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扉の開く音が聞こえたのでアルフォンスと二人、本を読むのを止め顔を上げた。
扉が開き入ってきたのは金髪碧眼の男性、ベルンハルト陛下だった。
「兄上。どうしたのですか、何かありましか?」
確かにここまで入って来られる者は限られている。わざわざ陛下が来るほどの緊急事態でも?と思って立ち上がると、手を上げて抑えられた。
「ごめんね、読書の邪魔して。何もないから安心して」
とにっこり笑って言われたので座り直した。
陛下も空いていた椅子に座ってきた。
「テオに聞いたら二人で図書館に行ったというからちょうどいいと思って。私も空き時間だったし」
ちょうどいいとは?不思議な顔をしていた私に向かって
「ここは内緒話をするには最適の場所でね。さて時間もあまりないので本題に入ろうか」
ベルンハルトが二人に向かってにっこりと笑う。
「先ほどからいくつかの部署から問い合わせがあってね、内容は全て同じなんだけど」
――嫌な予感がする……。
「イーヴォからも報告を受けたけど完全ではなくてね。一応王宮内のことだから放っておくわけにもいかなくて」
………ですよね……。
「レーツェル、さっきの『殺気』は何でかな?」
――やっぱり、それか……。
「……申し訳ごさいません……」
額に手を当て項垂れる。そんな様子を見て
「レーツェルにしてはそんなに強い『気』ではなかったから、私の影も他の部署からもとりあえず確認なんだけどね。イーヴォも理由はわからないと言っているし。これは直接聞かないとだめかなと」
アルは聞いたの?と尋ねてきた。
「聞きました。レーツェル、言ってもいい?」
確認取られましても、ダメですと言う権限はございません……仕方なくコクンと頷くと
「兄上に言うのはもったいない気がするんですが、私のために怒ってくれたので許してくださいませんか」
目を丸くしてベルンハルトが驚いた顔をしている。
「……それは許さざるをえないかな、何?何を言われたの?」
他には言わないから、とグイグイくる。仕方ない。
自分で言った方がまだましか……。
「絶対言わないでくれますか?」
「もちろん、誤魔化してあげるよ」
「………ご令嬢方にドレスと髪形を貶されまして、気がついたらキレてました……」
口に手を当て、なんだか笑いを堪えていらっしゃるような気もするんですが
「…っ、それはアルが喜んでいるはずだね、なるほどね」
わかったよ、うまく誤魔化しといてあげるよ、とおっしゃってくださいましたが、貸し一つになりそうですね……。
「でも早かったよね、もうちょっと後かと思ってたんだけど。まあこれでしばらく来ないといいけどね」
よし、理由はわかったから、私は戻るよ、また困ったことがあったら言ってね、と去っていった。
残された私とアルフォンスだったが、
「私達も今日はこれくらいにしようか、明日以降いつでも来れるからね」
と、読んでいた本を本棚に戻し、来た部屋を戻っていく。
ヘンリックとヘルミーゼに挨拶をしてさらに戻って、一般向け図書館も通り、廊下に出た。
アルフォンスが離れまで送ると言うので、奥庭に寄って苗を貰う約束をしていると言うと付き合うと言ってくれたので、一緒に奥庭に向かう。
廊下を二人で歩いていると、向こうから人影がやって来る。今度は一人で男性だ。
「ちょうど良かった、アルフォンス。レーツェルも一緒なのか、助かった」
アルフォンスのことを敬称無しで呼ぶことが出来る数少ない人物のうちの一人、王国軍騎士部門のトップ、カイル・セブナル様だ。
肩口まである金髪を軽く結んで、颯爽と歩く姿はこれまたご令嬢方に人気の御方だ。
でもこんな時間に珍しい、訓練中ではないのか?しかも私達二人に用事とは?アルフォンスも同じ事を思ったようで、
「何かあったのか?お前が来るなんて珍しい」
「いや、お前とレーツェル二人に頼みたい事があってな」
この王国の軍部は大きく言うと三つに分かれている。
『王国軍兵士部門』と呼ばれる、所謂、対内対外的どちらにも兵士として戦闘に参加する者達で、生まれや身分の条件はなく、とにかく肉体的に強い者が集まる部隊である。剣、槍、弓など色々な武器を使い、所属している人数も一番多い。
ちなみにこの兵士部門のトップが王国軍総帥となる。
次に『王国軍魔道士部門』。こちらも生まれや身分の条件はないが、強い魔力を有する者と言う条件がある。これは生まれ持った才能の部分が多いので、どうしても限られてくる。攻撃系や回復系など自分の得意分野を活かして戦う。
そしてこの部門のトップが王国軍副総帥であり、今現在はアルフォンスが務めている。
最後に『王国軍騎士部門』である。こちらは身分の条件があり、爵位持ちの家出身であること、の条件がある。王宮内や王族の警護が主となるため、どうしても立ち居振る舞いもある程度のレベルが必要となるためである。もちろん剣術等のレベルも必要だが。
この部門のトップも肩書は王国軍副総帥であり、今目の前にいるカイル様が現在務めている。
「私に、ですか?」
王妃様やアレクシア様の警護の時にたまにかかわるくらいで普段はあまり接点がない。年に数回、訓練に参加するくらいか。騎士部門はどうしても貴族階級の関係があるのと、やはりレーツェルに対していい感情を持ってない人もいるので、基本、兵士部門の方で訓練をしているのだ。
まあ、13歳の小娘にぶっ倒されてへたにあるプライドがズタボロになった、という感情も大きいかもしれないが。
その点兵士部門の人達はただ強いということが条件なのでどちらかというとレーツェルは歓迎されている。
「……私の執務室に来るか?」
「そうしてくれると助かる」
とりあえず帰るのを保留して三人でアルフォンスの執務室に向かった。
執務室に入るとテオがいて、三人を見ると一瞬?となっていたが、何事もなかったかのようにお茶の準備に入って、椅子に座る頃にはお菓子とお茶を用意してくれた。
アルフォンスの向かいにカイル様が座り、もう当然のように私はアルフォンスの横に座らされました。
いいんでしょうか、と思っているとカイル様が
「レーツェルはあれから身体の方は大丈夫なのか?」
「……そういえばあの場にいらっしゃいましたね、カイル様」
「ああ、あの場にいた者には箝口令が引かれているから漏れてはないが」
なんともなさそうだな、良かった、とおっしゃってくださった。
カイル様は侯爵家の方だが、彼曰く三男坊で後継ぎとか関係ないから楽に育ったらしく、貴族社会特有の嫌な感じが一切ない。
ただ本当に強さだけで副総帥まで登り詰めた方だ。
だからレーツェルに対しても普通に接してくれる、どころか手合わせして欲しいとよく申し込まれる。
どちらかというと兵士部門的な考えの方だ。
「で、私とレーツェルに頼みたいことって」
何だ?とアルフォンスが尋ねる。
「まあレーツェルに頼みたいことなんだが、お前の許可がいるだろう?」
―――よくおわかりで。
話を聞いてから決めてくれてかまわない、とのことなので、とりあえずカイル様の話を聞くことに。
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