

 アルフォンスも気づいたらしい。


「ちなみに今王妃の警護は誰が主についてるんだ?お茶会はレーツェルだが、それ以外の時」


 舞踏会や夜会は私はまだ社交界デビューしてないこともあり、王妃が出席していても警護にはつかない。騎士部門の誰かかついているはずだ。


「ジュリアだ。ここ三年程ずっと。彼女なら任せられる。王妃からの信頼も厚い」


 ジュリア様か。確かに彼女は立ち居振る舞いも剣術も申し分ない。背も高く、見目も麗しい。どちらかというと女性にも人気があるくらいだ。レーツェルともそれなりに対戦できる。


「ジュリア嬢か。まあ腕前的にはなんの問題もないな。彼女は子爵家だったか」

「そうだ。だからワナズア家が煩く言うのもあるんだが」

 面倒臭い貴族階級だ。強いだけでいいじゃないか、とレーツェルはいつも思う。


「ジュリア嬢とそのアメリ嬢はやりあったことはあるのか?」

「一度だけ。ジュリア嬢が僅差でなんとか勝ったという事にはなっている。が、本気は出せなかっただろうな」

 アメリ嬢がその事に気づいているかどうか……。


 誰かが一度こてんぱんとまでは言わないが鼻っ柱を折らないと図に乗っていくのは目に見えている。

 

 ただ誰がその鼻をへし折るかだ。


 隊長クラスなら誰でもいけるだろうが、男相手だったから仕方ない、と言うだろうし、同性だと家名がまたうるさい。


 そうして王妃の言葉もあり白羽の矢が立ったのがレーツェルだ。

 

 すでに王妃の警護もしているし、同性で強い。さらに爵位はないが後ろ盾はありすぎるほどある。そして何より『年下』だ。多分何もいえないではあろう。

 

 ただ問題なのはその後だ。鼻っ柱を折って、彼女がダメになることはないだろうか。今まで多分、男爵家である意味蝶よ花よと育てられて、剣術も訓練してきて、それなりのプライドがあるだろうに、『年下』に負けるのはかなりくるだろう。立ち上がってくるならいいが。

 思った事をカイル様に伝えると


「それぐらいで駄目になるならハッキリ言っていらない」


 まあ確かにそうですね。足手まといになるのも困りますし、負けても這い上がるくらいの根性が欲しいところです。


「カイル様がそう思っていらっしゃるのなら、私はいくらでも協力させていただきますが、アルフォンス殿下?」

 と、隣にいる最終決定者にお伺いを立てる。


「……レーツェルしかいないだろうな。いつがいいんだ?」

「早いに越したことはないが、お二人さんも色々と忙しいだろう。新人達は今はまだ毎日訓練だから、いつでも。そちらの都合のいい日で」

 お願いしたい、と。


「私は今の所予定はありません。王妃様か公爵夫人のお茶会が突発的に入れば別ですが。しいて言うなら今日この後庭師のジノ様に新種の薔薇の苗を貰って帰るので、明日午前中には植えたいかな、ぐらいです」

 明日の午後以降ならいつでも大丈夫です、と伝えた。

「そうだね、そっちの約束の方が先だしね」

 と軽く笑われた。

 そうですね、天秤にかけるなら、苗の方が大事です。


 アルフォンスがテオに何やら確認を取っている。大丈夫だと思います、と言っているところを見ると決まったかしら。


「じゃあ早い方がいいと思うから明日の午後で。カイルいいか?」

「そりゃあ助かるが大丈夫なのか?苗とか言ってたけど、他に二人の仕事とかないのか?『竜化』がらみで」


 ああそういえばそうだ。何も言われてないけど、何かしなくてもいいのかしら、と思っているとアルフォンスが、

「そっち関係の仕事は一ヶ月後のお披露目が終わってから入る。それまでは何もする予定はない。だから反対にそれ以降の方が忙しくなるから」

 明日でいい、と。なるほどそういうことか。


「じゃあ明日の午後からの訓練でお願いする。用意するものとかあるか?訓練用の剣は準備しておくが」

「いや、大丈夫だ。訓練用の隊服はレーツェル持ってたよな?」

「はい、あります」

 どちらの部門のも一式全て貰ってはある。

「じゃあレーツェル、明日朝イチで一つ仕事済ませてくるから、朝は行けない。昼までに終わらせてそっちに行くから、午前中は庭をよろしく。終わったら隊服着ててくれる?」

「了解しました」

 アルフォンスと打ち合わせをしていると、カイル様が、


「アルフォンス、噂には聞いてたけど、朝レーツェルの所に行ってるってホントだったのか?」

「ああ」

「毎朝?」

「仕事がなければ」

「何をしに?」

「レーツェルの髪を結いに」

「?は?」


 ……は?ですよね、ホントにそう思います。カイル様目が点になってます……。


「隠してるつもりはないのだが、レーツェルの髪を毎日整えているのは私だ。なあレーツェル、テオ?」


「「はい」」

 二人の返事が重なる。


「えっ!じゃあ今のこの髪形も……?」

「私作だな」

「え?じゃあ今まで訓練とかに見たあの三つ編みやら編込みやらも……?」

「全部私だ」

「マジか……」

 と、カイル様がまじまじと私の髪を見てくる。

 

 いやーすごいなー器用だなーと感心しながら、じゃあ明日よろしく頼む、とカイル様は執務室を出ていかれた。


 よし、じゃあレーツェルを送るか、とアルフォンスが言ったのでテオに挨拶をして、二人で執務室を出て、奥庭に向かう。


 奥庭に入るとジノ様がいた。私達を見つけると


「ちょうどいい、荷物持ちもいるのなら肥料も持ってけ」


 王族を荷物持ち扱い……ジノ様だから許される。私とエルゼが教えて貰っている時、よくアルフォンスも来て一緒に習っていた。

 ジノ様は身分云々より花や樹木優先の方なので、男性だったら王族だろうがなんだろうが使える者は使う。

 まあそれができるのも今の王族の方々が寛大だからなんですが。


 アルフォンスも別段気にする様子もなく、

「どれですか?あの袋?」

 と、重そうな麻袋に入った肥料を二つ持ち上げる。   

 汚れますよ、と声をかけてもこれぐらい、と取り合ってはくれない。

 

 私は新種だと言う薔薇の苗をかかえて持って、ジノ様にお礼を言い、アルフォンスとともに離れに向かった。




 

 




今日も見に来てくださりありがとうございます。

よかったら、評価、ブックマークよろしくお願いいたします。

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