ドッペルゲンガー
「えっと、他には?」
「他ですか……小さくてすばしっこいです!!」
……。
同じじゃない?
あと、身長なのか、歳なのかが小さいと言うことはわかったけど。
「足の速さ以外では?他にないんですか?」
「……」
あっ、すごい悩んじゃった。
てか、足の速さ以外になんかないの?
良いところじゃなくても良いよ。見た目とかで全然良いんですけど。
ちょっとどんくさいとか面倒なやつだとか幸薄そうだとか。
あれ?これは良いところじゃないか。
「あー。そういうのでよければありますよ。無口でクールに見せかけて、ただあまり上手に喋れないとか、ちょっと常識はずれだったりもしますね。」
誉めなくてもよくなったら結構しゃべりますね、お姉さん。
しかも結構な言い様ですよ。
「そうなんですか。」
「あと、急になんだかよくわからない呪文を唱えることもありますね。」
「え、それって大丈夫なんですか?」
「特になにかが起こる訳でもないので大丈夫です。」
キラキラ笑顔でお姉さんは言い切ったけど、大丈夫に思えないんだが。
不安しかない回答に横にいたノアを見上げるとこちらもなんとも言えない顔をしていた。
お姉さんに断りをいれ、作戦会議である。
「どうします?」
「これと言って情報がないね。」
「これって、隠してるのか本気で言ってるのかどっちでしょう?」
「うーん。この人と話をしても特に有意義な時間が持てそうにない感じがする。」
「私もそう思います。」
こそこそと密談をして決定を下す。
これ以上は特に情報はないだろうと一旦切り上げることにした。
「ありがとうございました。またきます。」
「あら、そうですか?では、またのご利用をお待ちしております。」
スマイルゼロ円のお姉さんにお礼を言って店を出たとき、誰かが店の隣の路地に入って行くのがみえた。
「あれ?」
「どうしたの?」
「いや、気のせいだと思います。あいつがいるわけがないんだから。」
路地に入って行ったのが、知っている人に似ていたのだ。
しかし、あいつがこっちの世界にいるわけがない。
それに髪の毛の色も記憶のなかのあいつの髪色より明るかった。
世界には、そっくりな人が三人はいると言うぐらいだから、たぶん他人の空似だろう。
こんなファンタジーの世界で知り合いに会うなんて、恥ずかしすぎて死ねる。
それに、なんて言ったって私はあいつのことが大嫌いだから。